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■ 生命を吹き込む

 2001.9.11 全世界が一瞬にして凍りついたあの同時多発テロ事件、目を疑いたくなるような数々の映像、"映画のワンシーンのよう"と形容されていたように、まさしく私たちの常識の範囲をはるかに超えた悲劇が今そこにある。私は、スウェーデンのイエテボリでこの事件を知ったが、北欧の穏やかな時間の流れとは別の世界が広がっていた。WTCが一瞬にして瓦礫の山と化し多くの人々が犠牲となり、破壊された物質のエネルギー以上に人々に残された心へのダメージは計り知れないものがあろう。
私たちは、建築という懐の深い分野で仕事をし、その中で社会と多くの時間かかわりあいを持っている。新しいものであれ、古いものに手を加えていくことであれ、様々なプロセスを試行錯誤しながら創造し形づくり生命を誕生させる。より自分のイメージに近い空間や形であることは最大の喜びではあるが、それ以上に、そこで生活する人や利用する人、人の目に触れたりするものが、より生き生きし充実感を感じられることが大切なのだ。
北欧の旅で予期せぬハプニングにも見舞われたが、風土や文化の違いはあるにせよ目の前に広がる風景はとても懐かしく心を落ち着かせてくれた。古いものと新しい物との共存、その接点のしなやかさ、自然との調和や時間を超えた空間の中に新しい生命を吹き込むタイミングの良さ、さらには細かなところまで気配りされているデザイン等、物を形づくることの大切さ、難しさ、喜び、意味などを感じずにはいられなかった。
わが国は住宅品質確保法の制定により大きな転換期を迎えたが、木造建築の匠の技はどのように受け継がれていくのだろうか。確かに時代の流れや社会的背景などにより、考え方や技術は進化していくものだが、その国や地域の文化・歴史を受け伝えていくことも忘れてはいけない。
あの同時多発テロにどのような政治的メッセージが込められていたのかは今だ知るすべもないが、あの一瞬にして破壊されたツインタワーの残骸を思い出すたびに、人間の愚かさや身勝手さを痛感する。


■ サスティナブル建築への道

 ここ数年来、住まいづくりやまちづくりのテーマの中に「環境」という文字が頻繁に見られるように、一般市民の意識も高まっている。現在、地球温暖化への要因の四割は建築の生産から施工、運用、廃棄にいたるライフサイクルのCO2排出によるもので占められている事実がある。
 今、私たちは、本当に必要なものかそうでないかを見極め、ライフサイクル、特に消費エネルギーを大幅に低減し自然エネルギーや未使用のエネルギーを活用していく都市、建築に転換していく努力をしなくてはいけない。したがって、設計段階からリサイクルやリユースを視野に入れた材料の選定やモデュールの決定が大切であり、設計者と施工者の連携を図りながらクライアントの理解を得ることにより、より効果的な循環型社会を形成することが出来るのである。
 昨今、インターネットの普及で考え方や視点がグローバル化し距離も時間も短縮されているように錯覚しがちだが、マクロな問題も根源は自分の足元から世界につながっていることを認識し、昔も今もこれからもずっと創造し破壊してゆくのは人間であることを忘れていけない。


■ 子どもたちへの継承

 私たち人類はこれから何処に向かって歩んでいくのか、歩み始めているのか、ふと不安に感じることがある。確かに環境問題が重要なことは誰もが認識しているが、あまりにもテーマが大きく何をどのようにすることにより何処がどう変化していくのか具体的に感じることが出来ず、そのために行動意識を鈍らせている様な気がする。再度認識しなくてはいけないことは、一般の人々にどの様なメッセージを発信し社会と共にアクティブに様々な問題に対し取り組んで行けるのかを考えていくことではないか。生活のリズムを考え、コミュニティとの連携を図り、まちなみや景観、そこに広がる風景が自分たちの生活の中でどの様にかかわりあい価値のあるものなのかを提案し、次の世代へと少しでもクォリティの高いものを確実に伝えていくことにより、建築本来の目的である資産保護、継承に値する環境の整備が出来るはずである。建築は常に継続的であり循環をしながら進化していくことが大切であり、創造と破壊を繰り返すことにより満足させられるものではない。そのためにも自分達の住んでいる町や地域を知り、いつまでも愛し続けるためにはどうしたらよいのかをみんなで考えていくことが大切である。
 旭川の厳しい冬、ナナカマドの木々に数々の電球をちりばめ長く厳しい冬の夜に彩りを与えてくれ、市民や観光客に喜びを感じさせてくれている。しかし一方で、"木がかわいそう、やめてください"と訴える子どもがいることに耳をかたむけてあげなくてはいけないし、この子どもの感性を大切にしていかないといけない。


■ ・・・らしさ

先日、第5回三浦綾子作文賞の発表が新聞に掲載されていた。 小学生の部で見事、最優秀賞に輝いたのは「祖父から聞いた話」という大正時代に開拓のため北海道に移住したおじいちゃんが、まだ子供の頃に体験した思い出話をつづった作品である。北海道を開拓した人たちへの感謝の気持ちと、つらく悲しい思いをした炭鉱労働者たちのことを祖父から聞いたように将来、自分の子どもへも伝えていきたいという決意の強さが光った素晴らしい作品だった。
 私は毎日の生活の中で建築を通し社会と関わる時間が当然のことながら多く、忙しさを理由に前ばかりを見つめ、後ろを振り返ることをなかなかしようとしない。 先人より受け継いできたこの雄大な大雪のふもとで、形、色、空間、光、風、水など旭川らしさ、自分らしさをどれだけ表現することでき、未来を担う子供たちへ建築という言葉を通しメッセージを伝え感動を与えることが本当にできているのだろうか?ふと子供に教えられたような気がした。





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