愛川晶

巫女の館の密室 六月六日生まれの天使 化身  

巫女の館の密室 2010年2月8日(月)
 桐野義太は、宮城県警黒岩署の刑事。先輩の元名刑事根津信三を頻繁に訪ねて捜査のアドバイスをもらっているが、最近なぜか不在で、代わりに娘の愛が事件を解決してくれる。密かに『美少女代理探偵』と呼ばれている。その愛の美術部の友人、樫村愉美の奥会津の別荘を訪ねることになった。そこには、愉美の父樫村千春が裏山の中腹をくりぬいて建てた日輪館という離れがあり、十年前、その密室の中で千春の死体が発見されていた。過去の密室殺人事件の謎を探る中、愛が失踪し、愉美の祖父龍造が殺された。
 龍造はタワンティンスーユ(インカ帝国)の専門家で、千春はその弟子だった。[フロッピーディスク]というタワンティンスーユの少女の物語と[ハードディスク]という人形作りの手記が並行して進んでいき、余計興味がそそられる。「ミステリー史上初のトリック」、「前代未聞の動機」というのは、わかってしまえば何だという感じだが、探偵もの、本格ミステリーはやはりおもしろい。「美少女代理探偵の事件簿」シリーズ。

六月六日生まれの天使 2010年9月23日(木)
 目が覚めるととベッドの上で彼とつながったままだった。しばらくして、ここがどこかわからない、彼が誰だかわからないことに気づく。その彼はなぜか仮面を被っている。そして、頭に全裸の男性の脇腹を刺している映像が浮かぶ。逃げ出さなければと思うが、どこへ行っていかわからない。自分が誰かもわからなくなっていた。
 <彼>は脳に障害があって記憶を短い時間しか保持できず、<私>はその補助者であることがわかってくる。そして、間に記憶を持っていた時の<私>のストーリーが挿入されるのでだいたい事情はわかってくるのだが、ではどう展開していくんだろうと思って読んでいると、意外な結果で終わってしまう。まったくわけがわからない。帯には「読み終えたあと、必ずもう一回読みたくなります。」と書いてあった。当たり前だ、読み返さなければわけがわからない。わかったのは、記憶を失った<私>と記憶のある<私>は別人だということ。<私>が入れ替わっているのはアンフェアだと思う。

化身 2011年1月29日(土)
 人見操の母は中学の時癌で亡くなり、父は去年事故で亡くなって、今は塩竈にある実家を離れて一人東京の大学へ通っている。操には一歳の時事故で亡くなった小枝という姉もいた。ある日差出人不明の封筒が届き、中には保育園らしい写真と不思議な絵の写真が入っていた。保育園の写真には胸を締めつけられるような感情を、絵の写真には今日をを感じた。サークルの友人秋子の発案で、サークルの先輩坂崎に調べてもらうことになる。坂崎はその保育園を突き止め、訪ねるとそこでは、十九年前桑野珠恵という赤ちゃんが操の生まれた月に誘拐されていた。戸籍謄本を調べると、操の両親は何度も転籍を繰り返していた。自分は桑野珠恵で、両親が誘拐犯?操の疑惑は深まる。
 戸籍のトリック、インドの宗教画の謎というのは、実はたいして意味がなくて、ポイントは誘拐事件と姉の小枝の事故死。あっさり片付いてしまうのかと思っていたら、やはり意外などんでん返しがあった。鮎川哲也賞受賞作。