安達千夏

あなたがほしい je te veux　2007年3月16日(金)

　大手住宅会社に勤めるカナは、建築家の小田と付き合っている。セックスはするが、愛人でもセックスフレンドでもなく、大切な友人だ。だが、心の中で求めているのは、ベルギーに留学中の留美だ。しかし、求めて拒絶されることへの不安と、彼女を侮辱することへの嫌悪感がそれをとどめている。母が父にレイプされて生まれたという不毛な家庭に育ったカナは、男を愛したり、家庭に憧れることができない。それでいて、家庭を象徴する住宅を内心侮蔑しながら売っている。
　濃厚なセックス描写と住宅営業のリアルなドキュメントが妙にアンバランスな印象を与えるが、カナがベルギーへ旅立つ印象はすがすがしい。心の変化が唐突で何の説明もないが、それはそれでいいのかもしれない。すばる文学賞受賞作。