〜闘神都市V〜
〜闘神都市V〜
〜そして、それから〜
<都市長邸・応接間>
「………いよいよ、始まったんだな」
番組が終わり、魔法ビジョンを消すと、俺は感慨深げに呟いた。去年もそうだったが、闘神大会の開催する時期は、何だか昔の事に思いを馳せる事が多くなる気がする。
一年というサイクルの中で、僅か一月にも満たない期間………だけど、その期間だけで、日々の生活の何倍もの出来事が起こるのが、闘神大会というイベントだった。
多くの人々が集まり、様々な事件が起こるこの時期は、まるで祭りのように都市中が活気で満ち溢れている。
その活気にあてられて、その渦中にいた昔の事を思い出したんだろう。今はもう、そこに立つ事はないけど、目を閉じるだけでも思い出す事ができる。
ただ、がむしゃらに、強くなるために…ひたすら迷宮で戦い続けた事、受けた傷の痛み、疲労による腕の重み………そして、狂ったような高揚感。
見知らぬ人達との邂逅と、対戦相手のパートナーである少女達との逢瀬。そして、懐かしい人達との再会と、戦いの垣間の、穏やかな時間。
人生の中で、もっとも印象の濃い時間帯が、闘神大会の期間の思い出に刻まれていた。その思い出に浸っていると、肩に何かが触れるのを感じ、現実に引き戻された。
俺の肩にもたれかかっていた、アザミが身じろぎをしたようである。アザミは静かな瞳で、俺を見上げてきた。
「…ナクト?」
「ん、ああ。どうしたんだ、アザミ」
「目、開けながら、寝てた」
「いや、寝てたわけじゃないぞ。ちょっと思い出に浸ってただけだ」
「………?」
俺の言葉に、アザミは分かっていないという風に、首を傾げる。まぁ、こういう感慨は人それぞれだろう。
そんなことを考えていると、お風呂から上がった羽純が、寝巻きで応接間に入ってきた。風呂上りということもあり、頬を赤く上気させていて、なかなか色っぽい。
「ナクト、お風呂あがったよ」
「ああ、それじゃあ入ってくるよ。アザミは、もう少し待っててくれよ」
「へいき」
コクリと頷くアザミを残して、俺は風呂に入ることにした。ゆっくり眠るために、温まるとしよう。
<都市長邸・寝室>
「二人とも、もう寝ているのか?」
風呂からあがった事をアザミに伝えた後、俺は寝室に入った。寝室にはベッドが二つある。
片方は、俺が寝るためのベッドであり、もう片方は、羽純とレメディアが一緒に眠るためのものだった。
普段は、別々に眠る事が常だったが、レメディアが寝付けないときなどは、3人で川の字になって眠る事もあった。
「すゃすゃ……」
「………すー、すー」
「二人とも、眠っているみたいだな。それじゃあ、俺も寝るとするか」
レメディアが起きていたら、一緒に眠りたいと言ってくるので………そのときは一緒に寝るのだが、それ以外の時は、俺は二人とは別々に眠る事に決めていた。
一緒に寝るとなると、悶々とした変な気持ちになることもあるので、できるだけ一人で眠りたいのであった。
いや、羽純と二人だけというのなら、変な気持ちも発散できるんだけど、何しろレメディアも一緒だからな。
そんなわけで……ここしばらくは、羽純と気持ちの良いことをする事もなく、日々を過ごしている。俺は少々不満だが、羽純はそれほど不満ではないようだった。
このあたりは、男と女の差というやつなのかな? まぁ、実の所、羽純の目を盗んで、桃花や燐花がちょっかいをかけてきてくれるので、溜まる事は無かったのだけど。
「ふぁ………おやすみー」
あくびを噛み殺して、ベッドに入る。疲れが溜まっていたのか、睡魔は一気に襲ってきた。
いつ眠ったのか分からないほど早く、俺は眠りの世界に旅立つ事になったのであった。
ガチャ……。
「………」(うろうろ)
ころん、ごろごろ。
「ふわふわ、寝にくい………」
「………んんっ、駄目だって、セラパーラ」(寝言)
「………」(むくっ)
ふわ、ごそごそ………
「………かちこち、心地いい」(ぺとち)
「ん、なんだ? ラベルケースも混ざりたいのか………しょうがないなぁ」(寝言)
「おやすみ、ナクト」
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