赤坂真理

ヴァイブレータ ミューズ 東京プリズン  

ヴァイブレータ 2003年11月5日(水)
 主人公は、編集者、ルポライターとして、人の言葉を集めてカットしてストーリーを作り上げている。アル中で、過食嘔吐癖があり、自分の中のもう一つの声に苛立っている。感情の沸き起こるままにそのまま書き連ねたような文体が特徴的だ。コンビニで見かけた若い男に「食べたい」と感じ、長距離トラック運転手のその男と一緒に東京、新潟間を2往復する。旅をする間に、小学生の頃教師のせいで場面緘黙症になり、自分を守るためにもう一つの声を作り出していたのだったと思い出す。
 見ず知らずの女あしらいのうまい男とトラックの上で付き合って、そして最後に回復しているというのが唐突な感じもする。女性作家のセックス描写はグロテスクで気持ち悪い。女性の肉体−精神−感覚の三位一体構造は理解しがたい。不機嫌でわがままで快楽的と言ってしまえばそれまでという感じもする。

ミューズ 2005年7月1日(金)
 美緒はモデルやタレントの仕事をしている女子高生。さらに上を目指すため歯の矯正に通い出し、その歯科医を誘惑する。
 高級住宅地の成城と崖線の下の住居という空間感覚、新興宗教の教祖である母と、神の子としての儀式に失敗した過去のトラウマ、女子高生の風俗などが描かれていて、読んでいてギラリとする表現も多いのだが、あくまでも芝居の書割や小道具のようなものでしかない。描きたいのは女性の皮膚感覚のようなもので、だからこそ女性の共感を得られるのだろう。逆に、興味が持てない。
 野間文芸新人賞受賞作。この作家は、何度も芥川賞候補になっていたんだ。

東京プリズン 2014年10月21日(火)
 四十代半ばの私が受話器を取ると、話しているのは十五歳の私だった。私は学校になじめず、アメリカ、メイン州に留学させられていた。英語力の問題で一級下に落とされていた私に、全校生徒の前で日本について発表することで元の級に戻れるという条件が提示された。そして、その内容は「アメリカン・ガバメント」担当の教師により、天皇の戦争責任についてディベートするというものに変えられてしまった。戦後までたどり着くことのない日本の歴史教育でまったく無知だった私は、東京裁判について学んでいく。
 30年ほど前アメリカに留学した少女の視点で、幻想の狭間から日本の戦後を直視した話題作。毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞受賞作。