少女は窓の外を見ていた。
清潔、というよりは病的に白に染められた部屋とは対照的に、外の世界は極彩色にあふれている。
「今日はいい天気……」
部屋の色よりもなお白く、細い腕で風に吹かれる髪を押さえながら、少女はつぶやいた。
風は初夏の匂いと、楽しそうな子供たちのはしゃぎ声を運び、太陽の光は眠気を誘う。
外を眺めるうちに、少女は眠気を受け入れ、風の運ぶ音を子守唄に窓辺に伏した。
眠り、見る夢は、いつのころのことだろうか。
少女は制服を着て、桜の舞う校庭を歩いていた。
隣には少女と瓜二つと言っていいほどに似た少女が並んで歩いている。
二人はこれから始まるであろう楽しい高校生活の未来予想図を語り合っていた。
ゆっくりと歩く二人のそばを、真新しい制服を着た人の波が過ぎてゆく。
そのすれ違う一人一人が、もしかしたら、クラスメイトになるのかもしれないと思うと、少女たちの胸は否応にも高まってしまう。
「あ……」
一際大きく、少女の胸が鼓動した。
流れてゆく人の中で一瞬通り過ぎたその横顔に、少女は目を奪われ、思わず足を止めた。
「あの……!」
少女の呼びかけに少年は立ち止まり、ゆっくりと後ろを振り返り――
――少女の夢はそこで途切れる。
気がつけば、少女はぼーっと子供たちがはしゃぎまわる公園を眺めていた。
私……いつまでここにいればいいのかな……?
夢から覚め、微睡む意識の中で、少女は思う。
少女が、この部屋に連れてこられてからもう二年以上が経っていた。
部屋に縛られているわけではないのだが、それでも、少女の行動範囲は部屋を孕む白い建物と、それを有する狭い敷地から出ることを許されていなかった。
今、眼の前にある日のあたる公園でさえも、少女にとっては手の届かない外の世界なのだ。
夢と現実との境界線がはっきりとしてくるにつれて、夢の中の少年の顔が少女の胸の中に広がっていく。
「会いたいなぁ……」
募る想いを言葉にしてみても叶わないと知りながら、それでも少女はつぶやく。
愛しい人を思い出して何度ため息をついただろうか。
少女は公園のベンチに誰かが座っていることに気がついた。
「え……?」
一瞬、夢の続きを見ているのかと、自分の目を疑った。
そこにいたのは、あの少年だったのだ。
初めて会ったあの日、思わず声をかけてしまったのと同じように、少女は無意識のうちに部屋を飛び出してしまっていた。