生き残るには・・・

それは真夜中の、あるパーキングから始まる。
頭上の高速から、十数台の暴走族がいつものメロディを奏でながらゆっくりと移動しているのが 伝わってくる。
ここは昔からチューニングマシンが集まるスポット。
今日も、皆が自慢のマシンを駆ってくるが、昔に比べればしぼむように減少している。
それでも10台位が集まっている。

そして、オレは今日も一人だ。マジに走る時は、一人の方が好きだ。
以前は数台でつるむこともあったが、みんな結婚したり、情熱が無くなったりして降りていった。
そして、仲間と走っている時に、いつも「何か違う」と感じていた。

仲間と一緒だと心強いとか、なかには仲間と一緒でなければ楽しくない、と言うヤツもいる。
また、何かあった時には助け合える、とか言うヤツもいる。
確かに、ある一面はそうかもしれない。
流して走る時はそれでもいいと思う。
でも、所詮は何かあった時には、自分一人で償わないと、同じ過ちを繰り返すような気がする。
うまく言えないが、「生き残れた」、せっかくの経験が仲間に助けられると薄れてしまうように 感じる。
苦しまないと身につかない ・ ・ ・ そしてラッキーは、二度は続かないだろう。

オレは真剣に走るときに、仲間が足かせになる気持ちが強い。
それは、マシンの差とか、技術の違いを言っているのではない。
つるんで走ると、見栄が働くこともある。
ラインが交差して、危険な思いをしたこともある。
もしもからんだら、と思う、どこかセーブしている自分がいる。
もしかしたら、本当に信頼し合える仲間に出会っていなかったのかもしれない。
少しでも危険な要因は、回避したいと考えている。
たぶん、自分は臆病な人間なんだと思う。
だから、オレは一人で走る。

「そろそろ時間だ」心地よいアイドリングから軽くレーシングしてみる。
「クゥオオ〜ン、バッ、バッ、シュウ〜ン」3台のマシンが 本線へと続くのぼりを、ウエイストゲートを響かせながら全開で駆け上がっていった。
「チッ、先に行かれたか!」奴らのマシンは、おそらく7〜800馬力は出ているだろう。
ハイチューンされた2JやRBの音色は、なんど聞いても気持ちいい。
その中にピカピカに磨かれた銀色の80スープラもいた。

アイドリングでクラッチをつなぐ。
オレは高ぶる気持ちを抑えて、ゆっくりと上がるのが好きだ。
マシンからの声に全神経を傾ける。
本線に合流するまで、ゆっくり加速して行く。1速4000回転、2速5000、3速へとゆっくり とシフトアップ、ジワリとアクセルを踏み込んで行く。
そのころには、先ほど駆け上がったマシン達は、はるか彼方に消え入りそうになっていた。
「オールクリーンだ!」、4速から全開、「ギャギャギャーー」ミツビシ製タービン特有の 金属音が高まり、いっきにシートに押し付けられる。
4000回転、5000、7000、メーターを確認、水温85℃、ブースト1.15キロ、追加 インジェクターも正常に吹いている。
油温は少し低めだが良好だ。
みるみる速度が上がり、ネオンが後ろに飛んでいく。
5速にシフトアップするが、ワイドレシオのおかげで、息の長い加速が続く。
この透き通るように回るエンジンには、いつも感動させられる。
綺麗に吹け上がるエンジン音に混ざって、リアからはいつものように、「ギシギシ」と きしみ音が響いてくる。
何度聞いてもいやな音だが、かまわずアクセルを床まで踏み込む。
オレのマシンはギヤ比を変えた高速クルージングマシン。ここでしか楽しく走れない。
ここを走るために、たび重なる仕様変更を繰り返し、10年もたってしまった。

吠えるエンジン、視野が狭まる、オレはこの瞬間がたまらない。脳内麻薬が吹き出してくる。
この辺りは、ワダチに取られるといっきに2車線くらい飛ばされる。
しっかりとステアリングを押さえ込みながら左右にステアする。
タコメーターはすでに6700を指している。「あと800回せば大台だ!」
ここからレブリミットまでが空気の壁との戦いだ。 7000、7200と回していく。
大きな右コーナーが迫ってくる。普段は鼻歌交じりだが、このスピードだと壁のように 立ちはだかる。いっきに緊張が高まる。
ここは、アクセルハーフのアウト・イン・アウトで抜ける超高速コーナー。
できれば、パンクを避けるため路肩は使いたくないが ・ ・ ・
アウトから丁寧に、インへのラインにかぶせていく。
息を一瞬止めてゆっくりステア。 「よし、イメージどおりだ!」ここで恐怖に負けて、切り過ぎるとグリップを失い、アンダーで 曲がれない。
運が悪ければ、そのままスピンモードで、確実に全損だ。 エンジン音にスキール音が混ざる。
コブシ2つにも満たないステア、「ギ、ギシ、ギシッ」強烈な横Gにシートがきしみ、体が もって行かれる。左足に力が入る!!
「ギュゥオオオゥー」タイヤが歪むのがわかる。いっきにロールしながらボディがねじれる。
イン側の壁がいっきに迫る。「ビュビャオウゥー」側壁をかすめる風きり音だ! オレには地獄の雄たけびに聞こえる。
しかし一瞬でアウトに飛び出す。横Gに耐え、ステアを修正しながらアクセル全開へ。
今度はアウト側の側壁が迫る。でも、決して見てはいけない。視線は常に脱出方向へ。
あと何メートルで接触するか、迫る側壁を感じながら、ステアを修正する。
8m、5m、2m、高まる風きり音でどこまで近づくか、感じ取らなければいけない。
リアがブレークするギリギリのところを修正する。絶妙なステアだ!
ここからまたマシンの限界に挑戦だ。さらにアクセルを踏みなおす。

しかし、次の瞬間我が目を疑った! 無数のハザードだ!!「激突まで数100m!!」
「や、やばい!」、オレは床が抜けるほどブレーキペダルを踏み込んだ。
「ギュゥムッ、ギュギュギュー」超高速からのフルブレーキング!!ベルトが肩に食い込む!!
しかし明らかにブレーキがスピードに負けている。滑るようにまったく減速しない。
ムチャな減速だ、「リアがブレークする!」、その瞬間、踏力を緩めてから、また踏みなおした。
「しくじった!!距離が伸びちまう!!」
なんとかマシンは安定したが、ステアはぶれないようにしっかり抑える。
「ウオン・・・ウオン」火を噴くマフラー。3速までシフトダウンしたところで、ガツンと後ろに引っ張られるようにスピードが 落ちてきた。それでも140キロオーバーだ!ベルトがさらに食い込む。
横には逃げられない。路肩にも点滅している。
「距離が足りない!」みるみるうちに点滅が近づいてくる。
「ぶッ、ぶつかる」口から心臓が飛び出しそうだ!
あと50m、30m、10m ・ ・ ・ 「ガシャーンッ、バッババババ、 ギュキュキキィーー」

「くッ、ふうぅ、」思わずうなってしまった。
テールが目の前だ、2mもない!
ぶつかると思った瞬間、とっさに道路を斜めに使って、距離を稼いだのが成功した!!
路面に目を落とすと、数分前まで機能していたであろうパーツが、鉄クズとなってあたり一面に 飛散している。
2〜3台のバイクも転がっていた。
「そうか、さっきの音は、こいつを踏んだのか!」
バイクとおぼしき鉄の固まりが、かたわらにあった。
飛散したタンクやフロント・フォークを見なければ、多分わからなかっただろう。
「ライダーは ・ ・ ・、どうなった・の・か?」普通に考えると ・ ・ ・
先ほど本線に駆け上がった3台もいた。2台は路肩にいる。
しかし、80スープラのFRPのボンネットは砕け散り、パイピングが飛び出している。バンパーは ・ ・ ・ 無い。
キズひとつないリア・パートが、逆に虚しさを誘う。
あれでは、エンジンまでいっているだろう ・ ・ ・
ガラス越しに人影が見える。「あれは、女・・の子・・・?」、うな垂れていて、よく見えない。
先を見ると族ッぽいのと、おそらく、ドライバー?だろう。言い争っている。
そうなのである。暴走族の固まりに80が突っ込んだのだ!!

状況はすぐ分かった、そして腹が立った。
仲間の2台は、乗ったまま傍観しているだけだ。
このままでは、2次被害が起きることは目に見えていた。
「ギャ、ギャ、ギュウキーーー」爆音に振り返ると、目の前を水平対向独特の 音をたててオレの横に飛び込んできた。
タイヤスモークを吐きながら止まったそれは、良く見かける964のターボだった。
彼も、先ほどのオレと同じ顔をしている。

バックして発炎筒を炊いて戻ってくると、例の2台にちょうど族の一人が、近寄っていくのが見えた。
「えっ!!」、2台は爆音を響かせて走り去ってしまった!!80スープラを残して ・ ・ ・
「なっ、なんということだ ・ ・ ・」オレは呆然とした。


「オ・レ・タ・チ・ハ・ゼ・ツ・メ・ツ・ス・ル・ナ・・・」思わずつぶやいていた。
ハイワットバルブに照らされた鉄くずが、虚しく浮かび上がっていた・・・・


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