〜史実無根の物語〜 

〜其の一〜



毎日続く、変わり映えのしない警邏――――そんな状況では、部下達も精神的に抜けた状況になることも多いだろう。
そういったメンタル面についての支えとして、俺のような隊長職があるのだと、最近は思う。部下たちに慕われ、模範となり、時として――――、

「ふー、あー、美味かった。隊長、ごちー」
「ごちー、なのー!」
「まったく、二人とも遠慮ってものが無いのか……すみません、隊長、ご馳走様でした」

反省会と証した食事会を開くのも当然の事だろう。俗に言う、たかられているといった面もあるかもしれないが、皆がやる気を出してくれるのなら、安いものだった。

「そんなこと言ってー、凪ちゃんが一番よく食べてたじゃないのー、隊長の前だからって、かっこつけすぎなの」
「な、そ、そんな事は無いぞ!」
「いや、あるっちゅうて……自分、何回おかわりしたか覚えてないやろ。隊長も、呆れたように笑っとったで」
「…………」

沙和と真桜の言葉に、凪は顔を真っ赤にして俺を方を見てきた。そんな彼女に、俺は笑顔で応じる。

「まぁ、健康的だし、良い事なんじゃないか? このお店の麻婆は絶品なんだし、凪がおかわりしたくなる気持ちも分かるからなぁ」
「そ、そうですよね!」

俺の言葉に、ホッとした様子で凪は笑顔を見せる。食事会に、激辛麻婆のあるお店を選んでしまった時点で、こうなる事は予想していたので、俺としてもショックは少ない。
ただ、凪がスープ代わりに激辛麻婆を掻っ込む光景は、見ているだけで喉が痛くなりそうな光景だったけどな。しばらくは、麻婆はいいやって思えてしまう。
何にせよ、食事も終わった事だし、これでお開きということになるのだが、特に用事が無いのか、誰も席を立とうとはせず、そのまま飲茶という流れになりそうだった。

「おっちゃん、点心を幾つかと、お茶を全員分よろしく。お代は料理と一緒にしといてくれよ」
「あいよっ、毎度あり!」

俺の注文に、店主のおっちゃんは威勢よく応じると、店の奥に歩いていく。その様子を見ていた部下の女の子達から、喝采の声があがった。

「おー、太っ腹やな、隊長。またまた、ごちなー」
「ごちー、なの」
「……ご馳走になります、隊長」
「はは、この位はどうってこと無いよ。みんなとお茶できるなら、この位は安いものさ」

実際、たくさん頼んだ料理の値段に比べれば、点心やお茶などは微々たる値段である。今までのオゴリに若干上乗せした所で、あまり変わらないと思っていたのであった。
そんな訳で、食事会が終わった後は、食後のお茶会が始まる事になったのであった。といっても、作法など無く、各々に好きな事をしながら茶を楽しんでいるのだけど。

「なあなあ、隊長………この螺旋、夏候惇将軍に似合うと思わへん? やっぱり、天を突く螺旋は、格好ええしなー。こう……頭に、ぼぼーんっとなぁ」
「ああ、そうかもしれないけど………頼むから、頭に「からくり」をつけようぜ、真桜。その台詞を、そのまま春蘭に聞かれたら、怒られると思うぞ」

小型の螺旋――――ドリルを手に持ってニコニコ笑顔の真桜に釘を刺す俺だったが、浮かれ気分の真桜の耳には入っていないようだった。
凪はというと、そんな俺達のやりとりを見ながら、点心の一つである饅頭を頬張っている。凪の為に、特別に店主が作った激辛饅らしいけど……中身が何かは不明だった。
そして、沙和はというと、流行の雑誌である阿蘇阿蘇を見ながら、珍しいことに顔をしかめている。普段は、楽しそうに見入っているのに、どうしたんだろうか?

「どうしたんだ、沙和。何か気になる記事でも載っていたのか?」
「んー、気になる記事というか、今まで見たこともない記事が乗ってるの。これなんだけど」

テーブルの上に乗せた阿蘇阿蘇の向きを変えて、俺の方に押しやってくる沙和。俺と凪が頁を覗き込むと、そこにはヒラヒラの服を着た女の人の姿絵が書かれていた。

「ええと、『あなたもできる天師道、今なら、週三回の訓練で、貴方にも天の力が』………なんだこれ?」
「……もの凄く、うさんくさい気がしますね」
「んー、でも、この格好って可愛いでしょ? だから、気になってて」

記事を読み上げる俺の言葉に、凪は呆れた様子で肩をすくめた。沙和はというと、記事の内容というより記載されていた女の人の姿絵が気になっていたらしい。
ひらひらとした服装は、まるで天女のようでもあり――――確かに、可愛らしい格好ではあった。そんな絵姿を見て、沙和は溜め息をつく。

「はふ…………可愛いなぁ。でも、こんな可愛い服が売っていたら、すぐに気づくしー、やっぱり売られては無いのかなぁ」
「売られてない服って………そんなのが有るのか?」
「あたり前だよ、隊長ー。お洋服屋さんで売られている服なんて、世の中にある服の、一部でしかないんだからー」

俺の言葉に、ちょっと怒った様子で、そんな事をいう沙和。まぁ、確かに……この手の衣装や、天和達の舞台衣装ような服は、一般には売られていないよな。
一般向けに、大量に作られている服は別として、ほとんどの服は、いろんな衣服を組み合わせての自作品だからな……女の子は大変だろう。
そんなことを俺が考えている横では、沙和がページに目を落としては、うんうんと唸っている。どうやら、脳内で衣服のシミュレートしているようだった。

「んー、あれとこれを組み合わせて……これじゃ駄目かー、でも、あれとこれならー…………うー」

自分の持っている服の組み合わせで、衣装を再現しようというつもりらしい。しかし、成功はしていないようだった。
頑張るよなぁ、沙和。そんなことを考えながら、俺はその記事に再び目を通し――――気になる一文があることに気づいて、それを口にした。

「ん、何々……? 興味がお有りの方は蜀の張陵まで、五斗の米を寄進していただければ、衣装と天師道の書簡をお届けします……まるで、通販みたいだな」
「――――つーはん?」
「ようは、離れた場所に居る人と、商売をする方法だよ。先に金銭や物を送ってもらって、その見返りに商品を送るって方法だけど……あまり普及していない方法だな」

そもそも、通達の技術が発達していないこの時代では、そういった商売は成り立たないのではないだろうか? 戦乱の世では、行路の治安も保障できないし。

「ですが隊長……その方法ですと、本当に互いのもとに品物が届くのか、確認の方法が無いと思うのですが」
「そうだな。俺の居た世界でも、似たような商売はあったけど、中にはそれを利用した詐欺もあったからな。金だけ受け取って、商品を送らないとかな」
「それは……酷いですね」

俺の説明を聞き、憤慨したような様子を見せる凪。生真面目な彼女にしてみれば、そういった詐欺を許す事はできないんだろう。

「ああ。だからこういった通販は、利用しない方がいいって友達も言っていたけど……沙和も、送り先が書かれているからって米を送ったりしないようにな」
「えー、でも、お米を送れば、衣装を送ってくれるって書いてあるんでしょ?」
「まあ、そうだけど……でも、保証は無いんだぞ? ひょっとしたら、送り損になるかもしれないけど――――」
「だいじょーぶ、だいじょーぶっ! こんな可愛い衣装を考える人に、悪い人はいないからー」

俺の忠告に、沙和はそんな事をいうと、送り先をチェックしている。どうやらすっかり乗り気のようであった。
その様子に、俺と凪は顔を見合わせて溜め息をついた。こうなっては、誰も沙和を止められないだろう。俺に出来る事は、これが詐欺でないことを祈るばかりであった。



と、そんな事があったのが二月ほど前のこと――――それからも、日々の雑務に忙殺され、その一件も完全に忘れていたある日の事である。
その日、俺は華琳に見てもらう報告書の山を持って、廊下を歩いていた。何となく、自分に残された時間を大切に過ごそうとした結果、色々な案が出たのである。
この前、華琳に見せたのは思いつきの案だったからな。これならもう少しは、今後の為になるだろう。

「しかし、魔法少女の件はどうするかな? 着飾った衣装で警邏をやるっていう案なら、沙和あたりなら乗ってくると思うんだけど」

何せ、北郷隊一のファッション好きの沙和である。公認でそういう事が出来るならと、喜んでやりそうな気もするが……調子に乗って歯止めが掛からないような気もする。
まぁ、実際のところは、毎回、煌びやかな衣装を用意するのも大変だし、計画倒れになるような気もするけどな。

「らじかるさわわ……沙和の二つ名としては似合ってるんだけどなぁ」
「二つ名? それって真名みたいなものなの、隊長?」
「っと、沙和か。いや、真名というよりは、愛称みたいなものだけど――――あれ、その衣装は」
「へっへー、どう、隊長ー? 似合ってるー?」

廊下でばったり出会った沙和が着ていたのは、ずっと前に見せてもらった雑誌に載っていた、天女のような服装だった。
沙和の手が加えられているのか、純白の衣装は、ふわりと沙和の身体を包んでおり、また、フリルのついたスカートとあいまって、可愛らしさが増していたのだった。

「何か、天女というよりは、純白の天使って感じだな」
「天師………? 確か、一緒に送られてきた書簡にも、そんな事が書いてあった気がするのー」
「ああ、君はいまから、白い天子………ホワイトエンジェルのらじかるさわわだ!」
「ほわいとえんじぇる………なんだか、かっこいい響きなのー。隊長、それいただきー!」

俺の言葉に、ノリノリな様子で、いえーい、とブイサインをする沙和。どうやら本人もいたく乗り気のようだし、考えてあったあの案を試してみてもいいかもしれない。

「ああ、存分に使ってくれ。――――で、だ。沙和に一つ、頼みたい事があるんだけど……警邏に出るとき、その格好で街を見回ってほしいんだけど」
「え、いいのー? 普段は、あんまり派手な格好はするなって、注意してるのにー」
「まあ、今回はその逆の発想でな。目立った格好の警邏の人が居れば、悪事も減るんじゃないかという実験なんだ」

実際、制服をきたお巡りさんが目の前に居るのに、悪事を起こすような人は皆無だろう。沙和が目立てば、そういった抑止力になるんじゃないかという期待はあった。

「ふーん。隊長がそういうなら、今日は、このまま警邏に出てみるのー。あ……そういえば、白い天師がほわいとえんじぇるなんだよね? じゃあ、黒い天師は?」
「ん……? 黒い天子なら、ブラックエンジェルかな?」
「ぶらっくえんじぇるか……分かったの。このホワイトエンジェル、らじかるさわわに任せてねっ、隊長!」

嬉々とした様子で、スキップするように廊下を歩き去っていく沙和。どうやら本人はいたく気に入ったようであった。これなら、そう悪い結果は出ないだろう。
さて、後の楽しみも出来た事だし、華琳への報告を済ませておくとしよう。沙和の件も話のネタとしては面白いし、華琳も喜んでくれればいいんだけど。
そんなことを考えながら、廊下を歩いていると、誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。だけど、それは小さなものだったため、俺は気にも留めなかったのであった。



華琳の報告を済ませた後で、俺は真桜を誘って街の警邏に出ることにした。聞くところによると、沙和は凪と出かけたらしい。
キラキラな衣装の沙和だが、押さえ役の凪が一緒に街を歩いているなら、トラブルにはならないだろう。そんな風に楽観しながら、俺は真桜を連れ立って街を歩く。
ここ最近は、街でも大きな事件も無く、平穏な日々が続いている。とはいえ、完全にトラブルの火種が消えたわけでもなく、小競り合いの類は尽きる事は無かった。

「さて……沙和は、しっかりやっているのかな? 結果次第では、本格的な計画にもなるわけだから、頑張ってもらいたいけど」
「なんや、隊長も張りきっとるなー、そんなに期待しとるん?」
「まあ、それなりにな。俺の思いつきで始めた案なんだし、出来れば結果を出して欲しいとは思ってるよ」

もっとも、その結果というものが、なかなか出ないものなんだけど。そもそも、警邏をしていて一番良い事は、何事も無く終わる事なのだ。
とはいえ、多くの人が住む街中では、トラブルの火種はどこにでもある。次善として、トラブルが大きくなる前に押さえるのが俺達の役目だった。
トラブルの火種を減らすための案として、らじかるさわわの一件を案じたものの……果たして、どこまで効果があることやら。
と、そんなことを考えていた時である。通りの向こうから、北郷隊の鎧を着けた兵士が一人、慌てた様子で俺たちの方に走ってきたのである。

「た、大変です、北郷隊長、李典さま! 向こうの通りで、何名かの流民が子供を人質に金銭を要求しています!」
「っと、言った端からこれか――――真桜、すまないが、頼めるか?」
「おー、まかしとき! ウチに掛かれば、雑魚の一人や二人、どうってことないで。……もっとも、人質が居るってのが気がかりやけどな」

確かに、その点は俺も気になっていた。あまり無茶な真似をすれば、害は人質に及ぶだろう。警邏の人間として、そんな結果は本意ではなかった。

「とにかく、現場に行ってみよう。君は、周辺を警邏中の、他の隊員にも声を掛けてくれ。だけど、決して先走らないようにしてくれよ」
「はっ、了解しました!」

俺の言葉に敬礼し、兵士は仲間を呼びに走り去っていった。さて、俺達は急いで現場に向かうとしよう。人質が取られている以上、それほど猶予は無いはずである。



「おらおら、早く金と食い物をよこしやがれ! ガキがどうなってもいいっていうのか?」

通りの向こうに集まる人だかりの向こう……商家の前に出来た人だかりの中心には、何名かのならず者が、抜き身の剣を持って恰幅の良い男性を脅していた。
その男性の娘だろうか? 年端も行かない女の子が、ならず者の一人に抱きかかえられて、喉もとに刃を突きつけられている。
女の子は、泣き叫ぶ事もできないようで、恐怖で顔が蒼白になっているのが遠目にも見て取れた。

「………まずいで、あれじゃあ手の出しようが無いわ。どうするん、隊長?」
「ちょっと待ってろ――――…真桜、あれを見ろ。向こう側の人だかりにも何人か、隊員が居るみたいだ。何とかして、奴らの気を逸らして人質を救えれば良いんだけど」

人質の女の子を助けれれば、前後を挟んでいる今の状態なら、ならず者達を一網打尽に出来るんだが………どうする?
判断に迷っている間にも、事態は刻一刻と進行している。一瞬の判断の遅れが、致命的なことになりかねないが――――。

「おら、このガキがどうなってもいいのかって言ってんだよ!」
「ま、待ってください、娘だけは……ああ、誰か、助けてくださいっ!」
「くそ………仕方ないな。真桜、俺が出て奴らの注意をひきつけるから、その間に人質を何とかしてくれ」

そう言って、俺が人垣を割って前に出ようとした、その時である。頭上から唐突に、聞き覚えのある声がした。

「このビッチどもめー、そこまでなのー!」
「あん、なんだ、今の声は?」

唐突に響いてきた、その声に、ならず者たちは怪訝な様子で周囲を見渡す。と、野次馬の一人が、商家の屋根の上を指差して叫んだのだった。

「あ、あんな所に人が居るぞっ!」
「ほ、本当だ……なんだありゃ、天女様か!?」

騒ぎだす野次馬。俺も釣られて頭上を見上げる。なんというか、そこには予想通りの――――いや、予想以上の光景があった。

「人の道を外す悪には、天なる裁きをここに打つ!」
「悪の絶えないこの街にー、二人の天師が降り立つのー!」
「ブラックエンジェル、ぷりてぃなぎー!」
「ホワイトエンジェル、らじかるさわわ、悪を倒すため、いざ登場なのー!」

屋根の上にいたのは、ヒラヒラな衣装に身を包んだ沙和と、同じ型の黒色の衣装に身を包んだ凪だった。ならず者たちは、呆気にとられて頭上を見上げている。
というか、プリティナギーって………意味をわかって言っているんだろうか? 多分、分かってないんだろうなぁ。

「な、なんだ手前らは!? ヒラヒラした変な格好しやがって………踊り子か何かか?」
「しゃらっぷなのー! このビッチが、小さな女の子を人質に取るなんて、うじ虫以下のする事なのー!」
「な、なにぃ!?」

沙和の暴言に面食らう、ならず者。というか、可愛い衣装なのに、毒舌キャラなのか、らじかるさわわは。
何にせよ、ならず者達の注意は屋根の上の二人に向いている事は確かである。俺は、隣の真桜に目配せをした。

「とっとと、お縄につきなさいなのー、このインポ野郎ー!」
「ぐ………言っている事の半分は分からんが、なんだか凄い腹が立つぞ。おい、手前ら、こっちには人質が居る事を――――」
「うりゃあっ!」

その瞬間、不意をついた真桜の武器が、少女を抱きかかえていた男の剣を弾き飛ばした! 沙和達に気を取られ、切っ先が少女から外れているのを知っての一撃である。

「あ、ああ……俺の武器がぁ」
「今だっ! うおおおっ!」
「げふうっ!?」

真桜の一撃が成功するのを信じて、ほぼ同時に突っ込んだ俺は、動揺する男に肉薄し、その顔面を思いっきり殴りつけた!
さすがに、一撃で昏倒させる事はできなかったが、その衝撃で、男は腕に抱えていた人質の女の子を手放した。俺は女の子を抱きかかえると、地面を転がる。

「て、てめえ、なにしやがる――――ぐおっ!?」
「はああああっ!」

人質さえ取り戻せば、後はこっちのものである。屋根の上から、ならず者の一人にとび蹴りをくらわしながら飛び降りた凪が、全員を倒すのに数秒と掛かりはしなかった。
まさに一瞬の攻防は、こうしてあっけなく、ならず者達の全員逮捕ということで決着がついたのであった。



「おとーさんっ!」
「おお、娘よ! よかった、よかった……」

ならず者達を全員捕らえ、人質となっていた女の子は、無事に父親の元に帰ることが出来た。万事が上手く行き、まずは、めでたしめでたしといった所である。

「二人とも、おつかれさま。二人のおかげで、ならず者達の注意が逸れて助かったよ」
「へっへー、お手柄でしょ、隊長。もっと褒めてほしいのー」
「………」

得意満面な沙和とは対照的に、凪の方は物凄く恥ずかしそうだった。いまもヒラヒラの服を着ているし、登場時の口上を聞かれていたと知って、照れているらしい。
なにしろ、ブラックエンジェル、ぷりてぃなぎー、だからなぁ。冷静に考えれば、誰だって恥ずかしいと思えるだろう。

「まぁ、何にせよ、大捕り物を成功させたんだし……お手柄だな。これなら、らじかるさわわを恒久的なものにしても良いかもしれないな」
「ほんとっ!? じゃあー、また、おしゃれして街に警邏に出てもいいのー?」
「………別に、同じ格好にしろと言うわけじゃないけど、せめて、らじかるさわわって分かるようにしてくれよな」

そうでなければ、単に沙和の服装チェックが甘くなっただけになってしまう。釘を刺すように行った俺の言葉だったが、沙和はというと、自信満々な様子で胸を張る。

「だいじょーぶ、じょぶ! きちんと、らじかるさわわの新しい衣装を考えるからー」

………どうやら、今回の服装はこれっきりのものらしい。毎回の登場のたびに、衣装が変わる変身ヒロインってのも、どうなんだろう?
本人が乗り気だから、別に止める気は無いんだけど………まさか、衣装代も経費で落せと言わないよな? 一抹の不安を抱えてしまった俺であった。
そんな俺の目の前で、沙和は上機嫌な様子で凪の手を取ると、キラキラと輝いた表情を見せた。

「もちろん、凪ちゃんの衣装も考えておくから、期待しててねー」
「なっ……冗談じゃない! もう、私はこんなのは御免だからなっ!」

沙和の言葉に、慌てたように握られた手を振りほどくと、凪は声を荒げる。まぁ、確かに気持ちは分からないでもない。
おそらく、凪は沙和に無理やり付き合わされる羽目になったんだろうなぁ。後半、ノリノリだったような気もするけど、彼女も、そこには触れて欲しくないだろう。

「えー、一緒にがんばろうよー。隊長からも、凪ちゃんを説得して欲しいのー」
「俺が………? そうだな、俺としても、沙和がやる気になっているんだし、凪にも協力して欲しい所だけど」
「た、隊長!?」

とはいえ、せっかく芽が出た新たなアイディアを、これ一回だけで終わりにするというのも、もったいない話であった。
ここは一つ、凪には恥を忍んで頑張ってもらいたいところである。個人的には、着飾った凪も見てみたいしな。

「まあ、無理強いはしないけど――――せっかく沙和が、珍しくやる気を出しているんだし、凪が協力してくれるなら、俺も嬉しいんだけどな」
「………はぁ、分かりました。隊長がそういうのなら、もう少しだけ頑張ってみます」
「やったー! 一緒に頑張ろうね、凪ちゃんっ。あ、そうだー、真桜ちゃん用の衣装も考えておくねー」
「え――――!? う、ウチもかいな………まいったなぁ」

ノリノリの沙和に声を掛けられて、真桜も困惑した様子になる。口調は兎も角、その様子は、まんざらでもなさそうであった。
個人的には、真桜には悪のマッドサイエンティストの役が似合っていると思うんだが……口に出すのは止めておくとしよう。
そんなこんなで、始まってしまった、らじかるさわわの活躍は、次はいつのことになるのやら………その答えを知る者は、誰も居ない。
ただ、色々と忙しくて息が詰まりそうな日々の中……こんな馬鹿げた話が時々はあっても良いんじゃないかと、沙和の笑顔を見ながら、俺は思うのであった。


――――終

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