坂東眞砂子

山妣 曼荼羅道    

山妣 2003年9月27日(土)
 上下巻の大作で、物語の世界にすっかりはまり込んでしまった。越後の雪深い山里へ、村の山神への奉納芝居の指導のために東京の芝居小屋の役者が招かれた。美しい弟子の涼之助は、地主の跡取の嫁てると密かに会うようになり、奉納芝居をきっかけに物語は大きく動き出す。第二部は、鉱山町の遊郭の遊女君香と鉱夫文助、渡り又鬼重太郎の物語に変わり、第三部では山妣伝説や涼之助とてるの謎が明らかになり、妄想にとりつかれた地主の跡取の鍵蔵を中心に終幕へ向かっていく。
 映画「死国」を見た時は、単純すぎてばかばかしいと思ったが、この作品では、遊郭や芝居の世界、マタギや山棲み人の世界、越後の山里の暮らしが圧倒的なリアルさでダイナミックに描かれている。山妣とはやまんばのことだが、「やまはは」というタイトルになっている。だからラストシーンが印象的なのだ。ミステリー的に言えば、これがこの作品のキーである。すごい作家だ。直木賞受賞作。

曼荼羅道 2005年5月1日(日)
 麻史と静佳の夫婦は同じ食品会社の研究所に勤めていたが、ともにリストラで職を失い、麻史の故郷へ戻って家業の薬売りを手伝うことになる。祖父の蓮太郎が住んでいた隠居家で暮らすことになるが、その錬太郎は、戦前マレイ半島へ渡って仕事をしながら、現地の森の部族の娘サヤを現地妻としていた。
 物語は、麻史、静佳の現代と、サヤが蓮太郎をたずねて日本へ渡ってくる終戦時が並行して進んでいき、見つかった蓮太郎の帳面から麻史が「曼荼羅道」を訪れると、SF的な展開で過去と現代が交錯する。
 戦時下の狂気、日本軍の蛮行、さらに近未来を予想させる温暖化の末の人類の破滅といったことが背景として描かれているが、焦点はサヤの愛と憎悪、麻史と静佳の自己の目覚めということだろう。「山姥」もそうだった、きびしい時代や社会を背景に、土俗的な憎悪と愛を描いた力作だ。柴田錬三郎賞受賞作。