千葉雅也

デッドライン オーバーヒート    

デッドライン 2024年3月31日(日)
 「僕」は大学院でフランス現代思想を研究していて、修論のテーマは先生の奨めでドゥルーズにした。ゲイであることは家族にも友人にもカミングアウトしていて、ハッテン場を訪れては相手を物色している。物語は、研究テーマの考察と男を求める行為とゼミの友人や親友との交友が交互に繰り返される。修論の締め切りが近づくにつれて、ドゥルーズへの考察とゲイである自己への意識が次第に一つになっていく。
 おもしろいような、つまらないような、どちらにも読める感じがする。とりあえず、積読のままのフランス現代思想を読もうかなという気にはなった。一 度限りの肉体的な性行為だけで終わるゲイについては気持ち悪いとしか思えなかった。小説として違和感というか工夫というかわからないが、主人公の名前が「〇〇」と明かされず、親友だけが「K」としか表記されず、ゼミの友人「知子」については時々「知子」の視点で書かれるところに、不思議な印象を持った。野間文芸新人賞受賞作、芥川賞・三島賞候補作。作者は東京大学大学院博士課程修了の哲学者とのこと。

オーバーヒート 2024年11月26日( 火)
 僕は、十五年に及ぶ東京での学生時代を終え、大阪に移り住んで京都の私大に準教授として通っている。近所の喫茶店で原稿を書き、スマホでツイートし、行きつけのバーができて、同性の恋人もできた。故郷には友人たちがいて、LINEでつながっている。
 哲学者であり小説も書いている、そしてゲイであることをカミングアウトしている著者の私小説のようだ。大学、バー、ゲイの恋人、故郷の家族や友人、そういった日常を描いているのだが、何がどうという感想を特にもてない。作中「現代思想入門」を書き始めたとあるが、一緒に読むとデリダ、ドゥルーズの思想を倫理的な方向に展開しようとしているのかなと思える。ただ、ゲイのセックスにグロテスクな印象が残るだけだ。芥川賞候補作。川端康成文学賞受賞作「マジックミラー」もどうということないような気がする。