海老沢泰久

帰郷      

帰郷 2006年12月12日(火)
 「帰郷」:栃木県の自動車エンジン工場でエンジン組み立て係をしていた大田誠は、F1エンジンのメカニックに応募し、見事選抜される。仲間と共に世界中のサーキットを飛び回る3年間は、戦場にいるようだった。3年の出向期間が終り栃木の工場に帰ると、仕事中にサーキットでの経験を思い出したり、人にしゃべれば心の中のものが失われていくように思われたりして、無口になっていく。
 画家の妻が一人旅の旅先で行きずりの不倫をする「静かな生活」、野球の二軍チームで目をかけた選手が皆一軍に上がって去っていくスナックのママを描いた「夏の終りの風」、女を拒絶して川釣りに熱中する男が、目の前に女が現れるとときめきを抑えられなくなる「イブニング・ライズ」、他の男と同棲し、 別の友人に恋している女を探してさまよう若者を描いた「虚栗」。後の2つはこっけいなまでに惨めな男の姿だ。
 一見脈絡がなさそうだが、高揚とその後の虚脱感を描いた短編集。直木賞受賞作。