朝比奈あすか

憂鬱なハスビーン      

憂鬱なハスビーン 2010年12月21日(火)
 凛子は東大を出て外資系コンピュータ会社に就職し、今は弁護士の夫と4LDKのマンション暮らし。失業手当をもらうために行ったセミナー会場で、小学生の頃通っていた進学塾で常に成績一位だった男と再開する。その男は、「Has been」という言葉を持ち出した。「かつては何者かだったヤツ。そして、もう終わってしまったヤツ」
 輝かしいキャリアの陰で、凛子は適応障害で仕事がうまくいかず左遷されていた。日本有数の商社の取締役である夫の父と趣味の良い母に対して、実家はみすぼらしく両親はつまらない人間だ。優越感とは裏腹の劣等感。群像新人文学賞受賞作。
 「自分の中に何の指針もないことに気づいて、私は急に泣きたくなった。戻る道はないくせに、向こう岸には渡りたくない。新しい港を探す気力もない。なんて中途半端なんだろう、と。」