〜闘神都市V〜
〜闘神都市V〜
〜そして、それから〜
<都市長邸・応接間>
「………」
「………あ〜」
番組が終わり、羽純が拗ねたような目で俺を見つめてきた。別段、女の子に手を出したとか、そういうことではなかったけど、気まずい事は変わりはない。
「言っとくけど、別にやましい事はしていないと思うぞ。ただ、ちょっと買い食いにつき合わされただけで」
「そう………うん、ナクトがそう言うなら、信じるよ」
「って、その口調は信じていないだろ、羽純」
「あ――――………うん、半々、かな?」
………半々と申されるか。でもまぁ、女性関係に関しては、信頼されていないのも仕方がないのかもしれない。
お飾りの都市長とはいえ、その身分から言い寄ってくる女性も数多くいたし、燐花のように、力ずくで関係を迫ってくる女性も意外にいるのであった。
その大半は、誤魔化したり、やり過ごしたり、突っぱねたりしているが、不覚から女性と関係を持ってしまうことも何度かあったのであった。
最初の頃は、不機嫌になったり泣いたりしていた羽純だったけど、最近は諦めムードになることが常であったりする。
まぁ、俺にばっかり構っていた昔とは違い、今はレメディアの世話もあることだし、恋人とお母さんの天秤が後者の方に揺られているんだろう。
とはいえ、このまま放っておくのも、羽純に悪い気がした。いつも、俺の世話を焼いてくれるのは知っているし、羽純のことは、大切に想っている。
そんなわけで、罪滅ぼしとはちょっとニュアンスが違うが………意気消沈した表情の羽純を元気付けるように、俺はことさら明るい声で、あることを提案することにした。
「そうだ、羽純。明日は暇なのか? もし暇なら、一緒に街に遊びに行かないか? たまには羽純も、羽を伸ばしたいだろう」
「ナクトと一緒に………? うん、それもいいかも。でも、明日はレメディアと、一日中、遊ぶ約束をしてるから――――ごめんね」
「あ――――そっか、それじゃあ仕方ないな」
俺と羽純の恋人のような関係のなかで、お互いに特別な存在として扱われているのが、レメディアという存在だった。
もしデートとかの予定を立てる事になっても、レメディアを寂しがらせるようなことはしない事。常に、レメディアの存在は一番の優先度として二人の間で決定されていた。
まさに、溺愛と称するのが適切なくらいに、俺も羽純も、レメディアのことを大切に想っていた。少々変節だと、桃花あたりには呆れられているんだけど。
「まぁ、デートのことは、おいおい予定を立てて決める事にするか。桃花やマニさんに、レメディアを任せっぱなしにするのも気が引けるからな」
「うん………そうだね。いちおう明日、マニさんに聞いてみる事にするね」
「お、何だか乗り気だな」
「それは、だって………久しぶりのデートなんだし」
羽純にそう言われて、確かにここ最近は、闘神大会の前準備やら様々な雑用やらに忙殺されて、羽純とデートをしてなかった事を思い出した。
純粋に、デートをすることを嬉しがってもらえるのって、けっこう男にとっても、光栄に思えることだったりする。何となく、いい雰囲気で見詰め合う俺と羽純。
どちらからともなく、顔を近づけると――――、
「ん……ママ、ねむぅ………」
俺の膝の上で眠っていたレメディアが身じろぎをして、俺も羽純も動きを止めた。お互いに、照れくさくなって笑みを浮かべる。
ただ、それは苦笑の類のものではなく、春の木漏れ日に浸るような、暖かい空気をうけて、身体の中から湧き出してくるような、そんな微笑みだった。
「それじゃあ、そろそろ寝る準備をしよっか? ナクトは、お風呂に入ってきて。その間に、レメディアを寝かしつけるから」
「いや、どうせだから、レメディアは俺が運ぶよ。レメディア、抱っこするからなー」
「んー、とーちゃ……」
レメディアを両腕で抱き上げると、寝ぼけているのか、抱き上げた俺の腕に甘噛みをしてきたのだった。何となく小動物を抱っこしているようで微笑ましい。
既に半分以上、眠りの国に引き込まれているレメディア。そんな彼女の眠りを妨げないようにと、俺は慎重な足取りで、寝室に向かう事にしたのだった。
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