朝井リョウ

桐島、部活やめるってよ 何者 世界地図の下書き  

桐島、部活やめるってよ 2011年5月27日(日)
 バレー部のキャプテン桐島がやめるという。同じリベロの小泉風助は、顔には出せないが嬉しい。試合に出ると、頭の中では桐島よりうまくできていたはずなのに、身体が動かない。ブラスバンド部の沢島亜矢は男子のトップグループの竜汰が好きだが、女子のトップグループからはじかれた友達の志乃が気軽に呼び捨てているのがうらやましい。映画部の前田涼也はコンクールで受賞して学校で表彰されるが、目立たない人、下のグループにいることを自覚している。目立つ女子のグループにいるかすみとは、中学生の頃よく映画の話をしていた。ソフト部の宮部実果の友達の梨紗は目立つ子で、彼氏の孝介もイケメンだが、父と義理の姉が事故で亡くなった後、血のつながらない母が亡くなったカオリと呼ぶようになっていた。中学時代エースで4番だった菊池宏樹は、野球部の幽霊部員。人をランク付けして目立ったモン勝ちにしか考えられない彼女の沙奈をたまにかわいそうだと思う。聞こえるもの、見えるもの全てにイライラしている。
 かっこ良くて運動ができたり、きれいだったりしてクラスの中心にいるグループと、それ以外のグループに階層化された高校の群像劇。桐島が部活をやめることが影響を与えて行くなどと書いてあるが、リンクの部品になっているだけのこと。宮部実果と菊池宏樹のエピソードが印象的だ。小説すばる新人賞受賞作で、話題になったし映画化もされた。

何者 2015年7月21日(火)
 演劇をやっていた拓人、同居人でバンドでヴォーカルをしていた光太郎、アメリカに留学していた瑞月、拓人と光太郎の部屋の上の階に住んでいて瑞月の友人の理香は深山大学の学生で、就職活動を始める。拓人と一緒に活動していたギンジは独立して劇団を主宰している。理香と同棲している隆良は、文化人との交流にこだわっている。調子のいい光太郎は意外にも出版社の内定をもらい、瑞月も有名企業のエリア職で内定が出るが、拓人と理香はいつまでも内定をもらえない。
 5人で集まって就活などの話をしたりするが、その間にもSNSに書き込みをする異様さ。そして、最後のほうで表題の理由や5人の正体(というほどでもないが)明らかになるところは、ミステリー的でもある。就活を描いて話題になった直木賞受賞作だが、 就活よりは深い部分を書いている思ったより問題作だ。芥川賞でもよかったような気がする。

世界地図の下書き 2016年12月17日(土)
 両親を交通事故で失い、引き取られた伯父に虐待を受け、小学三年の太輔は青葉町の児童養護施設に入った。班ごとに大部屋に入るようになっていて、同じ班には中三の佐緒里、小二の美保子、小三の淳也と小一の麻利の兄妹がいた。佐緒里は両親が離婚し、弟が入院していた。美保子は大好きな母から暴力を受けていた。淳也と麻利の両親も亡くなっていて、二人とも学校でいじめにあっていた。太輔は佐緒里に母の面影を見、佐緒里は太輔を弟のように思っていた。そして月日がたち、佐緒里が施設を去る日が決まった。太輔は佐緒里のためにある計画を立てる。
 この作家、こんな小説も書けるんだと感心した。坪田譲二文学賞受賞作。 
 「私たちみたいな人が、どこかで絶対に待っている。…どんな道を選んでも、それが逃げ道だって言われるような道でも、その先に伸びる道の太さはこれまでと同じなの。同じだけの希望があるの。」