〜史実無根の物語〜 

〜雛鳥の囀り〜



【雛里】
「それじゃあ、行ってくるね」

【朱里】
「うん。後のことは、私に任せて……楽しんできてね、雛里ちゃん」

【雛里】
「………うん、ありがとう、朱里ちゃん」



象棋大会が、雛里の優勝で締めくくられてから後のある日――――…今日の予定は、雛里に一日つきあって過ごすという事になっていた。
ありていに言えば、雛里との一日デートの日である。優勝した報酬が、俺とのデートというのも、こそばゆいというか、何と言うか、気恥ずかしいものはあった。
とはいえ、楽しみなことには変わりはない。何となく、いつもよりも早く起きてしまった俺は、詠に呆れられつつも朝食をとりおえて、雛里が来るのを部屋で待っていたのだった。

【一刀】
「そろそろ、来る頃かな……?」

そわそわとしながら、雛里が部屋を訪れるのを待つ俺。本当なら、朝一番から、雛里の部屋に迎えに行ってもよかったんだけど、それは丁重にお断りされた。
当日の政務の引継ぎやら何やらを済ませたり、色々と身支度が必要なこともあり、一通り、準備を済ませてから、俺の部屋に雛里が来るという手はずになっていた。
しかし、やっぱりこういう時は、待ち遠しくて時間が経つのが遅く感じるなぁ。そんな事を考えて、まんじりと時を過ごしていると、部屋の扉が、トントンと音を立てた。

【雛里】
「し、しつれいします……」

【一刀】
「いらっしゃい、雛里。待ってたよ」

【雛里】
「あわ…………な、何だか、張り切ってますね、ご主人様」

【一刀】
「そりゃあ、もう、今日は朝から、雛里とデートなわけだし。昨日から待ち遠しくてたまらなかったんだよ」

【雛里】
「そ、そうなんですか……その、私も楽しみにしてました♪」

【一刀】
「ああ。今日は、めい一杯楽しもうな! で、これからどうしようか? 今日一日は、雛里に付き合うけど、何かしたいこととかある?」

別に何もせず、二人っきりで一緒にいるというのもよいけど、雛里が何か、したいことがあれば、それに付き合うのもありだろう。
そんな風に聞いてみると、さすがに稀代の軍師というか、予定のほうは、しっかりと立ててくれていたようであった。

【雛里】
「その………午前中は、お買い物に付き合って貰おうかなって思っていたんですけど」

【一刀】
「買い物かー……よし、分かった。それじゃあ早速、行くとしようか!」

【雛里】
「はいっ」

ウキウキとした気持ちは、雛里も一緒なのか、普段よりも何割ましか、元気のよい返事をする。
俺と雛里は連れ立って部屋を出ると、軽い足取りで街へと出かけることにしたのであった。



【一刀】
「さて、街に出てみたけど、何だか今日は、混雑しているなぁ」

街の大通り。多くの店は、既に暖簾を掲げていて、あちこちに行商が露店を開いている姿も見える。
出来上がった料理を買い求める人や、軒先の商品を物色する人、行商との駆け引きをしている客など、大通りは人の流れが激しいようだ。

【一刀】
「これは、はぐれたら大変そうだなぁ………雛里、手をつないでいこうか」

【雛里】
「え……手を、ですか?」

【一刀】
「うん。これだけ人が多いと、どこにいるか分からなくなりそうだし。ほら」

と言いつつ、半ば強引に雛里の手をとる。雛里は、顔を真っ赤にしているけど、特に嫌がるそぶりはしていないようだ。
実際、これだけ混雑していると、いつはぐれるか分からないからな。そうなったら色々と大変なのは、雛里も分かっているのだろう。

【一刀】
「それで、まずはどこに行こうか? 何か食べ物のお店に行くの?」

周辺の屋台や露店からは、食欲をそそる良いにおいが、手招きをするように漂ってくる。朝食をとったとはいえ、健康な男子、まだまだいくらでも腹に詰め込む余裕があった。
まぁ、雛里の場合は、そうやって買い食いにいそしむようなタイプじゃないんだけど。
そんな事を考えた俺の予想通りというか、雛里は少し考え込む様子を見せてから、おずおずと買い物の予定を口にする。

【雛里】
「ええと……まずは、市に向かいたいと思うんですけど」

【一刀】
「市か………了解。それじゃあ、行くとしよう」

雛里と手をつなぎ合わせて、ゆっくりと大通りを歩いて市場に向かう。歩幅の差を考えて、雛里のペースにあわせてゆっくりと歩を進める。
のんびりと、可愛い女の子と手をつないで歩くのは、俺としては満足だったけど、雛里のほうは、少々、気がかりだったのか、俺の横を歩きながら、つぶらな瞳で見上げてくる。

【雛里】
「その、ご主人様………歩きにくくないですか?」

【一刀】
「ん? 別にそんな事ないけど、どうしたんだ? 藪から棒に」

【雛里】
「なんだか、ご主人様、私の歩調に合わせて歩いているように見えましたから。私も、鈴々ちゃんくらいに、元気に歩き回れたら良いんですけど」

【一刀】
「そんなに気にする程のことじゃないのに。こうやって、ゆっくりと歩くのは、俺は悪くない気分だけどな。街の様子をのんびりと観察しながら、歩けるわけだし」

【雛里】
「そういってもらえるのは、ありがたいですけど……」

【一刀】
「ん〜……そんなに気になるなら、俺が雛里を抱っこして歩くって案もあるけど。急いで目的地に付きたいなら、その方が早いだろうし」

まぁ、その場合は、周囲の視線が痛いだろうけどな。半ば冗談めかした俺の言葉に、雛里はというと、困惑した様子で真っ赤になってしまった。

【雛里】
「あわ………だ、抱っこですか……?」

【一刀】
「ああ。とはいえ、さすがにそれは恥ずかしいか」

【雛里】
「は、恥ずかしいでしゅ…………嫌じゃ、ありませんけど」

もにょもにょと、そんな事を言いながら、照れ隠しなのか、空いたほうの手で帽子を目深にかぶりなおしてしまう雛里。
何というか、その様子はとても可愛らしく、人目を気にせずに抱きしめたくなったけど、さすがに自重するとしよう。
さすがに、朝の往来で抱き合うのはどうかと思うし、警備隊に連絡でもされたら、俺の面子がないというものである。まぁ、もともと無いようなものだけど。

それにしても……最初の頃は、人ごみに出るだけで、気弱そうな顔で心細い表情をしてたのに、雛里も随分と成長してきたのかもしれないな。
相変わらず、慌てると言葉を噛む癖はあるけど、その頻度も、少しずつ減ってきているような気もするし………何となく、それはそれで惜しいような気もするけど。


【一刀】
「それで、市についたわけだけど、何を買うつもりなんだ?」

【雛里】
「はい。今度、朱里ちゃんと、お菓子作りをする予定なんです。それで……その為の材料を購入しようかと」

【一刀】
「そっか。二人とも、お菓子作りが上手だもんなぁ。それってさ……完成したら、俺にも、お裾分けしてくれるの?」

【雛里】
「はい、もちろんですよ。というよりも、ご主人様に食べてもらうのが、目的なんですから」

俺の質問に、笑顔を浮かべながら、そんな風に愉しげに応じてくる雛里。
手作りのお菓子か――――そういうのを作ってもらえるのは、なんというか、嬉しい限りだよな。

【一刀】
「よし! それじゃあ、早速、材料集めに行くとしようか! 雛里の手作りのお菓子か。楽しみだなー!」

【雛里】
「あ、あわ………ご主人様、声が大きいです」

【一刀】
「っと、ごめんごめん」

張り切って大声を挙げたせいか、周囲の視線が浴びせられて、雛里は恐縮したように縮こまってしまう。
何事かという好奇の視線を避けるように、俺は雛里の手を引いて、その場所から退避する事になった。
そうして、あらためて、お菓子の材料集めに、市場を見て回ることになったのである。

【一刀】
「しかし、お菓子のための材料だって言ってたけど、魚に、芋に………なんか普通の料理に使えそうなものばかり買ってるな?」

ひとしきり、市場を散策しながら、あちこちの露店で商品を買い求める俺達だったが、雛里が買い求めるものは、お菓子とは縁遠そうなものばかりである。
小麦粉とか、砂糖とか、そういうものを買うんじゃないかという俺の予想は見事に外れることになって首を傾げることになったが、雛里的には問題ないらしい。

【雛里】
「こっちのお魚は、煮立てて出る汁が固まる性質を持っていますから、それをお菓子に使うんです。あと、お芋は噴かして、絹ごしをしてから餡にしようと思って」

【一刀】
「なるほど。お菓子のもとにするための加工か――――そういったものは、一から作らなきゃいけないもんな」

スーパーとか、デパートの食品売り場に、生クリームやら、ゼリーの基やらが普通に並んでいるのとは違い、こっちの時代には、そういう加工食品は皆無といってよかった。
普段、何気なく出される食べ物も、料理人の手で沢山の工夫が加えられているということが、何となく実感できるというものだった。

【一刀】
「しかし、そう考えると、出されるお菓子とかを食べるのがもったいなく感じるよな。一生懸命つくったものなんだし」

【雛里】
「いえ………それこそ、食べてもらわないと勿体無いです。せっかく、手を掛けて作るんですし、美味しいと言って食べてもらうのが一番ですから」

【一刀】
「それもそうか。それにしても、お菓子作りも大変だな。一品作るのに、どれだけ手間隙が掛かるんだか」

【雛里】
「料理の基本は塩加減ですけど……お菓子作りの基本は手間隙と愛情ですから」

そういって、微笑を浮かべる雛里。普段は軍師として采配を振るっている彼女だが、こうした一面を見ると、やっぱり可愛い女の子だと思う。
持ちきれない大きさのものは、後で城に送ってもらうように手配をし、小物類は俺が抱えて、ひとしきり買い物を済ませる。
そうして、満足の行くまで市場での買い物を済ませると、俺と雛里は再び大通りに戻ることにした。



大通りに戻り、次に向かうことになったのは、通りに面した本屋であった。
店内には、ここ最近に発刊された本が陳列されており、それ相応に賑わっている。

【一刀】
「それで、今日はどんな本を買いに来たんだ?」

【雛里】
「はい、新しい軍略書や学術書がないか、探そうと思っているんですけど」

【一刀】
「うーん………教科書類か。なんていうか、勉強熱心だよな。というか、雛里とか朱里に、そういうのは必要ないんじゃないか?」

【雛里】
「はぃ……? どういうことでしょうか?」

【一刀】
「いや、既に二人とも、半端なく頭が良いからさ……今、出ている学術書の大半は、意味ないんじゃないかと思って」

【雛里】
「ご主人様………それこそ慢心というものです。私も朱里ちゃんも、まだまだ勉強中の身なんですから」

【一刀】
「いや、蜀の頭脳の二人がそれだと、俺とかの立場がないわけだけど………雛里は、そう思っているんだ」

【雛里】
「はい。政務に軍略、新しい農耕技法や、ご主人様の提案した同一貨幣の流通について………その他にも、学んで、考えなければならないことは無数にあります」

至極真面目な表情で、雛里は勉強不足だと自らを戒める。その表情は、普段の弱気な彼女とは対照的な、力強いものであった。

【雛里】
「それに、他人の著書を読み解くのは、他者の考えを理解するのに必要ですから。知識があっても、他者の意見を聞き入れないのであれば、それは自己満足になりかねません」

【一刀】
「なるほどなぁ………」

普段の引っ込み思案さとは対照的に、能弁に語る雛里の言葉に、俺は感心したように相槌を打つ。たとえば、店内に並んでいる本の中には、華琳が編纂した書物もある。
そういった書物を読むことによって、書き手である華琳の思想や構想を理解しようというのだろう。
しかし、文字を読むだけでも苦労している俺にしてみれば、そこまで深い意味で、読書をするというのは途方もないもののように思えた。

【一刀】
「とりあえず、目ぼしい本がないか探してみるとしようか。でも、どうする? 色々と本を物色したいなら、店内を分かれて行動するのもいいと思うけど」

人ごみの多い大通りとは違い、それほど広くない店内である。まさか、迷子にはならないだろうし、少しの間なら別行動も良いかもしれない。
そんな事を考えて言った俺の言葉に、雛里は少しの間、考え込むようにした後で、こくりと首を縦に振る。

【雛里】
「その………少しだけ、見てきてもいいですか、ご主人様?」

【一刀】
「はいよ。俺は、このあたりをぶらついているから。満足するまで見てくると良いよ」

【雛里】
「………はい♪」

俺の言葉に、嬉しそうに頷くと、雛里は愉しそうな様子で、店の奥に歩いていった。なんだかんだ言って、雛里も本が好きだよな。
――――まあ、本好きといっても、穏とかとは違った意味でということだけど。

【一刀】
「さて、雛里を待ってる間に、俺も何か、良い本がないか探してみるかな」

さっきの雛里の言葉に影響されて、というのもあるけど、学術書の類を読んでみるのもいいかもしれない。
まぁ、それ以前に、もうちょっとまともに、文章を読み書きできるようにならなければいけないんだけど。
簡単な文字の羅列なら兎も角、文法やら何やらともなると、とたんにチンプンカンプンになるよな。まぁ、それはもとの時代の英文や古文でもそうだったけど。

【一刀】
「うーん、言葉の壁ってのも、大変だよな………」

結局、何冊かの学術書をパラパラとめくってみるものの、早々にギブアップした俺は、押絵の多い、雑誌のようなものを見て、時間を潰すことにした。
張三姉妹の事が書かれているらしく、彼女達のコンサートでの姿を模写した押絵が、幾枚も描かれたファン雑誌のようであった。
どうやら、この雑誌は、かなりの人気のものらしく、俺が立ち読みしている横からも、何人かが本を手に持っては、代金を払う様子が見て取れた。
俺が棚に本を戻すと、その本も、横合いから伸びた手に掻っ攫われる………どうやら俺が立ち読みしていた本が、最後の一冊に、いつの間にか成っていたようであった。

【一刀】
「…………まぁ、いいか」

買わなかったのは、ちょっとばかり、惜しい気もしたが、いまは雛里とのデート中である。
そんな最中に、他の女の子の出ている雑誌を買ったと知れたら、さすがに気まずくなるだろう。
気を取り直した俺は、それなりに時間も過ぎたし、雛里はどうしているかなと、店内を探して回ることにしたのであった。

店の奥に立ち寄って、雛里の姿を探してみると、特徴的な帽子をかぶった彼女の姿は、直ぐに見つかった。
店の奥にある、本棚。様々な書物が並べられている棚の前で、雛里は背伸びをしているようである。

【雛里】
「んっ…………ん〜………あぅ」

【一刀】
「何やってるんだ、雛里?」

【雛里】
「あぅ、ご主人様………その、読みたい本を取ろうと思ったんですけど、届かなくて……」

俺が声を掛けると、恥ずかしそうに、そう言って俯く雛里。雛里が読みたい本は、本棚の上段のほうにあるらしい。
上背のない雛里だと、本をとるのにも一苦労といったところだろう。

【一刀】
「よし、じゃあ、俺が取ろう。どの本なんだ? この本か?」

【雛里】
「あ、えっと………その二つ右の、黒い装丁の本です」

【一刀】
「黒い本――――これか。はい、取れたよ」

【雛里】
「ぁ……ありがとうございます、ご主人様」

俺が本を差し出すと、雛里は嬉しそうにそれを両手に抱える。何となく、その本が羨ましく思えるから、不思議であった。

【一刀】
「それにしても、取るのに苦労しているなら、俺に言ってくれれば良いのに。それか、こういう店って、踏み台とか置かれていなかったかな?」

【雛里】
「その………踏み台はそこにありますし、ご主人様を呼ぼうかと考えもしたんですけど」

【一刀】
「けど?」

【雛里】
「頑張れば、何とか届きそうな気がしたし、踏み台をつかったりしたら………なんとなく、負けたような気になるんじゃないかって」

【一刀】
「――――ぷっ」

【雛里】
「あぅ………わ、笑わないでくだしゃい」

【一刀】
「ごめんごめん。でも、その気持ちは何となく分かるよ。俺も小さい頃は、似たような経験もしたことあったし」

【雛里】
「あぅ………やっぱり、小さいですよね、私………」

【一刀】
「いや、そこで落ち込まなくても良いだろ。雛里は若いんだし、これから大きくなるよ」

【雛里】
「これからじゃなくて………いま、大きくなりたいです」

【一刀】
「ん? いま何か言った?」

【雛里】
「……………(しょぼん)」

なにやら落ち込んでしまったのか、しょぼん、と萎れた様子の雛里。
そんな彼女を元気付けたくて、俺は半ば無意識に、雛里の頭に手をやって撫でていたりするのであった。

【一刀】
「よしよし、そんなに落ち込むことはないんだぞ。雛里が良い子なのは、俺が一番知っているんだからな」

【雛里】
「あわ………ご、ご主人様」

【一刀】
「知識もそうだけど、身長も、まだまだこれから伸びていくさ。雛里は成長期なんだし、いまはこの位で良いじゃないか。俺も、頭を撫でやすいし」

【雛里】
「…………」

俺の言葉に、雛里は何やら、複雑そうな表情。とはいえ、頭を撫でられるのは嫌ではないらしく、大人しく俺の手に頭を撫でられていたのだった。



それから、何冊かの本を購入して、俺と雛里は本屋から出る事になった。良い買い物が出来たらしく、雛里は店を出る時には、上機嫌になっていた。
本の物色に、それなりに時間を費やしていたのか、店を出ると太陽は中天に差し掛かり、身体のほうも空腹を訴え始めているのがわかった。

【一刀】
「さて、そろそろ昼だけど………昼食はどうしようか? どこかの屋台で食べるってのもあるし、どこか行きたい料理屋があるなら、そこにするけど」

【雛里】
「あの………ええと、お昼は、前々から調べてあった、お店に行ってみたいと思うんです」

【一刀】
「了解。それじゃあ、行くとしようか」

雛里の言葉に頷き、大通りを移動する俺達。ところが、であった。

【一刀】
「……引っ越した?」

【男性】
「ああ、数週間前に、荷物を纏めて出ていっちまったよ。それなりに腕の良い料理人だったが、自信を無くしたから郷里に帰るってな」

【一刀】
「――――自信をなくしたって、そりゃまた、なんで?」

【男性】
「さぁ、詳しいことは知らんが………何でも、魏の何とかって人物を満足させれず、料理人として駄目だしをされたとか何とか聞いたぞ」

雛里の言っていた場所に行ってみると、そこには閉じた料理屋があるだけだった。
怪訝に思って、隣の家屋に住んでいた人に聞いてみると、何やらひと悶着があったらしい………というか、何があったのか容易に想像は付くよな。
華琳も、多少は手心を加えてくれれば良いのに………まぁ、彼女の性格を考えれば、無理な話だろうけど。

【男性】
「そんなわけだから、いつまで待ってても、店は開かないぞ。わざわざ、立ち寄ってくれたようだが、残念だったな」

【一刀】
「いや、そういうことならしょうがないですし………教えてくれて、ありがとうございます」

【男性】
「ああ………それにしても、俺にも黙って出てくなんてなぁ。こんなことなら、あいつの天津飯を食っときゃよかったぜ」

そんな事を言いながら、自宅に戻る男性。何やら、俺が知らないところでドラマがあったようだが、それは別に良いだろう。
それよりも問題は、昼食をどうしようかということなんだけど。

【一刀】
「というわけで、お店は閉まっているみたいだけど、どうしようか?」

【雛里】
「あぅ………ど、どうしましょう」

俺が聞くと、困ったように眉をひそめる雛里。前々から決めていたスケジュールが頓挫して、動揺しているようである。
こういうとき、あちこちの屋台や料亭を食べ歩いている人なら、即座に代案とか浮かびそうだけど………雛里は、そういうのに慣れてなさそうだしな。

【一刀】
「…………よし、それじゃあここは、俺に任せてもらおうか」

【雛里】
「――――ご主人様に、ですか?」

【一刀】
「ああ。伊達に警邏で、街のあちこちを見回っているわけじゃないからな。この時間からでも入れる、美味しいお店ならいくつか心当たりがある」

戸惑った様子の雛里に、自信を持って応える俺。普段から、だれかれ問わず、奢らされている分、そういった良いお店の情報には詳しいのだった。
まぁ、おごらされる度に軽くなる財布は、見ていて悲しくなるが………そういった経験が、こういう時に、役に立つのはありがたい限りであった。

【一刀】
「それで、どういったお店がいいかな? 雛里は、好き嫌いとかあったっけ?」

【雛里】
「いえ、それほど極端でなければ、大丈夫ですけど……」

【一刀】
「ん? 何かリクエスト――――というか、要望があるかな?」

【雛里】
「その、出来れば、人があまり多くないところで、あと、食後に美味しいお菓子がでるところがあれば……」

なるほど。雛里は人見知りする性質だし、食後のデザートが欲しいって言うのも、女の子らしいな。
となると、大通りじゃなくて、裏路地の方かな? あの辺りにある、穴場の店なら、今の時間でも充分に空いているだろう。

【一刀】
「食後のお菓子か………よし、分かった。それじゃあ行くとしようか」

【雛里】
「………はい」

俺は、雛里の手を引きながら、その場を離れる。雛里は、どこかホッとした様子で、俺に手を引かれるままに、並んで歩き出した。
さて、件のお店が開いているといいけど。昼も回ってきたことだし……これ以上、すきっ腹を抱えるのは勘弁したいところであった。



【女将】
「ご注文は以上ですね。それでは、ごゆっくり」

【一刀】
「ああ、ありがとう。何か用事があったら、その時は呼び鈴を鳴らすから」

礼を言って代金を支払うと、女将は頭を下げて、部屋から出て行った。それなりに調度品の整った部屋には、運び込まれた料理が美味しそうに湯気を立てている。

【一刀】
「さあ、冷めてしまわないうちに食べるとしようか――――って、雛里、どうしたんだ?」

【雛里】
「あの………ご主人様? ここのお店って」

どこか戸惑った様子で、室内をきょろきょろと見渡す雛里。食べ物屋という話を聞いて、テーブルが並んでいる光景を想像していたのだろう。

【一刀】
「ああ。ここは裏路地の宿屋だよ。こういう場所だと、お客もなかなか来ないから、変わった趣向を凝らして、客引きをするお店もあるんだ」

【雛里】
「趣向、ですか?」

【一刀】
「そうだよ。この店にも食堂があるし、そちらでもご飯は食べれるけど、頼めばこうやって、個室を借りて食事をすることも出来るんだ」

【雛里】
「…………ですけど、それにどんな利点があるんでしょうか? お店側にとっては、手間が掛かるだけだと思いますけど」

【一刀】
「まぁ、訪れるお客が、大通りより少ないからね。一人一人のお客への、接客の質をあげるって為じゃないかな?」

顧客満足度とか、そういったものが重要視される時代じゃないけど、だからこそ、この試みがそれなりに好評なのは確かな様であった。
裏路地に面していながら、そこそこに繁盛しているお店には、それ相応の努力があるんだよな。

【一刀】
「雛里は、あまり人だかりは好きでないだろうし、こういった個室で食事を取れるのは、ありがたいだろ? そういう人は、多少は辺鄙でも、ここを利用するようになるってことさ」

【雛里】
「それは………少し、分かるような気がします」

【一刀】
「あとは、まぁ………恋人同士が、邪魔の入らない場所で二人きりで食事をしたい時とか、こういった場所があるとありがたいし」

【雛里】
「あわ………こ、恋人同士、でしゅか?」

【一刀】
「いや、物の例えだけど――――とりあえず、食べるとしようか!」

変に浮ついたような空気になりそうだったので、俺は話を切り上げるようにして、食事に取り掛かることにした。
雛里との間に、そういった空気が流れるのは悪い気はしないけど、せっかくの食事が冷めてしまうのは、勿体無いと思ったからである。



【雛里】
「ふぅ…………ご馳走様でした」

【一刀】
「ああ。どうだろう? 満足できたかな」

【雛里】
「はい、とっても美味しかったです」

それから……つつがなく食事を終え、食後のデザートも平らげて、雛里は満足そうな表情を浮かべていた。
その様子を見る限り、彼女をここのお店に連れてきたのは、間違いなかっただろう。食後のお茶を、満足そうに飲む雛里を見ながら、俺は微笑ましい気持ちで一杯だった。

【一刀】
「それで、この後の予定は、何か決めているのか?」

【雛里】
「………そうですね。本当は色々と、午後の予定も考えていたんですけど」

雛里はそういうと、口をつけていた湯飲みから唇を離し、可愛らしい口調で言葉を続けた。

【雛里】
「お昼のお店が駄目になった時に、頭の中が真っ白になっちゃって、忘れちゃいました」

【一刀】
「そうか、まぁ、予定がないならそれもいいさ。こうしてゆっくりと、一緒にいればいいんだし」

多分、予定を忘れたというのは、嘘なんだろう。なんだか、良い雰囲気になっているんだし、わざわざ予定通りに行動して、この場を駄目にするのを恐れたのかもしれない。
その証拠に、雛里はお茶を飲みながら、ちらちらとこちらの様子を伺っている。それに気づいたのは、こっちも雛里の様子を伺っていたからだけど。

【一刀】
「雛里、ちょっとこっちにおいで」

【雛里】
「………? はい」

ちょいちょいと手招きすると、雛里は素直に席をたって、こっちに近寄ってくる。
手の届くところに歩み寄ったのを見計らって、俺は雛里の身体を抱き寄せると、ひざの上に抱き上げることにした。

【雛里】
「あわ………!? ご、ご主人様」

【一刀】
「んー、雛里は可愛いな。俺がこうしたかったから、やってみたけど………駄目だったかな」

【雛里】
「そ、その、駄目じゃない………でしゅ」

俺のひざの上にお尻を乗せた体勢で、雛里は恥ずかしげに俺を顔を見上げてくる。すぐ近くに、彼女の可愛らしい顔がある。
何と言うか、先ほどは無理に切り上げたけど、さすがにこの状況で、我慢しろというのが無理なものだった。

【雛里】
「んっ………」

顔を寄せて、キスをすると、雛里は戸惑ったように身をこわばらせるが、特に抵抗する様子もなく、俺のキスを受け入れてくる。
なんというか、身がこわばっている理由は、ガチガチに緊張しているからのようであった。
顔は、上気したように真っ赤だし、奥ゆかしい性格だよなぁ。

【雛里】
「ぁぅ………ご主人様………」

【一刀】
「って、キスだけで、固まられてもなぁ。これから、もっと凄いことをするわけだし」

【雛里】
「ひぇ………!? こ、こんなお昼からですか?」

【一刀】
「うん………まぁ。いい雰囲気だし、邪魔も入らない場所だから良いかなって思ったんだけど……いいよね?」

ここは押しの一手とばかりに、雛里の頬に手を当てて、その瞳を覗き込みながら、確認をとる。
雛里は………どうしようと、しばらくの間、迷っていたようだが、気持ちは俺と一緒だったのか、ややあって、こくりと恥ずかしそうにだが、首を縦に振ってくれたのであった。



個室の部屋に鍵を掛けてから、雛里の身体をベッドに横たえる。
昼間の室内は明るく……明り取りの窓から差し込む光が、朱里の姿を克明に照らし出した。差し込む陽の日差しに照らされて、雛里は恥ずかしそうに身を縮ませる。

【一刀】
「どうしたんだい、雛里」

【雛里】
「あぅ………やっぱり、凄く恥ずかしいです。もっと暗かったら、良かったんですけど」

【一刀】
「そうかなあ? 俺はこうやって明るいおかげで、可愛い雛里を沢山見ることが出来て、嬉しいんだけど」

【雛里】
「私は………恥ずかしくて仕方ないです」

【一刀】
「良いじゃないか。誰も見ていないんだし、大胆になってもいいんだよ」

そういって、俺は雛里を落ち着かせるように頭を撫でて、それから優しく唇を重ねてみる。
相変わらず、緊張をしているようだけど、そうやって触れ合っているうちに落ち着いてきたのか、雛里の身体から、徐々に硬さが抜けてきたのが分かる。
雛里の頬や首筋に廻していた手を、頃合を見計らって肩に移してみる。俺の手が肩に添えられると、雛里は慌てたように声を上げた。

【雛里】
「あわ………お洋服にしわが付いちゃいます」

【一刀】
「そうか、泊まっていくわけじゃないし、服をめちゃくちゃにしたら、さすがに拙いよな………じゃあ、脱いじゃおうか」

【雛里】
「はい、その………向こうを向いていていただけますか?」

【一刀】
「ああ、わかったよ。俺も脱いじゃうから」

本当は、脱ぐところを見たり、俺の手で服を脱がせたりしたかったけど、せっかく雛里の緊張がほぐれた所にそれは、逆効果だろう。
俺は、ベットの上で逆を向くと、手早く上下を脱いで下着姿になった。先に下着姿になって待っていると、後方から衣擦れの音が聞こえてくる。

【雛里】
「ん………………」

【一刀】
「――――」

服を脱ぐ衣擦れの音と共に、雛里の息遣いと、僅かに漏れる声が聞こえてきて、俺を興奮させた。
そうして、まんじりとした状態で御預けをくらっていると、脱ぎ終わったのか、雛里の方から声を掛けてきてくれた。

【雛里】
「その、もう大丈夫です………ご主人様」

【一刀】
「ああ」

その声に振り向くと、やはりほんの少し恥ずかしそうに、顔を染め上げながら、雛里は下着姿でベッドの上に座っていた。
純白のレースを身にまとい、小さな小鳥の雛のような可憐さを湛えた彼女の姿は、思わず飛び掛りたくなるほどに魅力的だった。
俺は身を寄せると、彼女の身体を抱きしめてみる。小さな身体は、俺の胸の中にすっぽりと納まり、彼女の鼓動が直に聞こえてくるかのようであった。

【一刀】
「可愛いよ、雛里。このまま食べちゃいたいくらいだ」

【雛里】
「そ………そんな、恥ずかしいです」

【一刀】
「いいよ。目一杯恥ずかしがってよ。そういう雛里を見るの、俺は大好きだからさ」

【雛里】
「ご主人様、いじわるです………んっ」

拗ねたように尖らせる雛里の唇を吸う。こんな可愛らしい雛里を独占できるのだから、意地悪にもなろうというものである。
先ほども何度も味わったというのに、雛里とのキスは飽きることがない。恥らう様子も、可憐な唇も、もっと味わいたくてたまらなくなる。

【一刀】
「雛里は、良い匂いがするよな。何だか、お菓子みたいな甘い匂いだ」

【雛里】
「ちゅっ………んっ………そうでしょうか? さっき、お菓子を打べたせいじゃ………ぁむ」

【一刀】
「いや、これは雛里の味と匂いだな。いつも感じる、心地よさはこのせいかもな」

【雛里】
「ひゃ!? ご、ご主人様………そんなに顔を寄せないでください」

キスを止めて、彼女のうなじに顔を近づけて匂いをかいで見ると、雛里は顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
唇を重ねるよりも、匂いを嗅がれるほうが、恥ずかしいらしい。俺は、再び雛里とキスをしながら、別の箇所を攻めることにした。

【一刀】
「いい匂いだから、恥ずかしがることもないのに………さて、こっちの方はどうなってるかな」

【雛里】
「ぁ………そこは」

雛里のショーツは、俺の手が触れる前から、じっとりとぬれ始めていた。指を中に滑り込ませると、滴る蜜が絡んでくる。

【一刀】
「どうやら、準備万端みたいだね。まぁ、俺のほうがもっと凄いことになってるわけだけど」

【雛里】
「あわ、ご主人様………凄く大きくなってます」

【一刀】
「雛里に、たくさん触って、興奮したからな………もう、お互いに準備も出来てるわけだし、挿入れてもいいよね」

【雛里】
「は、はい………でも、入るんでしょうか?」

何度も肌を重ねているといっても、さすがに不安になるくらいに、俺のペニスは大きくなり、ぎちぎちに固くなっていた。
小柄な雛里の中に入るかは、俺としても、少々、疑問ではある。とはいえ、ここまで来たら止められないし、雛里を不安にさせる気はなかった。
平静を装いながら、俺は雛里の身体に覆いかぶさる。ショーツの布地を横にずらして、彼女の秘裂に、俺の分身を添えた。

【一刀】
「大丈夫だよ。ゆっくりいくから………ほら、雛里も落ち着いて」

【雛里】
「は、はい………んんっ」

ずぶ、と形容するように雛里の身体に、俺の身体が埋まっていく。肉の壁を掻き分けて、ほんの少しずつ、雛里と俺の身体が一つになっていく。
雛里の中は狭く、俺の身体に吸い付いて離さないように、きゅうきゅうと締め付けてきて、それだけで達してしまいそうなほどに気持ちよかった。
何とか全てを雛里の中に埋め込むと、俺は一息つく。雛里と一つに慣れたという幸福感が、じんわりと胸の中に広がっていった。

【一刀】
「雛里、全部入ったよ」

【雛里】
「はぁっ…………はぁっ…………ご主人様…………っ」

【一刀】
「良く頑張ったな、雛里」

【雛里】
「んっ…………あむ、っ…………」

ご褒美にとキスをすると、雛里は気持ち良さそうに目を細める。
まだ、腰を動かし始めるのは、雛里の負担になるだろうと、俺は雛里のブラに手を掛けて、胸をあらわにした。
膨らみかけの双丘と、小さな桜色の突起が、俺の目に飛び込んでくる。雛里は、胸をあらわにされて、恥ずかしそうにそれを隠そうとした。

【雛里】
「あぅ………そんなに見ないでください。その、私………お胸はあまり大きくないし」

【一刀】
「そんなに、気にしなくてもいいのに。雛里の胸、俺は好きだよ。ほら、手をどけて」

【雛里】
「ぁ………ご主人様、あっ…………んっ」

雛里の胸に顔を寄せると、サクランボを口に含むように、桜色の突起を吸い上げて、その周りの絹のような肌に舌を這わせる。
感じるのか、雛里が声を上げて身を震わせる。もう片方の乳房のほうには、俺の手が添えられて、ふにふにと、優しく揉みしだく。

そうして、胸を攻めながら、俺はゆっくりと、腰を動かし始めた。小柄な雛里の膣内は、とても狭く、動くのはゆっくりになってしまう。
だが、雛里の身体に無理に負担をかけないという意味では、ゆっくりとするのは、悪いことではなかった。
くちゅくちゅと、音を立てながら、俺は雛里の身体を味わいながら、身体も心も、幸福感に満ちた時間を楽しんでいく。

雛里も、俺とのキスを重ねながら、身体に腕を廻し、俺の愛撫を受け入れている。
ただ、そうやってゆっくりとした睦みあいにも、終わりというものはある。ゆっくりと時間を掛けて高ぶった快感は、腰の辺りまで来て、先走りが出始めている。

【一刀】
「っ………そろそろ、出そうだよ、雛里」

【雛里】
「は………はい。ご主人様、最後は、激しくしてくれて、いいんですよ」

【一刀】
「俺は、それでもいいけど………雛里は大丈夫なのか?」

【雛里】
「んっ…………私は、もう充分に可愛がってもらいましたから。最後くらいは、ご主人様にも気持ちよくなってもらいたいですし……」

【一刀】
「そうか、それじゃあ、少しだけ激しくするからな」

そういうと、俺は、胸をせめていた両手を雛里の腰に添える。そうして、一気に絶頂に達するために、雛里の腰を激しく突き上げた。

【雛里】
「んっ…………ぁっ、ぁっ、ぁっ………!」

がしがしと、腰を突き上げられて、雛里は少し苦しそうに息を吐く。ただ、長く繋がっていたおかげで、それほど負担を感じてはいないようだ。
小さな雛里の膣内を、縦横無尽に俺のペニスが動き回り、こらえ切れなくなった頃――――

【雛里】
「ぁ、ぁぁ――――!」

雛里も限界に達したのか、びくびくと、身体を震えさせる。そんな彼女の膣内に、俺はこらえ続けていたものを解き放った。
どくどくと、大量の精が、雛里の身体の奥底に注がれづつける。その半ばが出終わる頃、俺はペニスを彼女の中から引き抜いて、顔に近づけた。

【雛里】
「はぁ………はぁ………」

絶頂に達し、息を荒げる、雛里。そんな可憐な彼女の身体にマーキングするように、俺は残った精液を彼女の顔にと、放出する。
顔に掛かった精液に、さしたる反応を示すこともなく、雛里はどこか惚けた様子で、何度も荒い呼吸を繰り返していたのだった――――。



さて、若さに任せて真昼間から事に及んでしまったわけだが………あれは返す返すも拙かった。
なんというか、あとさき考えずに、雛里としてしまったせいで、個室の利用料を払うことになったのは、まぁ、しかたない。
ただ、最後に雛里の顔に思いっきり掛けてしまったのは、少々、失策といえなくもなかった。

【雛里】
「うぅ………何だかまだ、べとべとするような気がします」

【一刀】
「ああ、ごめんよ、雛里」

くんくんと、自分の身体の匂いを気にしているのか、どこか落ち着かない様子の雛里。
一応、水で絞った手ぬぐいを借りて、顔を拭いてはいるものの、やはり気になっているようであった。
何と言うか、全面的に悪いのは俺だし、平謝りするしか出来ない状況である。

【雛里】
「その、そんなに謝らないでください。可愛がってもらえたのは……嬉しかったんですから」

【一刀】
「とはいえ、悪いのは俺だしなぁ………午後から街を見て回るにしても、この状況じゃ、気になってしょうがないだろうし」

水浴びでも出来ればよいだろうけど、城外の河川にいったり、城に戻るってのも時間が掛かるしな――――あ、そうだ。

【一刀】
「そうだ、それじゃあ、いまから『すぱ』にいこうか」

【雛里】
「……すぱ、ですか?」

聞きなれない単語に、雛里は小首を傾げる。

【一刀】
「ああ。ここ最近出来た施設で、水着を着て水浴びを楽しめるところだよ。衛生面という所を考えて、身体を洗う浴場みたいなところも、そこにはあるから」

【雛里】
「そうなんですか? それは、助かります」

俺の言葉に、雛里はホッとしたように顔をほころばせる。やはり、彼女としても、水浴びなり何なりして、身体を清めたいと思っていたのだろう。

【一刀】
「よし、それじゃあ、午後は『すぱ』で遊ぶとしようか!」

【雛里】
「………はぃ」

善は急げとばかりに、俺は雛里の手を引いて、公衆水浴施設、『すぱ』に向かうのであった。



【一刀】
「おー、賑わってる賑わってる」

久方ぶりに、訪れることになった公共施設の『すぱ』は、物珍しさもあって、それなりに繁盛しているようだ。
まだまだ、知名度が足りないせいか、満員御礼というほどではないが、遊戯施設という点で考えれば、それなりに成功といってよいだろう。
レンタルでの水着もそれなりに好評のようで、家族連れや男女のカップルが、水辺で楽しんでいる様子は、こちらの世界も向こうの世界も一緒といえた。

【一刀】
「さて、雛里はまだかな………まぁ、身だしなみを気にしていたみたいだし、時間が掛かるのは仕方ないか」

特に、身体に掛かった俺の匂いを気にしていたし、におい消しの香草を浸した、消毒用の小さな浴槽から出てこれないのかもしれない。
まぁ、準備に時間が掛かるんだし、のんびりと待つことにしよう。しかし、思いつきとはいえ、ここに来たのはよかったな。
なんだかんだで、午後も雛里と一緒に過ごせることになったし、水着姿の雛里というのも、この前の水着大会以来である。

【一刀】
「水着姿か〜………楽しみだよな」

【美羽】
「ほほほ、そうかえ、主様がそんなに期待していたとは、しらなかったのぅ」

【麗羽】
「まぁ、一刀さんも男性ですから、私の可憐な姿を楽しみにするのは、当然の義務のようなものですけど」

【一刀・美羽・麗羽】
「………………」

【一刀】
「って、何で、二人してこんな所にいるんだよ!?」

き、気が付いたら、目の前に水着の美羽と麗羽が居た。いったいどこから現れたんだ、この二人は。

【七乃】
「お嬢様〜、お待たせしました……あら?」

【猪々子】
「麗羽様〜待ってくださいよ、って、あ、アニキじゃん、どうしたんだよ、こんなとこで」

【斗詩】
「あ、ご主人様、こんにちは」

唐突に現れた二人に驚いていると、彼女達の保護者兼、付き人な娘達も姿を現した。当然ながら、みんな水着姿である。
とりあえす、状況確認のため、この中で比較的まともな常識人に話を聞いてみることにしようか。

【一刀】
「で、七乃、斗詩、どうしてみんな、この場所にいるんだ?」

【七乃】
「えっと、どうしてと聞かれましても、今日は美羽様が、なんとなく水浴びがしたいと、おっしゃられましたので」

【美羽】
「うむ、七乃がここに連れてきてくれたのじゃ!」

【斗詩】
「私達のほうも、似たようなものです。まぁ、言い出したのは文ちゃんなんですけど」

【猪々子】
「だってよ〜……今日は何となく、暑かったじゃん。まぁ、こうしてアニキに会えたわけだし、天の言葉で、結果オーライだっけ? 斗詩もホントは嬉しいんだろ?」

【斗詩】
「もう、調子が良いんだから」

ふむ、つまりはお互いに何となく、気が向いたから『すぱ』に遊びに来たということらしい。
まあ、姉妹といっても、連れ立って遊びにいくというタイプじゃないからな。麗羽と美羽の場合は。

【麗羽】
「で、どうなのかしら?」

【一刀】
「で、って?」

【麗羽】
「ですから、私のこの姿をみて、何か思うところがあるのではないかと聞いているんです。
 まぁ、庶民の着るものですし、私の高貴さを表現できるとは思っていないのですけど」

【一刀】
「………ごめん、何を言っているのか、いまいち理解できないんだが」

【斗詩】
「ご主人様、麗羽様は、水着の感想を聞いているんですよ」

【一刀】
「ああ………そういうことね」

斗詩の言葉に、俺はあらためて水着姿の麗羽を見る。『すぱ』のレンタル用の水着は、様々な考察の結果、何種類かの画一品に決定した。
麗羽がつけているのは、ビキニタイプの真紅の水着である。ビキニタイプは、泳いでても外れにくいようにと、要所に留め金が付いている。
もともと豪奢な雰囲気の麗羽には、確かに一番似合っている水着といえた。

【一刀】
「うん、いいんじゃないか。麗羽に良く似合っていると思うよ」

【麗羽】
「どうにも、パッとしない褒め方ですわね。もうすこし、語彙を増やしたほうが良いのではなくって?」

【一刀】
「悪かったな、ボキャブラリーが少なくて」

【麗羽】
「まぁ、せっかく褒めていただいたのですし、ここは素直に、お礼をいうべきかしらね」

【美羽】
「主様、主様、妾はどうなのじゃ? 似合っているかのぅ?」

と、今度は美羽が水着の感想を聞いてきた。美羽の水着は、スタンダードなスクール水着タイプである。
布地の面積から考えても、子供用しか作れなかったのだが、その水着は、確かに小柄な美羽にはピッタリと似合っていたりする。

【一刀】
「ああ、似合っていると思うよ。うん、可愛らしくていいんじゃないか」

【美羽】
「七乃、聞いたかえ? 主様が可愛らしいといってくださったぞ!」

【七乃】
「ええ、よかったですねー、美羽様」

【麗羽】
「ちょっと、一刀さん! 私には可愛らしいといわず、美羽さんにだけ言うとは、どういうことですの?」

【斗詩】
「麗羽様〜……そんなことで張り合うのは止めてくださいよ」

むきになる麗羽に、斗詩が呆れたような声を挙げる。ちなみに、七乃と斗詩、猪々子の着ているのが、大人用の画一品である。
上下に分かれたタイプで、胸周りが外れにくいように補強されているほかは、まぁ、下着といっても申し分ない形状のものである。
ちなみに、七乃と斗詩は周囲の視線を気にしてか、その上から薄手のシャツをきている。素で水着なのは猪々子だけだった。

【猪々子】
「で、アニキは何でこんなトコにいるわけ? アタイらと一緒で、暑いから泳ぎに来たとか?」

【一刀】
「まぁ、色々あってね。今日は、雛里と一緒にここに遊びにきたんだよ。そういえは、雛里はまだかな」

【麗羽】
「雛里………? 斗詩さん、雛里さんって、どなたでしたっけ?」

【斗詩】
「麗羽さま……自分のお世話になっている国の、軍師さんの名前くらい覚えておきましょうよ。ほら、象棋大会にも一緒に参加したじゃないですか」

【麗羽】
「象棋大会………?」

斗詩の言葉に、麗羽は、うーん? と真剣に悩む。これはあれだな、脳裏からすっぱりと、そのことを除外しているんだろう。
何しろあの大会は、麗羽は緒戦で没収試合だったし、良い思い出は無かっただろうからな。

【七乃】
「象棋大会ですか……ということは、ひょっとして今は、優勝した雛里さんとの逢引き中ですか?」

【一刀】
「ああ。雛里が着替えて出てくるのを待ってたんだけど、少し遅いかな」

周りを見回してみるが、雛里の姿はまだ見えない。さすがに少々、心配にはなってきた。とはいえ、女子の更衣室に行くわけにもいかないんだけど。

【七乃・斗詩】
「………………………」

【美羽】
「主様、主様、暇なら妾と遊ぶのじゃ! 七乃と三人で、水かけっこをしようぞ」

【麗羽】
「お待ちなさい、美羽さん! こういう時は、姉を立てるものではなくて?
   まぁ、私としては、仕方なくですけど、水辺の遊戯というものに加えて差し上げてもよくてよ、一刀さん」

【美羽】
「むー、横入りはずるいのじゃ! 主様は、妾と遊ぶのじゃ!」

むむむ、と睨みあう麗羽と美羽。はぁ、どうしたもんかな、この状況は。そんな風に困っていると、それを見かねてか、斗詩と七乃が二人を宥めに回ってくれた。

【斗詩】
「まぁまぁ、それよりも麗羽さま、あちらの滑り台なんていかがですか? みんな、愉しそうに滑ってますよ」

【麗羽】
「滑り台……? そんなものが、楽しいのですの?」

【斗詩】
「楽しいかどうか、滑ってみたら分かるんじゃないですか?」

【麗羽】
「………それもそうですわね。では、一刀さん、私達と一緒に」

【猪々子】
「よっしゃ、それじゃあ、アタイが一番乗りねー!」

【麗羽】
「って、ちょっと猪々子さん、抜け駆けはずるいですわよ!」

だー、と走っていく猪々子を追って、麗羽も走っていく。今の今まで、俺を誘おうとしていたことは、すっぱり忘れているようであった。
そんな二人を微笑ましげに見つめた後で、斗詩も無言で俺に会釈をし、その後を追っていく。

【七乃】
「そういえば、お嬢様、先ほど向こうで、蜂蜜入りの飲み物が売られていたような気がしたのですが」

【美羽】
「む、ほ、ほんとかえ? よし、ならば早速、買いに行くのじゃ! 主様も一緒に行こうぞ!」

【七乃】
「あら、駄目ですよ。一刀さんは待ち合わせで動けないんですから。大丈夫、一刀さんは逃げやしませんし、一緒に買いに行きましょう……ね♪」

【美羽】
「そうじゃの……七乃がそういうなら、そうするとしようか。それではの、主様、また後でな!」

【七乃】
「はーいっ♪ それじゃあ、一刀さん。あとはごゆっくり……
 あ、一応、雛里さんには、私と斗詩さんが便宜を図ったこと、今後のためにも、それとなく伝えてくれると嬉しいですね」

【一刀】
「え、それってどういうこと?」

【七乃】
「はぁ、相変わらず鈍いんですね。あなたの真後ろ、見えないように、ずっとコソコソ隠れて、雛里さんが様子を伺ってたんですよ。
 美羽様には負けますけど、可愛らしいじゃないですか。あ、後ろは向かないで、気づかない振りをしてあげるのが、良いと思いますよ」

【一刀】
「………気づかなかった」

【七乃】
「まあ、武官でもない一刀さんには、無理からぬことでしょうけど。ともあれ、報酬は報酬として、雛里さんに構ってあげてくださいね。
 そのために、私も斗詩さんも、示し合わせて麗羽様や美羽様を引き離したわけなんですから」

【一刀】
「何だ、二人は結託してたのか。しかし、なんでまた?」

【七乃】
「そこはそれ、象棋大会に参加したもの同志の友情というか、恩を売っておけば、後々、特なわけですし。
 それに、こういうのは持ちつ持たれつですから。自分が同じ状況になった時、邪魔が入らないようにという、女の子同士の無言の連携ですよ。
 もし、朱里さんが優勝したり、冥琳さんが優勝していたとしても、この状況なら助け舟を出したでしょうね。まぁ、冥琳さんの場合、助け舟は不要でしょうけど」

【一刀】
「なるほど、って、自分が優勝してたらって可能性は考えてないわけだ」

【七乃】
「あはは、さすがにそれは無いですね。まぁ、私は自分の器を知っているわけですし」

【美羽】
「七乃ー! 何をしておるのじゃ、早くせんか!」

【七乃】
「はーい♪ それじゃあ、私も行きますね。あとは、ごゆっくり」

いたずらっぽい笑みを浮かべると、七乃は美羽のもとに走っていく。
しかし、女の子同士の友情か……そういうのもあるんだな。とりあえず、今度、斗詩や七乃には、それとなく御礼をしなきゃいけないかもしれないな。
そんな事を考えていると、七乃の言葉通り、俺の背後から、小さくおずおずと雛里が声を掛けてきた。

【雛里】
「その、ご主人様……」

【一刀】
「ん? ああ、雛里か。なかなか姿を見せないから、心配していたぞ」

【雛里】
「す、すみません………準備に手間取ってしまって」

【一刀】
「いや、原因は俺にあるわけだし、謝らなくてもいいんだけど――――」

【雛里】
「?」

【一刀】
「雛里の水着姿、可愛いな。来てよかったよ」

【雛里】
「あぅ………ありがとうございましゅ」

素直な感想を口にすると、雛里は照れたように俯いてしまう。身体にぴったりと吸い付くような、スクール水着タイプ。
可憐と形容するのがぴったりな、その水着は、雛里にもっとも似合っているといっていいだろう。
本音を言えば、雛里がどんな水着を着ても、愛でる自信はあるけど、やっぱり雛里には、このタイプの水着が一番あっているように思えた。

【一刀】
「よし、それじゃあ一緒に遊ぶとしようか。時間はたっぷりあるし、疲れて倒れるまで、遊びとおすとしよう!」

【雛里】
「は、はいっ、頑張ります………っ」

張り切った俺の言葉に、雛里も浮かれているのか、前向きな意見を言いつつ、こくこくと頷く。
その後、子供でも遊べる浅いプールで遊んでいた俺達は、戻ってきた美羽や麗羽たちも加えて、水辺でのひと時を満喫した。
時折、麗羽や美羽が暴走しかける一幕はあったが、斗詩や七乃が気を利かせてくれたおかげで、俺も雛里も、楽しいひと時を過ごすことができたのであった。
本当に、二人には感謝しなきゃいけないな。



遊び疲れて日が暮れて、夕食を最寄の料理屋で済ませた俺達は、ゆっくりと帰り道を歩き、夜も更けた頃に、城内に帰ってきた。

【雛里】
「ご主人様………今日は、ありがとうございました。とても楽しかったです」

【一刀】
「いや、俺のほうこそ、楽しかったよ。今日は一日、ありがとうな」

薄暗い廊下を歩きながら、俺は雛里との別れを惜しむ。今日みたいな日は特別であり、明日からはまた、互いに仕事に追われる日々が続くだろう。
…………そう思うと、このまま分かれるのは、何となく、もったいないような気がした。

【雛里】
「ご主人様……? ……え?」

【一刀】
「……………」

廊下の分岐点。そこで分かれるはずだった場所で、俺は雛里の手を取ると、そのまま彼女の手を引いて歩き出した。
向かう先には、俺の部屋。少々、強引に引っ張る俺に、雛里は戸惑ったような声を上げる。

【雛里】
「その、ご主人様………? 私は、もう充分に満足していますけど」

【一刀】
「うん。だからここからは、俺のわがままだよ。雛里ともっと一緒にいたくて………迷惑だったかな?」

【雛里】
「そ、そんなことはないです………その、ごめんなさい」

【一刀】
「………どうして、あやまるんだ?」

【雛里】
「充分に満足したなんて、嘘をついてました……本当は、もっとご主人様と一緒にいたいって思っていたんです」

【一刀】
「そっか。名残惜しかったのは、俺だけじゃないんだな」

雛里の言葉に、どこか安心する。強引に誘って、嫌われたらどうかという不安は、彼女の言葉で解消された。
思いが通じ合っているなら、遠慮する必要も無いだろう。俺が雛里を求めて、雛里が俺を求めて、だから、これから先も一緒にいる。
俺の部屋の前にたどり着き、俺は雛里の身体を抱き寄せた。まだまだ、雛鳥といえるくらいの幼い少女。
そんな彼女を心から愛しいと思い、彼女を愛することの出来る自分を、誇らしくさえ思えた。

【一刀】
「今夜は、ずっと一緒にいような………雛里」

【雛里】
「………はい」

応じる声は短く、重ねる唇は永く――――抱き合った肌、触れ合った箇所から伝わる熱は、身体だけでなく、心も灯火のように熱く火照らせてくれるかのようであった。



月明かりの差し込む窓の下。互いに一糸まとわぬ姿となって、俺と雛里は天蓋つきのベッドの上で肌を重ね合わせる。

【雛里】
「はぅ………ん、ちゅ…………」

ベッドに腰を下ろした俺の股間からいきり立った肉の棒。それを拙い手つきながら、一生懸命に雛里は愛撫する。
知識は兎も角、実践という面では経験不足とはいっても、一生懸命なその姿を見ているだけでも、充分に心地のよい気分になった。

【雛里】
「ん………ぺろ、ちゃぷ」

口に含むには、些か大きすぎるのか、雛里の愛撫は、竿に舌を這わしたり、手でしごいたりすることに終始している。
そうしているうちに、俺のペニスはどんどんと硬く、大きくなっていく。ただ、さすがにこのままでは、達することはできなようだった。

【一刀】
「雛里、もういいよ」

【雛里】
「んっ………? す、すみません、気持ちよくなかったですか?」

【一刀】
「いや、気持ちいいことは良かったけど………どうせなら、雛里の中に出したいかなって思ったからさ」

【雛里】
「ぁ………そう、なんですか」

俺の申し出に、雛里は目の前にそそり立つペニスを見て、昼間の出来事を思い出したのか、頬を赤く染める。
そんな雛里の身体をそっと押し倒すと、俺はその小柄な身体に覆いかぶさった。

【雛里】
「……なんだか、昼間と違って安心します」

夜の闇にまぎれていることにホッとしているのか、昼間のようにまじまじと見られないという安心感か、雛里はリラックスした様子で俺を見上げてくる。
ただ、闇中といっても、明り取りの窓から刺しこむ月の光が、雛里の姿を艶やかに映し出してくれていたのだった。
陽光に照らされている時は、絹のように滑らかに見えた雛里の肌は、月光に照らされて、白磁のような輝きを見せている。
そんな、美しい少女の肌に手を掛け、滑らかなお腹や、膨らみかけの胸元をさすると、雛里はくすぐったそうに身をよじった。

【雛里】
「ん………ご主人様………」

俺の手を抱き寄せると、指先に雛里が口付けをしてくる。
雛里の何もかもが愛おしくて、彼女と早く一つになりたいと、急いている自分が居た。

【一刀】
「雛里、いくよ」

【雛里】
「は、はい………ん、んっ………!」

ずずっと、鈍い音でしか表現できないほどに、はちきれそうな俺のペニスが、雛里の中に埋没する。
半ば力任せに、彼女の中を蹂躙しているというのに、彼女の膣内は蜜を滴らせて、俺という存在を受け止めてくれるかのようだった。
雛里の身体に、おぼれていく。年下である少女に甘え、全部をさらけ出してしまいそうなくらいに、彼女の身体は俺を魅惑する。

【雛里】
「はぁ…………ぁっ…………ぁっ、ぁぁっ!」

ペースも何もかも考えずに、雛里の身体の中を突き動かしていく。限界はあっという間に訪れて、俺は雛里の膣に射精を始めた。

【雛里】
「っ…………っ…………! はぁ、はぁ…………ぇ、ご主人様………?」

【一刀】
「ごめん、雛里。一回出しただけじゃ、止まらないみたいだ」

【雛里】
「んっ…………はっ、まだ、こんなに、大きく………っ」

中に出したばかりだというのに、これっぽっちも萎えてはいないペニスで膣道をこすると、雛里は身をよじって身体の中を暴れまわる、固い感触に身悶える。
すがるものを探してか、シーツをぎゅっと掴み、俺の攻めを一身で受け止める雛里。
突き上げるたびに、彼女の肌からは汗の玉がはじけ、月光に煌びやかに輝く。上気した頬は、熟れた果実のように赤く、高ぶっているのがありありと見て取れた。

【一刀】
「はぁ、はぁ…………気持ちいいよ、雛里。雛里はどうだ、気持ちいいか!?」

【雛里】
「んっ…………わかりません、こんなの、凄くてっ………!」

【一刀】
「怖がらなくていいんだ、俺と一緒に行こう、雛里」

【雛里】
「っ…………ご主人様、ぁ…………ぁ…………!!」

シーツを掴んでいた雛里の両手をとり、手をつなぎ合わせる。溶け出すように絡み合った股間と、すがるようにつなぎ合わされた両手。
身体も、心も一つになれるようにと願いながら、俺は雛里に覆いかぶさりながら、最後の一突きを深々と打ち込み、彼女の最奥で果てる。

【雛里】
「ぁ…………ぅぁ…………」

行為の最中に、どれだけ達していたのか、分からない程の状況だったのだろう。
最後の一滴が身体の中に注がれる頃には、雛里は、身体を力を全部使い果たしたかのように、脱力した状態で、大きく息を吐いたのであった。



【雛里】
「すぅ…………すぅ…………」

【一刀】
「はは、気持ち良さそうに、寝ちゃってるな………」

激しい行為が終わった後、よほど疲れていたのか、雛里は、そのまま気を失うように眠りについてしまった。
よくよく考えたら、今日は朝から一日中、どたばたと駆け回っていたんだし、無理もないだろう。
その最後で、こんな風に激しいことをすれば、精魂尽きて寝入ってしまっても無理はないといえた。

【一刀】
「今日は一日、おつかれさま。雛里」

【雛里】
「むゃ………ご主人ひゃま………」

そっと、頭を撫でると、寝入っている雛里は、嬉しそうな様子で寝言を呟いた。
さすがに、起こしてしまうのは可哀想だと、俺は頭を撫でるのを程ほどにして、雛里の身体と俺の身体に覆いなおすように、シーツを被りなおした。
今日一日で、雛里が心身ともにリフレッシュできたのなら良いけど、激しすぎたせいで、明日は大変なことになっているかもしれない。
まぁ、そうなったら明日は、出来る限り雛里をフォローしてあげるとしよう。

【一刀】
「それにしても、今日は楽しかったな。また、雛里とこうして遊びに行ける日が来ればいいけど」

【雛里】
「むにゃ………そうれすね」

横になって、瞳を閉じる俺。眠りに入る前に呟いた俺の言葉に、寝ていた雛里が律儀に応答するのに微笑みながら、俺もまた、夢の中に浸っていく。
まどろみに移ろう、その日の最後の刻――――肌を重ねて眠る雛里の、かすかに聞こえる囀るような安らかな寝息が、その日の俺の最後の記憶となった。



――――終――――


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