東浩紀

クォンタム・ファミリーズ      

クォンタム・ファミリーズ 2013年2月23日(土)
 二〇〇八年、売れない作家で大学准教授の葦船往人は、アメリカでテロ未遂の容疑で逮捕された。往人はその後失踪し、妻の大島友梨花児童文学作家として成功し、非営利団体を設立し、スクールを運営するようになった。往人は生んでいない未来の娘からメールを受け取り、誘われてアリゾナへ向かったのだった。約束の場所には誰もいず、見知らぬ少年からの電話のままに帰国すると、妻と娘と平穏な生活が待っていた。
 二〇一〇年代後半の量子回路を組み込んだコンピュータ社会で、ネットワーク上に奇妙な出来事が起こり、それが多数の「反現実」の島宇宙、並行世界の存在を表すものであることが分かってきた。別の並行世界の往人の娘風子、そしてまた別の並行世界の息子理樹が、それぞれの思惑で往人に接触していた。
 並行世界とタイムトリップを組み合わせた感じの、SFミステリー。ちょっと難解なのは、どの次元が基準か、どの世界にいるのか、入り組んでわかりづらくなるから。三島由紀夫賞受賞作。