あさのあつこ

バッテリー      

バッテリー 2004年3月16日(火)
 児童文学の名作が文庫化されたものだそうだ。主人公原田巧は、少年野球の天才的なピッチャー。父の転勤で、中学に上がる前の春休み両親の故郷に移り、祖父つまり母の父の家で暮らすことになる。父は電機メーカーの営業で何度も転勤して身体を壊してしまったし、弟の青波は生まれつき身体が弱くて母親はこの弟につきっきり。巧は、これが小学生?と思うぐらい野球を中心にすえた価値観を持っていて、はたから見たらいわゆるジコチューだし、あるいは冷徹な企業戦士を思わせて、非常に嫌なキャラクターだ。それがたまたま、母の親友の息子、やはり野球をやっている永倉豪と出会い、そのキャッチャーを絵に描いたような存在感や、繊細な青波の心に触れて、時々ふと温かいものを感じたりもする。
 あとがきを読むと、作者が書きたかったのは、実は友情、成長、闘争、そういった予定調和的な物語を拒んで、傲慢、脆弱、一途、繊細、・・・悪とか善とかに簡単に二分されないすべてを含んで屹立する一人の少年だったのだそうだ。傲慢な天才少年が友情や家族の愛にふれて、野球というチームプレーに目覚めて成長していく…といった単純な感動ストーリーではないということ。この作品は、むしろ豪や青波のキャラクターが魅力的で、巧はオイオイという感じで見てしまう。その辺が一つのリアリティかもしれない。