藤沢周

ブエノスアイレス午前零時    

ブエノスアイレス午前零時 2003年6月18日(水)
 「ブエノスアイレス午前零時」、「屋上」の2編からなる中篇集。ともに不本意な場所で不本意な仕事を続ける青年の、鬱屈した心理とカタストロフィーのようなものを描いている。「屋上」では、ショッピングセンターの屋上のプレイランドで勤務する青年が、一日同じ場所を動こうとしないポニーを解き放そうとする。「ブエノスアイレス」では、温泉旅館で温泉卵を茹で、主人の趣味で社交ダンスまでやらされる青年が、ダンスの団体客の盲目で耄碌した老婦人と、嫌悪と共感のなかでタンゴを踊って、瞬間ブエノスアイレスへトリップする。
 女性作家の場合は女性特有の生理的な部分が感じられることが多いが、男性作家の場合はこのような鬱屈した心理とそのカタストロフィーが描かれることが多い。それが、どこか身近に感じられて、逆にそれほど面白みは感じない。芥川受賞作、それほどでもという感じもある。