有栖川有栖

マジックミラー 46番目の密室 朱色の研究 マレー鉄道の謎
女王国の城 虹果て村の秘密 乱鴉の島 闇の喇叭
江神二郎の洞察      

マジックミラー 2003年7月22日(火)
 この作品では、第1の殺人では大がかりな時刻表トリックが、第2の殺人では手の込んだアリバイトリックが仕掛けられている。もう一つのトリックは、この連続殺人事件の真相に関するもの。この辺は、読んでいると何となくそうではという感じがしてくるように書かれている。そして、最後にデザートがわりにたいして意味のないトリックが現れる。表題の「マジックミラー」が、いろんな意味でキーワードと言えるだろう。
 ミステリーの楽しみは、登場人物のキャラクターにもある。だからこそ、探偵シリーズを楽しみに読んだりする。しかし、この作品の登場人物には読んでいて魅力を感じない。そのせいだったのかと言えば、ネタバレになる。やはり、英都大学推理小説研究会シリーズ(?)が、青春ぽくて良かった。

46番目の密室 2004年1月4日(日)
 クリスマスイブの日、密室トリックの大家真壁聖一邸に懇意とする推理作家、編集者が招待される。2日目のクリスマスの夜、招待された各人の部屋に奇妙ないたずらがしてあり、深夜密室となった書斎で身元不明の死体が発見され、さらに同じように密室となった地下の書庫で真壁聖一の死体が発見される。
 招待されていた推理作家有栖川有栖と友人の犯罪学者火村英生が、警察に協力しながら事件の謎に迫る。有栖川有栖の推理の特徴は、犯行の動機や方法以前に、アリバイから犯人はこの人物以外にはありえないと絞り込んでいく過程にあるようだ。だから、この作品の場合、動機的にそうかなと推測することは可能だが、最後に犯人が真の動機を明らかすると驚かされる。過去のいろんな状況も明らかになるが、その中には単なる引っ掛けもあるし。
 それにしても、学生アリスに火村という友人がいたかな。物語の中に「双頭の悪魔」の話が出ていたりしておもしろいし、次は警察関係者が犯人になると指摘されたもう一人の推理作家のモデルは誰なんだろう。

朱色の研究 2004年6月16日(水)
 英都大学で犯罪社会学のゼミを担当している火村英生助教授は、ゼミの学生貴島朱美から2年前の殺人事件の調査を依頼される。殺されたのは、両親を事故で失った朱美が世話になっている伯母の宗像家でピアノを教えていた大野夕雨子。火村が調査を開始して、朱美の従兄の正明の話を聞き、たまたまその近所に住んでいる友人で推理作家の有栖川有栖のマンションに泊まった翌朝、正明のマンションに行くようにとの電話が入る。指示通りマンションを訪れて指定された部屋へ行くと、そこには死体が横たわっていた。それは正明の母真知の弟山内陽平だった。マンションへ行く途中すれ違った人物を調査すると、それは正明の友人六人部四郎だった。名前が挙がってくる人物は、皆2年前の事件が起こった周参見の別荘にいた人物。こうして2つの事件がつながった。「朱色の研究」とはもちろん、コナン・ドイルの「緋色の研究」のもじり。
 有栖川有栖の推理の特徴は、アリバイを検討し直して緻密な時刻表を作り、ちょっとした徴からその盲点を見つけ、彼以外に犯人はありえないという結論を導き出すところにある。動機は想像の範囲でしかないし、決定的な証拠というものもない。この辺が弱いところかなという感じもするが、結局文学的に解決してしまう。この作品でどうしても犯人を当てたければ、プロローグを最後までしっかり覚えておくことだ。

マレー鉄道の謎 2005年8月17日(水)
 学生時代の留学生大龍に招かれて、犯罪学者火村と推理作家有栖川は、マレーシアの避暑地キャメロン・ハイランドを訪れる。ちょっとしたきっかけで知り合った現地の実業家百瀬邸を訪れると、その庭に置いてあるトレーラーハウスの中で血痕を発見する。ドアや窓にすべて内側からテープを目張りした密室状態だった。殺されていたワンフーは百瀬家に勤めるメイド、シャリファーの兄で、日本人バックパッカー津久井ともめていた。ワンフーの恋人瑞穂の父は、数日前のマレー鉄道の事故で亡くなったばかりだった。「あとがき」に「マレー鉄道の謎」といっても、マレー鉄道の列車内で連続殺人が起きるわけではない、絵ラリー・クイーンの国名シリーズも、題名と内容がぴたりと一致していない場合が少なくない、と言い訳しているが・・・。
 久し振りに、本格ミステリーらしい大人げない手品的トリックでおもしろかった。日本推理作家協会賞受賞作。

女王国の城 2012年1月5日(土)
 姿を消した部長の江神を追って、英都大学推理小説研究会のアリスとマリア、織田、望月の4人は、木曾山中の神倉にある宗教団体人類協会へ向かった。本部を訪ねると、瞑想中で七十三時間後まで会えないということだった。宿に戻ると、協会から事情が変わったので会えることになったと電話があり、本部に招かれると殺人事件が起こる。会祖が宇宙人と会ったという聖洞の入口の待機室で見守り役の会務員が殺され、監視のビデオテープが持ち去られていた。協会は警察には連絡せず、独自に調査するという。そして、銃殺事件が2件続いて起こる。使われた拳銃は、かつてこの地で起こった事件で使われたものだった。
 久し振りの江神・アリスシリーズ。 このシリーズの場合、怪しい人物とか考えられる動機といったことより、アリバイなどの条件を綿密に組み合わせて可能性のある人物を絞り込んでいくという手法がとられている。こんな感じかなというところまでは想像できた。本格ミステリ大賞受賞作。

虹果て村の秘密 2013年8月22日(木)
 父が刑事で夢は推理作家の上月秀介、母が推理作家で夢は刑事という二宮優希。夏休み、小学生の二人は虹果て村にある優希の母の生家を訪れた。母のミサトは講演会で九州へ行っており、いとこの藤沢明日香が面倒を見ることになっていた。虹果て村では高速道路建設を巡って反対派、賛成派が対立しており、反対派で郷土史家の笹本が密室状態で殺害された。豪雨で道が崩れて警察は入れず、たまたま実家を訪れていた県警の刑事島谷光が駐在の小室と関係者に事情聴取をした。優希と秀介は現場に出かけて、こっそり捜査しようとする。
 小学生探偵が見事にアリバイトリックを解決するジュブナイル・ミステリー。アリバイからアプローチするところが有栖川有栖らしいジュブナイル・ミステリー。 村の伝説あり、閉ざされた孤島あり、密室ありでおもしろかった。

乱鴉の島 2014年5月11日(日)
 犯罪社会学者の火村英生は、下宿のおばあさんの勧めで、推理作家の有栖川有栖と一緒に、三重の島にある民宿へ向かう。しかし、着いた島には民宿はなかった。鳥島を烏島と取り違えていたのだった。烏島には三角屋根の屋敷があり、そこは著名な詩人、作家、英米文学者、海老原瞬の別荘で、クローン人間を研究していた藤井継介を始めとした海老原のファンだという男女と拓海、鮎という二人の子供が招待されていた。帰りの便がないということで火村たちは宿泊を許されたが、そこにヘリコプターでITの辣腕起業家、初芝真路が降り立った。初芝は、藤井に自分のクローンを作ってもらうというのだった。そして、初芝が用意した家で、海老原の別荘の管理人木崎の死体が発見され、初芝が犯人かと警戒していたが、その初芝も海岸の崖の下で死体で見つかった。携帯は圏外で、電話線も何者かによって切断されていた。火村は、屋敷の集まりの目的やアリバイの捜査を始める。
 絶海の孤島ミステリーだが、微妙に違う。集まりの目的や、子供たちの存在も謎の一つだが、犯人は例によってアリバイの絞り込みだけから推理され、その動機はいろいろななぞとは全く無関係のものだった。その辺があっけない。

闇の喇叭 2015年5月12日(火)
 現実の歴史と微妙にずれて、戦後ソヴィエト領となった独立した北海道と日本が対立する中、日本では徴兵制が敷かれ、方言や探偵行為が禁止されていた。多岐野という地方都市の女子高生、空閑純は元私立探偵の父と、失踪した母の帰りを待つため、母の実家に移り住んでいた。ある日、見知らぬ若い男性の死体が見つかり、北のスパイが疑われて中央警察の刑事が派遣されてきたが、死体の身元は不明のままだった。そんな中、スパイ捜しをしていた男が殺された。純の友人景以子の母に疑いがかかり、純は事件の謎に挑む。
 舞台がもう一つのありえた日本でなくてもいいかもしれないが、探偵が禁止されている中で秘密裏に捜査や推理をするという設定のためには必要なのかもしれない。犯行トリック、アリバイトリックは、新本格派らしいありえないほどの作り物だが、魅力的な青春ミステリーだった。純のその後、失踪した母の謎とかは次が楽しみになるが、やはりシリーズ化された。

江神二郎の洞察 2017年9月9日(土)
 「瑠璃荘事件」:推理研の望月先輩の下宿で借りたノートがなくなるという事件があり、望月が疑われる。推理研のメンバーは汚名を晴らすべく、犯人探しを始める。
 「やけた線路上の死体」:夏休み、和歌山の望月先輩の実家で過ごすことになるが、鉄道で轢死事故があり、殺人事件らしいのでメンバーは現場を見に行く。
 「蕩尽に関する一考察」:望月先輩が、よく行く書店で本をもらったという。噂だと、店を安値で売りに出し、スナックで椀飯振舞したり、寄付したりしているという。隣家とは長年もめ事があるのだという。いろいろ推理するが、飽きた頃江神先輩が調査を始めた。
 江神二郎シリーズの短編集。英都大学推理小説研究会にアリスが入部して、翌年マリアが入部するまでの事件やエピソードが描かれている。 他に、「ハード・ロック・ラバーズ・オンリー」、「桜川のオフィーリア」、「四分間では短すぎる」、「開かずの間の怪」、「二十世紀的誘拐」、「除夜を歩く」を収録。日常の謎解きミステリー的な作品が多い。