麻見和史

ヴェサリウスの柩      

ヴェサリウスの柩 2013年11月13日(水)
 幼いころの出来事をきっかけに遺体に興味を持つようになった深澤千紗都は、東都大学医学部園部芳雄教授の解剖学教室の助手を務めていた。解剖実習中、一つの遺体からチューブが出てきて、中には紙片が入っていて、そこには「園部よ 私は戻ってきた 今ここに物語は幕を開ける Kを咎めよ Tを罰せよ 最後におまえは沈黙するだろう」と書かれていた。千紗都は事務員の梶井に誘われるままに調査を始め、園部のライバルだった久世医師にたどり着くが、園部の恩師だった北元教授が殺害される。久世は自殺していたが、その息子がいるという。次のTは誰か、学内にいるはずの久世の息子は誰か。そして、千紗都にも危険が迫る。
 荒唐無稽なほどに遠大な復讐劇。そこまでするかと思うような異様な人物設定だが、それも本格ミステリーならではなのかもしれない。こいつがどこか変というのがやはりそうだった。ただ、なぜか積極的に調査にかかわる梶井の正体が少し疑問だ。鮎川哲也賞受賞作。