〜史実無根の物語〜 

〜国主の価値は〜



【桃香】
「〜〜〜♪」

【愛紗】
「本日は、一段と御心が晴れやかでいらっしゃいますね、桃香様」

【桃香】
「うん。今日は天気もいいし、なんだかいつもより頑張れそうな気がするよ、愛紗ちゃん」

【愛紗】
「ふふ、そのようなことを仰有られて、陽気に寝込けてしまわぬようにしてくださいね」

【桃香】
「あー、ひどいなあ、もう……子供じゃないんだし、そんなことしないんだから」

【愛紗】
「そう思いたいものですが、何分、前例というものがありますから。
もっとも、このような陽気では、桃香様より先に、鈴々あたりが昼寝をしてそうですが」

【桃香】
「あー、たしかに。なんだか、こう、木の上でお昼寝していそうな気もするよね」

【愛紗】
「……自分で口にしてから不安になったのですが、鈴々はちゃんと、練兵にいったんでしょうか。
まさか、本当に政務を放っておいて昼寝をしているのでは」

【桃香】
「心配性だなぁ、愛紗ちゃんは。大丈夫だよ、鈴々ちゃんだって、今頃は、兵士さんたちを前に真面目にお仕事をしていると思うよ」

【愛紗】
「そうなら、良いのですが…………む?」

【桃香】
「ほぇ? どうしたの、愛紗ちゃん」



【一刀】
「ふう、今日もいい天気だなー」

政務の合間にできた時間。部屋でのんびりしていたら、詠に掃除の邪魔だといって追い出されてしまった。

【詠】
『部屋でボーっとしてないで、どうせなら、この空いた時間に、皆の様子を見てまわるくらいのことをしたらどうなの?
部下の管理も、上に立つ者としての務めでしょ』

箒で俺をつつく詠の言葉も、最もなわけで……そんなわけで、思い立ったら吉日とばかりに、俺は城内にある蜀の屋敷に足を向けたのだった。
どうして魏でも呉でもなく、蜀なのかは特に理由はなかった。文字通り、なんとなくという感じに、今日はこちらの方角に足が向いたのである。
こんなだから、地に足がついてないとか言われてしまうんだけど、性分だし、なかなか直るものでもないんだよなぁ。

【一刀】
「さてと……皆は、どうしているかな」

つぶやいて、俺は辺りを見渡す。せっかくきたのに、誰にもあうことが無かったというのは、いささか寂しすぎる。
とはいえ、俺の都合で、仕事の邪魔をするのは、さすがに気がひけた。そんなわけで、手の空いている、ヒマそうな娘がいて、話し相手になってくれれば良いんだけど。

【一刀】
「さすがに、そんなに都合の良い相手がいるわけもないよなー…」

【蒲公英】
「あれ、ご主人様? どうしたの、こんなところで」

と、所在なげに庭先をぶらついていると、ばったりと蒲公英に出会った。
いくつかの大きめな箱を重ね、それを両手で抱えて、どこかに向かう途中のようである。

【蒲公英】
「まだお昼過ぎなのに……ひょっとして、お仕事を抜け出してきたとか?」

いーけないんだー、とでもいう風に、からかい半分の口調で蒲公英は笑顔を浮かべる。
それにしても、毎回、休憩のたびにサボっていると思われるのは、少し心外だよな。一応、政務を滞らせたことはないし、真面目にやってるつもりなんだが。
まあ、実際は月や詠の力添えのおかげで、何とか日々の政務をこなしているわけだし、有能でないのは自覚しているんだけど。

【一刀】
「別に、サボっているわけじゃないぞ。仕事が一段落ついたから、皆の様子を見に来たんだ」

【蒲公英】
「ふーん、そうなんだ。それじゃあ、ご主人様は、いま、暇ってこと?」

【一刀】
「ああ、とりたてて急ぎの用事も無いけど……蒲公英はどうなんだ?」

【蒲公英】
「暇かどうかってこと? 今日は非番だし、これから部屋の片付けをしようと思ってたんだけど」

と、そこまで言って、なにやら名案でも思いついたのか、蒲公英の顔に、笑みが浮かんだ。

【蒲公英】
「ねえ、ご主人様……暇なら、たんぽぽの部屋の片付けを手伝ってよ。いいでしょ?」

【一刀】
「ああ、別に構わないけど――――俺が手伝っても良いのか?」

普通の雑用なら兎も角、女の子の部屋の片付けともなると、プライバシーとか、そういったことにも気を使うんじゃないだろうか。
そのあたりの確認にと、聞いてみたのだが……蒲公英は、問題なしという風に明るい笑みを浮かべている。



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