浅暮三文

石の中の蜘蛛      

石の中の蜘蛛 2005年5月10日(火)
 立花誠一は、楽器の修理の仕事のため契約しようとした防音マンションの前で車にはねられた。翌日には退院できたのだが、聴覚が異常に鋭敏になっていた。部屋を契約して移り住むと、前の住人の女性が書置きを残して失踪していることを知らされる。聴覚が鋭くなったせいで、次第に部屋に残された前の住人の音の痕跡が聞こえてきて、次第にその姿や生活が見えてくる。立花は、その失踪した女性に会いたいと思い、探し始める。
 途中まで読めば失踪の背景はわかってくるし、関係者に次々とたまたま行き当たるのも都合が良すぎる感じがする。立花が音の侵入に悩まされる幻覚のような症状を描く部分がわずらわしいが、これがないと音の痕跡から姿を探し出すということにリアリティがなくなってしまう。でも、見方を変えれば、これって超能力探偵ということになるのではないだろうか。これでは、何でもありになってしまう。日本推理作家協会賞受賞作なのだが、ちょっと。