浅倉卓弥

四日間の奇蹟      

四日間の奇蹟 2004年4月14日(水)
 第1回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作というと、ミステリーの年間ベスト10か何かかと思ってしまうが、実は宝島社が作った新人発掘の文学賞。しかもこの作品は、いわゆるミステリーでもない。
 将来を嘱望されたピアニスト如月敬輔は、留学先のオーストリアで事件に巻き込まれ左の薬指を失う。その時如月が助けた少女が楠本千織。事件で両親を失い、如月にしがみついて離れなかった身寄りのない千織をつれて日本に戻り、家族とともに育てていくことになる。この千織は脳の障害で言葉が不自由なのだが、聴いた音を完全に再現する能力を持っており、ピアノを教えるとみるみる上達していく。そのうち、千織の訓練もかねて施設を慰問するようになる。そんなある日、次の目的地である療養センターへ着くと、そこから物語が動き始める。
 殺人事件が起こってその犯人とトリックを突き止めるのがミステリーなわけだが、この作品では殺人事件は起こらない。だから、千織の脳の謎をめぐって、療養センターとその本体である脳化学研究病院で何らかの暗闘があるのではと思っていたら、あっさりと期待を裏切られた。事故で演奏できなくなる演奏家というと「オルガニスト」、身寄りのない少女を育てるというと「雪の断章」なんかがあるが、この作品の「四日間の奇蹟」というのは超アイドルの主演で映画化された日本推理作家協会賞受賞作と同じ現象のことだ。3つもネタがかぶったのでは、帯にあるように癒しも涙もあったものではない。この部分が作品の核心だとしたら、この作品の主人公は誰でしょう、というのがミステリーの正体だ。
 とはいえ、非常に楽しく読めた。登場人物も魅力的だし、ピアノ曲の表現もすごい。