いつもと同じ時間。
いつもと同じ通学路。
いつもと同じ雑踏の中。
ふと、空を見上げてみた。
高く青く、澄んだ空。
雲ひとつない、とまではいかないが、とても澄んだ空だった。
何年ぶりくらいだろうか。
こんなにもきれいな空を見るのは。
立ち止まり、思い返してみる。
後ろから人とぶつかるが、お互い言葉もないままに距離は離れていく。
どこかで見た横顔。
もしかしたクラスメイトだったのかもしれない――名前を思い出すことはできないが。
誰にもぶつからないように道の端に移動し、ゆっくりと空を見る。
「この空を見上げている間に、いったいいくつの叶えられたはずの夢が消えてしまっているのだろうか」
誰かが言った、誰かに聞いた言葉。
あれは誰の言葉だっただろうか。
今となってはもう思い出すこともできない。
夢。
夢……
夢……――
そういえば、私の夢は何のだろうか?
子供のころには何か、とても大きな夢があったような気がするのに……
今の私の胸の中は、ぽっかりと大きな穴が開いて、
空ろ。
何もない。
何もない。
不安になる。
心が、縛り付けられて、痛い。
何に? 何に縛られて?
胸をおさえ、こみ上げてくる吐き気をこらえる。
苦しむ私が見えないかのように、ただ前だけを見て歩いていく集団。
表情もなく、笑い声どころか言葉すらない。
まるでロボットの行進だ……
ワタシモソノナカノヒトツ
違う! 私は……!
私は……
私は――誰?
自分の名前が思い出せない。
ロボットの雑踏だけが響く。
――ああ。
思い出した。
私の名前――
私は 19860822f kanan-hikawa hfgbjkig-jp
管理された一個のニンゲン。
その瞬間、私の意識は闇へと落ちる。
――一歩を踏み出し、歩きだす。
私の足音は雑踏の中に溶けていく……
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