〜史実無根の物語〜 

〜優勝の御褒美?〜



【朱里】
「ご主人様、こちらの書簡にも、目通しをお願いします」

【一刀】
「ああ、了解……そういえば、朱里。ひとつ聞きたいんだけど」

【朱里】
「……? はい、何でしょうか?」

朱里の差し出してきた書簡を受け取りながら、俺は、先日から気に掛かっていた事を聞いてみることにした。

【一刀】
「この前、開催した天下一品武道会だけど……結局、誰が優勝ってことになったんだ?」

【桃香】
「あ、それそれ。わたしも気になってたんだ〜。朱里ちゃん、そこのところ、どうなの?」

俺の言葉を聞き、隣で似たように書簡と睨めっこしていた桃香が顔を上げた。
政務の仕事を開始して小一時間ほど。いい加減、集中力が切れてだれてきたのか、俺の投げかけた言葉に渡りに船とばかりに乗ってきたようだ。
そんな、俺と桃香を目の前に、朱里はというと、困ったような顔を見せる。

【朱里】
「そのことですが……ご存知の通り、愛紗さんと春蘭さんの試合の決着が付くと同時に、地和さんが閉幕宣言をしてしまって。
 同時期に行われていた流琉さんと翠さんの試合が、勝負なしのまま終わってしまったんです」

【一刀】
「あー、確かそうだったよな。俺、あの後で、華琳に呼び出されたから、良く知らないんだけど……翠が荒れてたんだって?」

【朱里】
「はい……このままじゃ、納得いかないって、愛紗さんに勝負を申し込んでました」

【桃香】
「へぇ……そうだったんだ。まぁ、気づかなかった、わたし達も悪いけど……確かに納得はいかないよねぇ」

朱里の言葉を聞き、桃香が神妙に相槌を打つ。とはいえ、桃香を責めるわけにも行かなかったけど。
なにしろ、俺を含め、愛紗が勝った時点で、全部終わった気になって撤収作業が始まったからな。
翠も流琉も、武人としてのプライドというか、メンツにダメージがあったことは間違いないだろう。

【朱里】
「勝負自体は、後日、星さんと恋さんの立会いのもと、同じく没収試合となった流琉さんを加えて、非公式ながら行われたそうです」

【桃香】
「それって、三つ巴の戦いだって事?」

【朱里】
「はい。最初は翠さんと流琉さんが戦って、勝った方が愛紗さんと戦うという話だったのですが……
 それでは、条件的に不公平だと、愛紗さんが仰ったそうです」

【一刀】
「まぁ、確かにその場合、翠が勝っても流琉が勝っても、連戦になるからな。疲弊した直後で愛紗と戦うとなると、確かに不利だよなぁ」

実力的には、翠と愛紗なら伯仲しているだろうし、流琉だって二人に劣るにしても、そう簡単に負けるとは思えない。
しかし、それも双方が五体満足ならという条件ならだ。翠と流琉が戦って、疲れたほうと愛紗が連戦となれば、結果は火を見るより明らかだろう。

【朱里】
「一応、同等の条件にするため、愛紗さんが星さんか恋さんと戦う、もしくは、愛紗さん対翠さん、翠さん対流琉さん、流琉さん対愛紗さん……
 そんな風に、三戦行っての総合成績で決めるという案も出ましたけど、一発勝負の天下一品武道会との趣旨にそぐわないと」

【一刀】
「三人まとめての、一発勝負って事になったわけか。まあ、ある意味、分かりやすいよな」

【桃香】
「それで、結果はどうだったの?」

【朱里】
「……私も、直接この目で見たわけではなく、星さんの話を伺ったのですけど、かなり激しい試合だったそうです」

興味津々という風に、身を乗り出した桃香に、そう前置きを告げた後で、朱里は人づてに聞いた情報を纏めて、分かりやすく説明するためか、神妙な表情になる。
俺も桃香も、固唾を呑んで、朱里の語る、番外戦の様子に、耳を傾けることにしたのだった。



〜回想・星〜

武闘場――――先日、多くの観客が詰め寄ったこの場所も、過日の賑わいはなく、閑散としている。
空風の舞う石畳の舞台に、熱を感じない城壁は、戦のあとの空虚さを示しているのかもしれない。
だが、そんな状況でも、舞台に上がっている三人は、猛々しい闘志を胸に秘め、己が武器を手に、対峙をしていたのだった。

【愛紗】
「二人とも、準備はいいか?」

【流琉】
「はいっ、こちらはいつでも!」

【翠】
「ああ、いつでもいいぜ! ようは、この三人の中で誰が一番か、はっきりすれば良いからな。分かりやすくていいさ」

【愛紗】
「……まあ、そうだな。とはいえ、それで勝ったところで、最強を名乗るのは、少々、おこがましいとも思うがな」

【恋】
「……?」

その言葉と共に、愛紗の視線がこちらを向く。視線の先は、私の隣に立つ恋に向けられていた。
天下一品武道会に参加をさせてもらえないほどの強者――――愛紗の言葉の意図を察し、翠はふてくされたように、唇を尖らせた。

【翠】
「うっせ、そんなことは分かってるよ。ただ、このままじゃ、なんかスッキリしないから、白黒つけたいと思っているだけだ!」

明け透けとした物言いに、私は思わず笑みを浮かべる。直情型というか、馬鹿なほどに真っ直ぐというか、翠の言葉には、爽やかさすらある。
その言葉に、愛紗も笑みを浮かべた。おそらくは、舞台の上にいる三人とも、多少の差異はあれ、思いは同じだろう。
己が手と実力での決着を。生粋の武人として、矜持と実力を兼ね備えた者ならばこそ、明確な勝敗を望んでいるのかもしれない。
まぁ、私のように、いささか趣きを大切にする者や……恋のように、そもそも、そういった矜持を持ち得ない者もいるが、一概に、どれが良いともいえないだろう。
主の言を借りるのなら、それもまた、愛嬌のようなものであるらしいが――――と、そんなことを考えている場合ではなかったな。

【星】
「では、準備はよろしいか? 勝負は一度。場外、戦闘不能の判断は、私と恋が行なう。三人とも尋常に試合うといい」

【恋】
「…………(コクッ)」

【三人】
「………………」

私の言葉に、恋が同意の意思を表すように頷くと、愛紗と翠、そして流琉の三人は、改めて武器を構えなおした。
一触即発の気迫が、三者の合間で渦を巻き、私の肌を焼くような錯覚すら感じさせる。戦場に近しいその空気。
しかし、その空気は無軌道に渦を巻くのではなく、僅かな方向性を帯びていることも感じられた。

【星】
(ふむ………やはり、そういうことになるか)

じりじりと、互いに中てつける気迫。その気迫は、目の前にいる敵に、それぞれ向けられているように見えて、その密度に明確な違いがあった。
愛紗は、翠と流琉の双方に等分に気を配っている。どちらが動いても、即座に対応しようとしているようだ。
翠と流琉は、その集中の半ばを、愛紗に向けている。無論、愛紗にばかり感けて、横合いから痛撃を受けるのは論外だが、やはり、愛紗を意識せざるを得ないだろう。
奇数での勝負である以上、二対一の局面になるのは必然の流れであり、愛紗も自らが狙われることは半ば以上、予想していたのだろう。
それを踏まえたうえで、関雲長に対し、錦馬超と悪来典韋がどう戦うか、興味深いものになりそうだった。

【星】
「では………はじめ!」

【翠】
「だぁらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

私の言葉と同時に、仕掛けたのは翠。穂先を雷光のように閃かせ、間断のない突きを愛紗に向けて連続して放つ。
並みの使い手なら、初手で決定打を受けるであろう鉄の閃光。しかし、愛紗は青竜刀を巧みに扱い、それをいなし続ける。
そして、ほんの僅かな隙を見つけ、退くのではなく、前へと踏み込んで斬撃を放ち――――逆襲に転じた。

【愛紗】
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

【翠】
「うわっ、くっ……!」

文字通り、瞬時に攻守が逆転する。翠の槍捌きを稲妻とたとえるならば、愛紗の斬撃は怒涛と評するに値するだろう。
突き、薙ぎ、払い………次々と津波のように押し寄せる愛紗の連撃――――それを、何とかいなしつつも、翠はじりじりと後退する。

【星】
「さて、始まったわけだが、この勝負、恋はどう見る? 順当に行けば、愛紗の勝ちの目が多いとは思うが」

【恋】
「いまの愛紗は、いつもの愛紗よりも、すごく強い………」

【星】
「ふむ………それほどか。先日、真正面から春蘭を打ち破って、気迫が充実しているのは分かったが、とはいえ、それでは順当過ぎて、つまらなくもあるが」

まさか、直ぐに決着がつくこともあるまいと、恋との会話に興じていた私は、あらためて舞台の上に視線を戻す。
攻め立てる愛紗に、防戦一方の翠。そうしてもう一人、開始の合図から、双方の様子を伺っている流琉の姿がそこにある。
言っては何だが、流琉の実力は、愛紗や翠には劣るだろう。おそらくは、蒲公英と同等かそれ以上か………ともかく、三者の中で一番下なのは間違いない。
とはいえ、勝ちの目がまったく無いというわけではない。流琉の持つ武器は、二人に比べれば小回りが利かないが、一撃の破壊力は上を行く。
それに、実戦ではない試合形式という状況――――場外負けなども考慮に入れれば、漁夫の利を得る可能性も充分にありえた。

【翠】
「ぐっ………」

と、そんなことを考えているうちに、押されていた翠が、愛紗に舞台の端に追い詰められた。後方に退路は無い。
右に回避するか、左に避けるか――――ほんの僅かな、翠の葛藤……それを見逃すまいと、愛紗は肉迫し、青竜刀を振りかぶり――――

【流琉】
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

【愛紗】
「っ!」

【翠】
「うわ!」

その刹那、流琉の持つ武器が、足を止めた愛紗と、とっさに左に避けた翠の間を割って通り過ぎた。
流琉が手早く武器を手元に引き戻す合間に、翠も転がるように身を沈め、愛紗から間合いを離す。
仕切りなおしとなった状況で、さりげなく両者の合間を攻撃できる位置に、流琉がじりじりと移動する。

【星】
「ふむ………なるほど、悪くない判断だ。というより、勝ちを拾うには唯一の方法でもあるか」

一対一では、不利が否めないのならば、両者が争っている時に倒すしかない。加えて、先ほどのように、舞台の隅に両者がいれば、双方共に場外に落とせる可能性もある。
他の二人よりも、更に武器の間合いが広いのが、流琉の唯一、有利な点であろう。
両者の疲弊を待ち、隙を見て双方に同時に一撃を加える――――言うのは難し、行うのは更に難しであろうが、けして不可能なことでもない。
無論、そういった危険を考慮に入れるならば、愛紗と翠が手を組み、まずは流琉を倒して改めて決着を……という考えもあるのだが……

【愛紗・翠】
「………………」

双方共に、その気配は無い。流琉の妨害を計算に入れていないのか、それすらも撥ね退け、自らが勝利することが出来るという自信があるのか。

【星】
「まぁ、後者であろうな」

【恋】
「…………?」

一人ごちた私の呟きを聞きとがめ、恋が怪訝そうに、こちらを見つめてくる。と、再び舞台上で動きがあった。
先ほどは、先の先を切り返されることになった翠が、再び槍を構え、果敢に前に出たのである。それに呼応するように、愛紗と流琉も動く。

【翠】
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

【流琉】
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

【愛紗】
「!」

正面から翠の槍が襲い掛かり、横合いからは、流琉の得物が飛来し、愛紗は僅かに後退する。
連携を、とっているわけではない。翠と流琉も敵同士であり、双方共に、警戒する様子が見て取れた。
しかし、その不規則な動き、微妙なずれが、逆に愛紗にとっては、読みをしづらくしているようであった。
たとえばこれが、翠と蒲公英の連携ならば、数手で愛紗は見切っていたかもしれない。だが、てんでばらばらながら、双方共に鋭い攻撃を出してくる。
時折、流琉の攻撃は翠にも向けられ、それに応対するように、翠は足運びを変え、なおも愛紗への攻撃の手は緩めない。
普段とは違った足運び、間合いの取り方をされ、愛紗は自らの間合いをつかめないまま、後退を続ける。

そうして、数十合に渡る刃の応酬の後、今度は愛紗が、舞台の角に追い詰められることになった。
正面に翠、斜め横合いに流琉。先ほどの翠は、左右に避ける余裕があったが、四隅の角ということもあり、左右への回避も困難である。
絶体絶命ともいえる、愛紗の状況。あせりだろうか、僅かに顔をしかめ、翠と流琉に視線をめぐらす愛紗。

【翠】
「もらったぜ、愛紗!」

【流琉】
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

勝どきの声を上げ、踏み込む翠。ここが勝負どころと、流琉も己が武器を、愛紗と翠、両者を巻き込むようにと、気迫をこめて投げつける!
迫る、二つの武器――――その瞬間を待っていたのだろう。

【愛紗】
「ここだっ!」

先の先、迫る槍を、愛紗は受け止めることもせず、なんと、己が武器を手放すと、紙一重、いや、間一髪というほどの動きで、至近距離で避ける。
そのまま、倒れこむように、身を投げ出しながら、翠の持つ槍を、片手で掴んだ。両手で槍を持つ翠にとっては、それはたいした障害ではない。
ほんの一瞬、動きが止まるだけで、あとは振りほどかれてしまうだろう。だが、その一瞬に――――

【翠】
「な!? うわっ!」

【流琉】
「あっ!?」

流琉の投げた武器が、動きを封じられた翠に直撃したのである。槍を手放して、もんどりうって、舞台から転落する翠。
身を低くし、流琉の攻撃を避けた愛紗が身を起こす。それを見て、流琉は悔恨の表情を浮かべる。出来ることなら、愛紗も同時に、場外に落としたかったところだろう。
しかし、それでもなお諦めはしないと、流琉は己が武器を引き寄せようとする。愛紗の青竜刀は地面に転がっており、取りに行くまでの僅かな猶予に次の一撃をかけようとした。
だが、愛紗は、青竜刀に向かおうとはせず、まっすぐに流琉に向かい、飛び掛ったのである。その手には、鉄の穂先――――翠の槍が握られていたのである。

【流琉】
「あっ………!?」

【愛紗】
「勝負あり、だな」

【翠】
「いつつ………って、あー、アタシの槍! いつの間に……」

【愛紗】
「別に、相手の武器を使ってはならないという取り決めは無かったはずだし、問題は無いだろう、星?」

場外負けになった翠が、驚いた声をあげると、流琉に槍を突きつけたまま、愛紗が判断をゆだねるように、こちらを見てくる。
無論、こちらに視線を向けたままでも、流琉に対する槍の穂先は少しも揺らいではおらず、傍から見ても、隙のかけらも見出せなかった。

【星】
「やれやれ、弘法筆を選ばずと主は言っていたが、愛紗ならばそうなのかもしれんな」

【愛紗】
「……? なんのことだ?」

【星】
「なに、気にするほどの事でもない。ともあれ、この勝負、愛紗の勝ちとする! 翠も流琉も、異論は無いな」

【流琉】
「ま、まいりました」

【翠】
「ちぇっ………場外負けなんて、かっこ悪いったらないぜ」

私の言葉に、緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込んだ流琉。翠は場外負けという結果が不満なのか、ぶつぶつと愚痴をこぼす。
とはいえ、両者共に良くやったと言えるだろう。序盤から最後まで、見ごたえのある試合であった。
惜しむらくは、観客もおらず、酒を飲む用意をしていなかったところかな。
愛紗が翠に槍を返す光景を見ながら、激闘の余韻を楽しむように、私は内心でそんなことを考えていたのであった。

〜回想・終了〜



【朱里】
「………というわけで、愛紗さんが、翠さん、流琉さんを打ち負かして勝利したとのことです」

【桃香】
「はへ〜………なんだか、凄かったみたいだね」

熱のこもった、朱里の説明が終わると、桃香が感心したように息を吐く。俺も、高鳴る胸の興奮を抑えるように、大きく息を吐いた。
実際に、その戦いを目の当たりに出来なかったのは残念だけど、朱里から聞いた話だけでも、充分に満足のいく内容だったのは間違いない。
知らず知らず、渇いていた喉を、温くなったお茶で湿らして、ホッと一息したあとで、俺は考えをまとめるように、朱里に聞いてみた。

【一刀】
「………ということは、武道会の優勝は、愛紗ってことにしていいのかな? 次点で、流琉、翠の順番って事で」

【朱里】
「そうですね。勝敗の推移を聞いた限りでは、それが妥当かと」

【桃香】
「って、あれ? 春蘭さんは? 準決勝で愛紗ちゃんに負けちゃったけど、翠ちゃんや流琉ちゃんとは戦ってないし……」

【一刀】
「――――あー……春蘭のことは気にしなくていいよ。というか、スルーの方向で」

【桃香】
「ほへ? するぅ???」

【一刀】
「春蘭は、犠牲になったんだ………華琳の逆鱗に触れたみたいでな」

窓の外に見える、雲のたなびく青空。そこに映る、笑顔の素敵な春蘭の幻に、ムチャシヤガッテ……と内心で敬礼する俺。
俺の言葉に、桃香は額に汗を浮かべながら、んー、と考え込む様子を見せる。
聞くか聞くまいか、興味本位だけど、聞くのは怖いといった風に、迷っていたようだが、最終的には好奇心が勝ったようだ。

【桃香】
「そういえば、撤収作業の時、ご主人様って華琳さんに呼び出されてたよね。その時に、何かあったの?」

【一刀】
「…………まぁ、色々とな。春蘭に、お仕置きするのを手伝わされたんだよ」

桃香の問いに、俺は曖昧にそういって、具体的な方法を明言するのは避けた。
ちなみに、その方法とは――――春蘭を両手両足を拘束し、猿轡をかませて放置し、その横で、俺と華琳がいちゃつくといった方法である。
その時は、その程度かと、逆にホッとして華琳の誘いにホイホイのってしまった俺だったが、返す返すも拙いことをしたと、今は反省している。
本気で迫ってきた華琳と、最後までしてしまったのは良いとして………それに参加できず、見ているだけ状態の春蘭は、魂が抜けたみたいになってしまったからなぁ。

【一刀】
「例を挙げるなら、砂漠で渇き死にしそうなとき、水源が近くにあっても動けず、その水辺で楽しく水遊びをするのを見せ付けられるような、精神的な苛めかな」

【桃香】
「うわぁ……な、なんだか分かりづらいけど、けっこう酷いね、それ」

【一刀】
「そういえば……春蘭に、どんなお仕置きをしたかを誰かに聞かれたら、俺を例に出して説明すればいいって華琳は言っていたな」

【朱里】
「ご主人様を例に、ですか?」

俺の言葉に、朱里がきょとんとした表情で首を傾げ、桃香もどういうことだろうと、目をぱちくりと瞬かせる。
そんな二人の前で、俺は頭をひねりながら、華琳に言われた言葉を思い出して、口に出して見せた。

【一刀】
「ええと『一刀が、自分の目の前で、他の女の子と仲睦まじくしている。そんな光景を、延々と見せ付けられる事を想像してみなさいな』って華琳は言っていたけd」

【桃香・朱里】
「ひ、ひどい………!」

【一刀】
「うぉっ」

最後まで言う前に、異口同音に朱里と桃香が叫んで、俺は思わず言葉を止めた。
桃香は、泣き出しそうな表情になっちゃってるし、朱里はというと、真っ青になってガタガタと震えていたりするのであった。

【朱里】
「な、なんて恐ろしい罰を考え付くんでしょうか……私、桃香様が主君で良かったと思います」

【桃香】
「そ、そうだね。いくらなんでも、それはちょっと酷いよね」

朱里の言葉に、こくこくと頷く桃香。どうやら、桃香や朱里にとっては、華琳の挙げた具体例のほうが、分かりやすかったようだ。
よほどショックを受けたのか、二人とも顔を曇らせたままで、春蘭のことを気の毒に思っている様子が、ありありと見て取れた。

【桃香】
「ねえ、ご主人様、私たちが言うのも差し出がましいだろうけど、春蘭さんを慰めてあげたほうがいいと思うよ。かわいそうだと思うし」

【一刀】
「そうしたいのは、やまやまなんだけど、華琳にしばらくは、春蘭を構っては駄目って釘を刺されてたしなぁ」

桃香の言葉に、俺はそういうと、頭をかく。魂の抜けたような春蘭は確かに気になったけど、主君である華琳に駄目と言われては、俺としても何も出来ない。
まぁ、いつも通り秋蘭がフォローに回ってくれているし、そこまで心配はしてないけど。華琳も、本気で春蘭を潰そうとは思ってないだろうし。

【一刀】
「まあ、それとなく、春蘭を許してあげるように、華琳に掛け合ってはみるよ。俺としても、華琳達の仲が良いほうが嬉しいわけだし」

【桃香】
「そうだね。頑張ってね、ご主人様」

【一刀】
「華琳を説得するのは、骨が折れそうだけどな。まぁ、春蘭の事は、後日に何とかするとして………話を戻すけど、武道会の優勝者は愛紗って事にして良いんだろうか?」

【朱里】
「せっかく開催した大会が、優勝者なしというのも問題でしょうし、翠さんや流琉さんの件も、非公式ながら決着も付いたことですから、問題ないかと」

【桃香】
「ご主人様………なんだか、妙に優勝者に拘ってるみたいだけど、どうして?」

【一刀】
「いや、武道会の大会規定ってあっただろ? その中の規定十ってとこが気になってて」

【桃香】
「規定十………って、なんだっけ、朱里ちゃん」

俺の言葉に、桃香は戸惑うように、朱里に助けを求める。まぁ、大会のルールなんて、実際に覚えている人のほうが少ないよな。
自分に関係のある、規定十の項目以外は、俺もこれっぽっちも覚えていないわけだし。

【朱里】
「はい、大会の規定十は優勝者への報酬内容だったと思います。たしか、千金の報酬と……ご主人様に願い事を叶えてもらう権利でしたっけ」

【一刀】
「そう、それだよ。さすが朱里、よく覚えているなぁ」

【朱里】
「運営に携わってましたから。それはそうと……優勝者を愛紗さんにするということは、報酬も?」

【一刀】
「ああ。愛紗に報酬を渡すってことになるな。やっぱこういう大会で、胴元が誰にも賞金を渡さないままってのも、体裁が悪いと思ったんだけど……朱里は、不満かな?」

【朱里】
「はわっ……い、いえ、千金の報酬については問題ありません。もともと、予算の中に含まれてますから。それよりも、その……」

ゴニョゴニョと、口中で呟きながら、何か言いたそうにする朱里。上目づかいで、俺のほうを見てくるけど、どうしたんだろう?
その様子を見ていた桃香が、くすくすと楽しそうに笑顔を見せて、相好をほころばせる。

【桃香】
「朱里ちゃんは、もうひとつのほうが気になるんだよね。愛紗ちゃんが、ご主人様にどんなお願いを言うのか」

【朱里】
「はわ……そ、そうですけど………桃香様は気にならないんですか?」

【桃香】
「うーん、そうだねぇ……愛紗ちゃん頑張ってたし、どんなことを、ご主人様に願うんだろうね? 楽しみだなぁ」

【朱里】
「…………時々、思うんですけど。桃香様って大物ですよね。優勝者の望みがどんなものになるか、普通は気が気じゃなくなると思うんですけど」

【桃香】
「あはは、私だって、そんなに聖人君子じゃないよ。優勝したのが愛紗ちゃんだからね…………まぁ、だからこそ逆に心配なとこもあるんだけど」

【一刀・朱里】
「?」

笑顔から一転、どこか心配そうな表情になる桃香に、何のことだろうと、俺も朱里も首を傾げる。
と、そんな風に噂話をしていたせいもあるのか、件の話題になった相手が、トントンとドアをノックし、部屋に入ってきたのは、その時であった。

【愛紗】
「失礼します。ご主人様は、御在室でしょうか? 少々、尋ねたい懸案がありまして」

【一刀】
「ああ、いらっしゃい、愛紗。ちょうどいいとこに来たね。今、桃香達と話しをしていたんだけど」

【愛紗】
「……? はあ、どうかなされましたか?」

【一刀】
「この前、天下一品武道会を行っただろ? 色々あったけど、優勝者は愛紗にするって事で、話がまとまったから」

【愛紗】
「………そうですか。ありがとうございます」

俺の言葉に、誇らしげに、笑みを浮かべる愛紗。その様子は誇らしげであり、やっぱり愛紗も、一介の武人なんだなと、そんな風に思う。
嬉しそうな表情を見せる愛紗に、コホンと咳払いをして間をおいてから、俺は改めて、本題を彼女に聞いてみることにした。

【一刀】
「で、頑張った愛紗に、優勝者への報酬が与えられる事になったんだけど、何がいいかな?」

【愛紗】
「ああ、その事ですか。確か、千金と………」

【桃香】
「ご主人様が、何でも言うことを聞いてくれるって話だよ。この際だから、愛紗ちゃんも遠慮なく言っちゃえばいいよ」

愛紗の言葉をつなぐように、桃香が愉しそうな表情で、愛紗をたきつけるように、そんなことを言う。
いや、確かにそういう規定だったけど、あまり無茶なことを言われても、困るんだけどな。多少の無茶なら、喜んで受ける気満々だけど。

【愛紗】
「そうですか。では、遠慮なく一つ、願いを口にすることに致しましょう」

【一刀】
「う……お、お手柔らかなのにしてくれよな」

【愛紗】
「そんな風に、警戒をされなくても宜しいですよ。私の願いは、至極単純なものですから」

警戒するように、思わず後ずさった俺を見て、愛紗は苦笑を浮かべると、不意にその笑顔を消して、真摯な表情で俺を見つめてきた。
まっすぐに、愛紗に見つめられて、胸の鼓動が跳ね上がる。目をそらすことも出来ず、愛紗に見とれる俺の前で、その形の良い唇が動き、言葉を発した。

【愛紗】
「どうぞ、平時から自らを御自愛するように、お願いします。私の願いは、それに尽きるのですから」

【一刀】
「………え? つまり、それってどういうことだ?」

一瞬、愛紗が何を言っているのか分からず、俺は周囲にいた朱里と桃香に、答えを求めるように視線を向ける。
二人も、愛紗が言った言葉の意味を捉えかねていたのか、どこか戸惑った表情を見せていた。
そんな俺達の様子を見てか、愛紗は、静かにその顔に微苦笑を浮かべると、俺に向かって説明をしてきた。

【愛紗】
「ですから、言葉通りの意味ですよ。ご主人様は、時折、無茶をされますから。先日の風邪の一件もありますし、御自愛をされるのが、私にとって何よりの報酬なのです」

【一刀】
「ああ、この前の風邪か………あの時は、愛紗にも心配かけたね」

【愛紗】
「――――朱里から報告を受けたときは、心胆が凍るかと思いました。あのような思いは、二度としたくありませんから」

俺が風邪で倒れた一件――――桃香や愛紗をはじめ、方々に心配をかけた騒ぎを思い出したのか、愛紗の顔が曇る。
実際、この時代では僅かな風邪も、命に関わる大事になることもある。現代と違い、医療が発達していないから、病気で亡くなる人も多い。
病気で寝込んでいた時の、上へ下への騒動は、後で聞いても、申し訳ない気持ちで一杯だった。健康って、大事だよな。

【愛紗】
「無論、政務を怠れといっているわけではありません。ただ、出来るなら、それ以外の時には、御身体を気に掛けて頂きたいのです」

【一刀】
「ああ。分かったよ、愛紗。無理はしないように気をつけるよ」

【愛紗】
「ありがとうございます」

【一刀】
「………で、願い事は?」

【愛紗】
「で、とは?」

【一刀】
「いや、その話はそれとして、武道会で愛紗が優勝した報酬を、俺、聞いてないんだけど」

【愛紗】
「――――今、申し上げたではありませんか。御自愛していただくのが、私にとって何よりの報酬だと」

【桃香】
「…………」

【愛紗】
「そもそも、そういった後で、何かを御主人様に求めて負担をかけるのも、白々しいと思いませんか?」

【一刀】
「………いや、まぁ、そうかもしれないけど」

デートにつれてけ、とか、欲しいものがある、とか言われると思っていたから、何となく肩透かしを食らったような気持ちである。
しかし、そういう部分で徹底しているのも、愛紗らしいといえば、そうなのかもしれない。忠義一辺倒なのも、愛紗の良い点だしなぁ。

【一刀】
「愛紗がそういうなら、それでもいいけど、気が変わったなら、何か願い事を言っても良いからな。どうも、俺的には消化不良な気持ちなわけだし」

【愛紗】
「はい、ありがとうございます。それはそうと、一つ、懸案について伺いたいところがあるのですが」

話は終わりとばかりに、そういって手に持った書簡を机の上に広げる愛紗。
向こうから打ち切られては、それ以上蒸し返すことも出来ず、結局、その話は、それっきりとなってしまったのであった。



【愛紗】
「………ふぅ」

【桃香】
「愛紗ちゃん」

【愛紗】
「……!? 桃香様? どうなされたのですか? 政務の方は、まだ残っているように見受けられたのですが」

【桃香】
「ちょっと、御手洗いに行くって抜け出してきたの。愛紗ちゃんに聞きたいこともあったから」

【愛紗】
「――――何でしょうか?」

【桃香】
「うん………なんで、あんな事を、御主人様に言ったのかなぁって。本当は、別に言いたいことがあったんでしょ?」

【愛紗】
「その様な事は、ありませんよ。あの場で言ったことは、私の本心です」

【桃香】
「もちろん、そのことは分かるよ。だけど、武道会の時の愛紗ちゃんの願い事とは、なんだか違うんじゃないかとも思うんだ」

【愛紗】
「…………」

【桃香】
「――――ひょっとして、私のせいでもある、かな? 御主人様に続いて、私も風邪で寝込んじゃって、愛紗ちゃんに心配かけちゃったし」

【愛紗】
「……桃香様が悪いわけではありません。これは、私自身への戒めのようなものですから」

【桃香】
「戒め?」

【愛紗】
「名立たる豪傑を打ち負かし、武道会で名を馳せても、大事な人が病気になった時、私は何も出来ずにいました。
その時、思ったのです。これは、天からの私への警告なのだろうと。お前は何なのだ、愛紗、武を極めんとしたお前の性根はどこにあるのだ、と。
武道会に出て、優勝しようとした動機は、御主人様の寵愛のため――――そんな動機の私に、天が警告を与えたのではないかと思ったのです」

【桃香】
「……それは、違うと思うよ。御主人様が風邪を引いたのは、たまたまだし、愛紗ちゃんの責任じゃないと思う」

【愛紗】
「おそらく、そうでしょうね。ですが、勝負に勝って有頂天になっていたのは事実です。ですから、武道会の報酬は、あれでよいのですよ」

【桃香】
「もぅ………せっかく、御主人様に可愛がってもらえる機会なのに、もったいないなぁ」

【愛紗】
「それは、桃香様や鈴々にお任せしますよ。私は、御主人様が健やかでいてくだされば、満足ですから」

【桃香】
「こんなに愛紗ちゃんに愛されてるって、御主人様は知らないんだろうなぁ」

【愛紗】
「それで、良いのですよ」

【桃香】
「私としては、良くないと思うんだけどね………」



【一刀】
「ぁー………終わったぁ」

今日の仕事を何とか終わらせ、俺は背筋を伸ばして、大きく息をつく。既に日もとっぷりと暮れて、外は真っ暗である。とはいえ、今日はまだ、ましなほうか。
下手をすると、仕事が終わる頃には、朝日が昇っているなんてことも時々はあるからな。なんにせよ、今日の仕事も終わり、後は寝るだけである。
と、寝床に入ろうと考えていると、腹の虫が盛大に鳴った。

【一刀】
「う………さすがに、夕食から時間が経ちすぎてるからな。これは、寝る前に小腹に何か入れとかないと、寝付けないかな」

本当は、寝る前に物を食べるのは、あまり良くないんだろうけど……空腹のまま寝床に入っても、眠れそうにはない。
本格的な料理はできないにせよ、厨房に行けば、何か残り物でもあるんじゃないだろうか?
そんなことを考えながら、俺は部屋から出て、城の厨房に向かうことにする。

その途中の廊下で、見知った顔とばったりと、鉢合わせすることになった。

【愛紗】
「ご主人様………? こんな夜更けに、どうなされたのですか」

【一刀】
「ああ、愛紗か。なんだか、おなかが空いてさ。寝る前に何か食べるものはないかって、厨房に行こうとしてたんだけど」

俺の言葉に、愛紗は呆れ顔になった。まぁ、こんな夜更けの時間だしな。
殆どの人が寝付いている時間に、厨房まで行こうというのは、さすがにどうかとも思う。けど、空腹には勝てないからなぁ。

【愛紗】
「御自愛をしてくださいと、昼間も申し上げたでしょう。このような時間に間食など、身体に良くはないでしょうに」

【一刀】
「それは分かるけど、さすがに我慢できなくてね。別に、炒飯とか重いものじゃなくて、お粥とか、そういうのを少し入れようと思ってたんだけど。
 あまり空きっ腹を抱えたままで寝ると、胃に穴が開いてしまうかもしれないし」

【愛紗】
「……胃に穴、ですか?」

【一刀】
「俺のいた世界だと、胃潰瘍とか、そういった風に言われてるけど……まぁ、詳しいことは今度、華佗にでも聞いてみるといいよ。それじゃ」

【愛紗】
「あ、お待ちください、ご主人様!」

いい加減、空きっ腹も我慢できなかったので、適当に話を切り上げて厨房に向かうことにしたのだが………愛紗もなぜか、俺の後についてきたりする。



【一刀】
「さて、厨房に着いたわけなんだが……さすがに、この時間だと、何も残ってないかな」

愛紗を伴って、というか、付いてこられて到着した厨房は、綺麗に片付けられている。冷蔵庫とかもないわけだし、食品は使いきりが基本だからな。
まあ、ある程度は日持ちの効く米とか、調味料、野菜の一部は厨房の傍らに保管されているので、それで何か作れなくもないわけだが。

【一刀】
「とりあえず、米はあるみたいだし、お粥でも作ってみるかな」

【愛紗】
「――――その、ご主人様」

厨房のあちこちを散策しながら、俺が一人ごちていると、厨房の入り口に控えていた愛紗が、おずおずと声をかけてきた。
城内とはいえ、夜中は物騒だということで、護衛がてらに付いてきてくれたみたいだけど、どうしたんだろうか?

【一刀】
「ん? どうしたんだ? ひょっとして、愛紗も、おなかが空いてきたのか? それなら、二人分作るけど」

【愛紗】
「いえ、そうではなくてですね……お粥を作ろうとしているんですよね」

【一刀】
「ああ。本格的なものは無理だし、さっきも言ったけど、小腹を満たせれば良いと思ってるからな」

【愛紗】
「でしたら、私に作らせていただけないでしょうか」

【一刀】
「え?」

【愛紗】
「ですから………私に、ご主人様の夜食を作らせていただきたいのですが」

そういって、照れたように俯いてしまう愛紗。その様子はとても可愛らしいものだったけど………。

【一刀】
「愛紗が、料理を?」

【愛紗】
「はい」

【一刀】
「……それって、何の罰ゲーム?」

【愛紗】
「どういう意味ですか、それは」

【一刀】
「いや、だって………なぁ」

憮然とした顔をする愛紗から、視線を逸らして俺は何とも言えずに言葉を濁す。
どうにも、愛紗と料理という組み合わせは、負のイメージしか浮かばない。何しろ、最初のアレが強烈過ぎたからな。
まぁ、ここ最近は、桃香と一緒に色々訓練しているみたいだし、きっと、大丈夫、なはずだろう………多分。

【一刀】
「――――分かった。それじゃあ、俺はここで見てるから、ちょっと作ってみてくれよ」

【愛紗】
「はい、それでは………そちらで、お待ちになってくださいね」

俺の言葉に、嬉しそうな顔になると、いそいそと、厨房に用意されていたエプロンを身に着ける愛紗。
その光景は、眼福ものだったけど、素直に喜んでばかりもいられない。愛紗の料理か………果たして、どうなることやら。
できれば、無事に食べれるものが出てくればいいけど。厨房の椅子に腰掛けながら、俺はエプロン姿で立ち回る愛紗を見つつ、そんなことを考えていた。



【愛紗】
「お待たせしました、ご主人様――――どうか、なされましたか?」

【一刀】
「驚いたな………普通じゃないか」

【愛紗】
「普通………って、どんな事を予想していたんですか」

それから、しばらくの後、俺の目の前には、愛紗の作った料理がならんでいた。
米のお粥に、野菜のスープ、それに――――付け合せの漬物も、不恰好な切り口ながら用意されていた。
厨房での愛紗の動きを見る限り、どんでもない失敗もしていないみたいだし、夜食としては、文句なしといえた。

【一刀】
「ま、まぁ、細かいことは、いいじゃないか。それじゃあ、食べてもいいんだよね」

【愛紗】
「はい――――あ、少々、お待ちください。まだ熱そうですし」

と、愛紗はそういうと、レンゲを手にお粥を一掬いすると…………

【愛紗】
「ふぅ、ふぅ………はい、どうぞ」

【一刀】
「え、ちょ――――…一人で食べれるって! それに、誰かに見られたら恥ずかしいしさ」

【愛紗】
「ふふ………こんな夜更けですし、誰も見ていませんよ」

恥ずかしがる俺が面白いのか、愛紗は微笑を浮かべながら、お粥を差し出してくる。
まぁ、確かに誰も見ていないだろうし、いいか。俺は覚悟を決めて、口を開いてお粥を食べてみる。

【愛紗】
「ど、どうでしょうか?」

さすがに、評価が気になるのか、真剣な表情で聞いてくる愛紗。俺はお粥を軽く咀嚼して飲み込むと、素直な観想を口にする。

【一刀】
「うん、美味しいよ。なんていうか、いい塩加減だと思う」

【愛紗】
「そうですか……良かった。ご主人様の好みに合うか、些か不安だったので」

【一刀】
「そういえば、ちゃんと味見をしていたよな。おかげで、それほど警戒はしてなかったけど」

【愛紗】
「料理を作るのですから、味見は必要でしょう。何も知らなかったときならいざ知らず、そんな失敗はしませんよ」

得意げな表情で、そんなことを言う愛紗。それにしても、格段の進歩だよな。
最初の頃は、別名、死を呼ぶ一皿と呼ばれるような代物を作ったり、とんでもない味付けの炒飯を作ったりしてたからな。

【愛紗】
「それでは、次はこちらはいかがでしょうか?」

と、そんなことを言いながら、愛紗の持つレンゲが掬ったのは野菜のスープ。それもまた、湯気が立って美味しそうだけど………

【一刀】
「いや、だから、一人で食べられるんだけどなぁ」

【愛紗】
「さあ、どうぞ」

聞こえているはずなのに、余裕でスルーする愛紗。何と言うか、生真面目な愛紗にしては、珍しくこの状況を楽しんでいるように見える。
こういうとき、普段なら誰かしらが厨房に入ってくるけど、そういうこともなく――――結局、愛紗の手で俺は夜食を完食することになったのであった。



【一刀】
「ふぅ………ごちそうさま。美味しかったよ」

【愛紗】
「ありがとうございます。頑張って、作った甲斐がありました」

夜食を食べ終えて、食後のお茶で一服している俺を見て、愛紗は満足そうな表情を見せる。
優しげな笑顔で見つめられるのが気恥ずかしくて、お茶をすすることで、何となく時間を潰す俺。
そんな俺を見つめながら、愛紗はどこまでも優しく、俺に問いかけてくるのだった。

【愛紗】
「それで、お腹の具合は大丈夫でしょうか? 満ち足りて、寝付けるようにはなりましたか?」

【一刀】
「ああ、満足してるよ。このまま、寝入っちゃいたいくらいさ」

【愛紗】
「ふふ、このようなところで寝ては、風邪を引いてしまいますよ。少々、お待ちくださいね。片づけを済ませたら、部屋までお送りしますから」

そういうと、愛紗は席を立ち、厨房の後片付けを始める。エプロン姿の愛紗の、そんな様子を見て、俺は眩しいものを見るように目を細めた。
なんだか、いいな。こういう愛紗も。普段の凛としている様子も好きだけど、こういう女の子らしい一面も、彼女の一部だと思う。
そういう光景が見られるのも、平和になったからなんだなぁ………愛紗の普段とは違う一面をみながら、俺はそんな感慨にしばしの間、ふけっていたのだった。



片付けを終えた後で、俺と愛紗は夜の城内を歩き、寝室に向かう。その途中で、俺はふと、気になったことを聞いてみた。

【一刀】
「そういえば、愛紗は何で、夜中にあんな所に居たんだ? 特に用事がないのに、あんな場所にいるはずもないし」

【愛紗】
「ああ、その事ですか。それは、ご主人様の様子を見に行くところだったのですよ」

【一刀】
「俺の?」

【愛紗】
「はい、私の言ったことを守って、御自愛してくれているかどうか、気になったもので」

【一刀】
「わざわざ確認に? 信用ないんだな、俺って」

【愛紗】
「信頼はしていますよ。ですが、それとは別に、頑張ってしまうのも知っていますから」

肩を落とす俺に、微笑を浮かべながら、そんなことを言う愛紗。
ああ、なんだか良いな。愛紗が愛おしくてたまらない。愛紗から向けられる気持ちが、とても心地よい。
並びながら、夜の渡り廊下を歩く。外には満天の星、銀円の月。時を切り取れるなら、この時間がずっと続いてもいいと思った。



【愛紗】
「それでは、私はこれで失礼します。おやすみなさい、ご主人様、良い夢を」

たどりついて部屋の前で足を止めて、愛紗は就寝の挨拶をしてくる。そんな彼女を見返して、俺はさっきの厨房での言葉を撤回することに決めた。
お腹は満腹だけど、寝付くのには、足りなさ過ぎる。身体は兎も角、心は満ち足りることを望んでいて、眠れそうもなかった。

【一刀】
「ああ、そうだ。愛紗、ちょっとじっとしてて」

【愛紗】
「はい?」

俺の言葉に、愛紗は困惑した顔をしながらも言うとおりに、その場にいる。俺は、そんな愛紗に近寄ると――――

【一刀】
「よっ、と」

【愛紗】
「ひゃ!? な、何をなさるのです、ご主人様!」

【一刀】
「何って、見てのとおり、愛紗を抱きとめているんだけど」

戸惑う愛紗の声が、すぐ傍から聞こえる。本気どころか、ちょっと力をこめれば振りほどけるだろうけど、愛紗は動かない。
律儀に、俺の言葉に従ってじっとしているというより、気が動転して固まっているってのが正解なんだろう。
真正面から抱き合う体勢………どくどくと、早鐘のような鼓動を感じる。それは、密着した愛紗の胸の鼓動か、俺の心臓の音か、判断しづらいところだった。

【愛紗】
「お、お戯れはやめてください!」

【一刀】
「戯れなんかじゃなくて、本気なんだけどな……俺の気持ち、分かってくれるだろ」

【愛紗】
「御主人様…………んっ」

抱き合ったまま、間近で見つめあい、唇を合わせる。最初は優しく、徐々に荒々しく、息を忘れるほどに無我夢中で、愛紗とキスを続ける。
蕩けるような時間をすごし、息苦しくなって唇を離し、息を吸う。長い時間のキスで、気が抜けてしまったのか、呆けたような顔で、愛紗が潤んだ瞳を向けてくる。

【愛紗】
「ご自愛をなさってくださいと、言ったじゃないですか……このような事をされては、明日の政務に差し支えるでしょうに」

【一刀】
「そうはいってもな。愛紗を抱きたいってのは、俺の本心だし、このまま何もしないほうが、身体に悪いだろうしさ……愛紗が嫌だって言うなら、止めるけど」

【愛紗】
「…………」

俺の言葉に、愛紗は無言。ただ、彼女の両手は、ぎゅっと俺の背中に回されて、離したくないとでもいう様に、俺に身体をあずけてきた。
夜も更けて、周囲に満ちる空気は、肌を刺すような冷たさだったけど、愛紗と抱き合い、触れ合った部分から伝わる暖かさが、寒さを感じさせずにいさせてくれる。
俺は、柔らかな愛紗の身体を抱きしめて、彼女の耳元で囁きをもらす。愛しくてたまらない、彼女を求める言葉を、彼女の耳朶に口付けるような近さから伝えた。

【一刀】
「愛紗から、元気をもらっていいよな。明日も、朝から頑張れるように」

【愛紗】
「………はい」



部屋に入り、ベッドに愛紗の身体を横たえる。幼子をあやすような優しさで頭を撫で、艶やかな頬に手を添えて唇を重ねる。
軽い口付けを繰り返しながら、愛紗の身体に手をあてがい、触れていく。服越しにもボリュームの分かる胸に手を当てて、ほぐすように揉んでみる。

【愛紗】
「んっ…………ご主人様」

【一刀】
「愛紗の身体って、不思議だよな。普段は、とんでもない力を出すのに、こうして触れると、凄く柔らかくて気持ち良い……  まぁ、気持ち良い部分を知っているのは、俺だけの特権なんだけど」

【愛紗】
「あ、当たり前です。ご主人様以外の誰にも、この様な事をさせる気はないのですから……」

【一刀】
「そういわれると、男冥利に尽きるよな。愛紗のこの胸も、綺麗な顔も、艶やかな髪も、全部、俺のものって事でいいんだよね?」

服越しに触っていた手を、布地の中にすべり込ませて、愛紗の胸の感触を直に楽しんでみる。
弾力のある、双丘の張りを楽しみながら、その先にある突起を手探りで探し当てて、軽く、強くと強弱をつけては摘む。
胸を弄られて、愛紗は顔を真っ赤に染めながら、頬を上気させ、気持ち良さそうに、息を乱す。

【愛紗】
「はぁっ………ん………っ、はいっ。私の身体は、爪先から髪の毛一筋に至るまで、ご主人様に捧げたのですから」

【一刀】
「身体は、か、じゃあ、心はどうなんだ?」

【愛紗】
「そのような事………聞くまでもないでしょう…………んっ」

そういうと、愛紗のほうから腕を伸ばして、俺の頬に手を当てると、顔を寄せて唇を重ねてくる。
普段は、どこか一歩引くように、俺の傍に控えている彼女だが、床の熱に浮かされてか、いつもよりも積極的になっているようだ。
そんな愛紗にキスのお返しをしながら、愛紗の服を脱がして行く。身に纏っていた服を脱がして行くと、薄水色の上下の下着が、俺の眼前にさらけ出された。

【一刀】
「可愛い下着だな………愛紗、似合ってるよ」

【愛紗】
「あ、ありがとうございます。気に入って………いただけましたか?」

【一刀】
「うん。愛紗がつけているわけだし、気に入らないわけじゃないけど………今日のそれって、愛紗のお気に入りかな?」

【愛紗】
「お気に入りといえば、そうなのですが、その………」

【一刀】
「ん?」

【愛紗】
「常時戦場の気概というか………いつ、ご主人様に見ていただいても良いように、常に気をつけているというか」

ゴニョゴニョと、恥ずかしそうに、口ごもる愛紗。そんな風なところが、可愛くてしょうがないわけだけど、それを口にするのは照れくさい。
代わりに、あらためて手を伸ばすと、愛紗の下着に触れてみる。先ほどまで弄り回していた胸の部分と、下半身の張りのあるお尻を隠すショーツに指を這わしてみる。

【愛紗】
「んっ…………やっ…………はぁっ」

感じ始めているのか、愛紗の秘部からは、じっとりと蜜があふれ出して、ショーツをぬらし始めている。
そんな愛紗の声を、もっと聞きたいと思い、ショーツの中に手を滑り込ませると、愛紗の身体の中心にある花弁を、直に愛撫する。
ぐちゅぐちゅと、音を立てながら、指を這わせながら。その上にある、とがった部分を手探りで探し当てて摘み上げる。

【愛紗】
「っ………くぁっ………ひぁっ」

下半身を弄ばれ、息を荒げる愛紗。俺は、それを見ながら、空いたほうの手で、愛紗のブラをたくし挙げる。
ボリュームのある胸が、俺の眼前に、音を立てるような弾みをつけて姿を現した。饅頭のような形の良い胸部と、その先にある、薄桃色の突起。
むしゃぶりつきたい衝動のままに、俺は胸先に指を当てて、その感触を楽しみつつ、もう一つの胸先には、口を寄せて赤ん坊のように吸い付いた。

【愛紗】
「ひゃっ……………ぁっ…………そんな、胸を………っ」

胸への執拗な愛撫に、愛紗の声がだんだん切ないものになって行く。頃合かと、下半身で動かしていた指先を愛紗の身体の中に滑り込ませてみた。
蜜に塗れた愛紗の中は、しどしどにぬれていて、抵抗もなく、俺の指を受け入れてくれる。そのまま、前後にゆっくりと動かして、更なる蜜を滴らせた。

【愛紗】
「ふぁっ…………っ……………ご主……人様…………私、もう――――」

【一刀】
「ああ、イって良いんだぞ、愛紗……」

【愛紗】
「――――!」

ビクン、ビクンと、身体を痙攣させて、達する愛紗。声を出すのが恥ずかしかったのか、唇をかみ締めて、幼子のように身を震わせている。
そんな彼女の姿に、俺のほうも我慢の限界に近かった。達した愛紗の身体から、下着を脱がせ、ズボンのベルトを手早くはずして、ペニスを取り出す。
蕩けた様子で、俺のなすがままに身を任せていた愛紗は、下半身に当たる硬い感触に、どこか惚けた様子で俺を見つめてくる。
そんな彼女に覆いかぶさり、俺はいきり立ったものを、彼女の身体の中に埋め込んで行く。

【一刀】
「愛紗………挿れるからなっ………」

【愛紗】
「ご主人………様………ぁっ…………んんっ!」

すんなり入って行くというのに、ギチギチと締め付けてくる矛盾――――俺が挿れただけで、再び達してしまったのか、愛紗の身体が、瘧のように震える。
狭くて心地の良い、愛紗の中を堪能しながら、その最奥まで到達する。ピッタリと重なった、肌と肌。
その感触をひとしきり堪能した後で、俺は腰を使い出す。濡れそぼった膣道を、俺のペニスが前後に暴れまわり、愛紗の身体を揺らす。

【愛紗】
「はっ…………あぅっ…………ああっ…………ぁ…………」

愛紗は、シーツを掴みながら、突き上げる俺の動きに合わせて、声を漏らしている。俺が腰を突き上げるたびに、ふるふると形の良い胸が振るえ、俺を興奮させる。
俺は両手を伸ばして胸を弄りながら、本能のままに、下半身を動かし続ける。溶けるような感覚が、腰の辺りからせりあがってくる。

【愛紗】
「ぅっ…………ぐっ……………ひっ」

再び達しそうなのか、愛紗の表情も、切羽詰ったものになっていく。俺は、愛紗の腰に両手をあてると、スパートをかける様に、腰の動きを早める。
性器同士が触れ合い、絡み合い、ぐちゅぐちゅと音を立てる。こらえきれない先走りと、愛紗の生み出した蜜を潤滑油に、共に一気に、絶頂に向けて、スパートをかけた。

【一刀】
「愛紗、イクときは、声を上げて………!」

【愛紗】
「っ………そんな、ダメです………恥ずかし………っ」

【一刀】
「恥ずかしくても、良いんだっ………俺が、可愛い愛紗を見たいんだから!」

【愛紗】
「―――ーっ………ぁ、あぁぁ――――!」

堪え切れなくなったのか、甲高い声を上げて達する愛紗。そんな彼女の様子に、言いようのない幸福感を感じながら、彼女の中に射精する。
身体が震えるたびに、愛紗の最奥に、自分の精が注がれる。その時間は、僅かなもののはずだったのに、とても永い間、そうしているようにも感じられた。
しばらくして、全部を出し尽くした俺は、放心した様子の愛紗に顔を寄せて、唇を重ね合わせた。

【一刀】
「ありがとう、愛紗。気持ちよかったよ」

【愛紗】
「んっ…………んっ………」

余韻に浸っていて、言葉が出ないのだろう。親鳥から餌をもらう小鳥のように、無心でキスを返してくる愛紗。
十数回と、そんなキスを繰り返した後で、俺は顔を愛紗から離すと、彼女の身体の中に埋め込んでいたペニスを引き抜いた。
ずるりと、俺の分身が抜け出ると、互いの粘液の絡まりあった糸と、彼女の中にたっぷりと放った精が、どろりとあふれ出てくるのが見えた。

【愛紗】
「ご主人様、その………今度は、私が御奉仕をさせていただきますね」

と、達してふらふらな状況であった愛紗が、上半身を起こして、そんなことを言ってきた。その目は、俺の股間――――いきり勃ったままのペニスに向けられている。
申し出は有難いけど、イったばかりだし、無理はしなくても良いと思うが………同じくらい、愛紗に奉仕してもらうということは魅力的だった。

【一刀】
「そういってくれるのは有難いけど、大丈夫? 少し、休んでからのほうがいいんじゃ」

【愛紗】
「平気ですよ……他ならぬ、ご主人様の為ですし………何より、私がそれを望んでいるのですから」

そういうと、愛紗は俺の股間に顔を寄せると――――

【愛紗】
「んっ………」

いきり立ったままの、俺の分身を口に含んだ。愛紗の口中に導かれた俺の分身は、その心地よさに、ビクンと振るえ、達したときのような快感が腰に響いてくる。
亀頭の先に、愛紗の舌が当たり、愛紗の息遣いが竿を刺激する。じゅぶ、じゅぶと淫らな音を立てながら、愛紗は俺のペニスを愛撫する。

【愛紗】
「じゅる………んぶっ…………ひもひいいれふか?」

【一刀】
「あ、ああ…………気持ちいよ、愛紗」

【愛紗】
「はむ…………じゅる…………じゅっ」

素直な感想を口にすると、愛紗は嬉しそうに目を細めて、なお熱心に、俺への愛撫を行ってくれる。
先ほど、たっぷりと出したばかりなのに、既にペニスはガチガチに硬くなっており、直ぐにいってしまいそうだった。

【一刀】
「はあっ…………ちょっと、まって、愛紗。もう、いきそうだから」

【愛紗】
「じゅっ…………じゅっ………んっ」

出そうだと、静止の声を上げるが、愛撫に集中しているのか、愛紗は舌の動きを止めようとしない。
腰がビクビクと振るえ、射精を堪えていることだ出来た時間も、ほんの僅かな時間でしかなかった。

【一刀】
「あ、愛紗………出るっ!」

【愛紗】
「ん……!? んっ…………んんっ!」

ゴプゴプと遠慮なしに、彼女の口中に、猛ったペニスから精を撒き散らす俺。苦しいだろうに、愛紗は精を溢すまいと、口をすぼめて、それを受け入れる。
びゅっ、びゅっ、と、彼女の口中を侵すことに、征服感を感じていると、こくん、こくんと、愛紗が俺の精液を飲み下しているのか見えた。
匂いも味も、相当なものなのだろうに、なんの躊躇いもなく、俺の精を飲み込んでいる愛紗。そうして、口中に出された全てを飲み終えて、彼女は身を離す。

【一刀】
「ありがとう、愛紗………その、飲んでくれて。大丈夫だったか? 不味いだろうに」

【愛紗】
「いえ………ご主人様の精ですから。それはそうと、ご満足いただけましたか?」

【一刀】
「満足は、したつもりなんだけど……」

そういって、俺は自分の股間を見てみる。愛紗の口中に放ったばかりなのに、ペニスは、相変わらず硬いままであった。

【愛紗】
「その………もう一度いたしましょうか?」

そんな俺の分身の様子を見かねてか、愛紗がそんなことを言ってくる。その申し出と心づかいは嬉しかったけど、俺は首を振った。

【一刀】
「いや、奉仕されるのもいいけど――――俺としては、愛紗の中に出したいから」

【愛紗】
「――――そ、それは………私としても、有難いことですけど」

【一刀】
「もう一度して、いいかな?」

【愛紗】
「……はい、何度でも、ご主人様の望んだ通りにしてください」

幸せそうに微笑む愛紗を抱き寄せると、再び唇を重ねる。そうして、愛紗をベッドに横たえようとしたが、ふと、俺は思いついたことを口にすることにした。

【一刀】
「そうだ、愛紗。寝転がるんじゃなくて、四つんばいになってくれよ」

【愛紗】
「え………!? あ、その………こう、ですか?」

俺の言葉にしたがって、愛紗は犬のように四つんばいの体勢になる。俺のほうにお尻を向けた愛紗の格好は、秘部や、その上の窄まりが丸見えで、俺を興奮させる。
普段は、こういった体勢をあまりしないせいか、愛紗はどこか戸惑った様子で、俺に聞いてくる。

【愛紗】
「その、この様な体勢でするのですか……?」

【一刀】
「ああ、たまには良いだろ? それじゃあ、挿れるから」

【愛紗】
「ん…………くぅっ………」

戸惑った様子の愛紗だったが、先頬の口中愛撫で、身体は昂ったままだったのだろう。秘裂は充分に潤っていて、俺のペニスを躊躇いなく受け入れてくれた。
張りのある愛紗のお尻と、俺の腰がピッタリと密着するまで、突きこんで、引き抜ける寸前まで離し、また付きこむ。

【愛紗】
「くぁっ…………あんっ…………うぁっ………」

【一刀】
「感じているのか、愛紗っ………」

【愛紗】
「ご主人様………っ…………さっきよりも、深くて………っ」

犬のように、本能に身を任せて腰を動かしながら、俺は愛紗に覆いかぶさり、ふるふると動いていた乳房と、その先の桜色の突起を愛撫する。
繋がっている股間にも手を伸ばし、愛紗の花弁の傍にある突起を摘むと、それを摘み上げる。

【愛紗】
「やっ…………ご主人様、ご主人様………っ!」

愛紗の絶頂が近い。それを感じて、俺も三度目の射精に向けて、いっそう激しく、腰の動きを早めることにした。
両手で愛紗の腰をがっしりと掴み、遮二無二、前後に腰を動かす。思考も何もかも放り出し、ただ、込み上げるものを吐き出すために、腰を振る。
声にならない、息ですらない何かを吐き出しながら、愛紗の最奥にペニスを突き入れると、躊躇なく、熱い迸りを浴びせかけた。

【愛紗】
「っく、ぁ――――…!」

か細く、甲高い声を上げながら、愛紗は今日何度目になるか分からない、絶頂を迎えた。
くたりと、脱力する愛紗。その腰を掴んだまま……俺は最後の一滴まで、彼女の中に注ぎ込むと、彼女の身体に覆いかぶさるように倒れこみ、満足げな息を吐いたのだった。



【愛紗】
「うぅ………まだフラフラします」

【一刀】
「大丈夫か、愛紗?」

【愛紗】
「どの口がいうのですか。激しくされたのは、ご主人様でしょう」

【一刀】
「はは、違いないな」

行為が終わって、俺と愛紗は寝巻きに着替えて、寝台に横たわっていた。
制服姿で、裸の愛紗と抱き合って眠るというのも、別に良いと思うんだが、そんなことでは風邪を引くと、愛紗に却下されたのである。
そんなわけで、俺はいつも通りの寝巻きを、愛紗は、俺の予備の寝巻きを着込んで、ベッドに横たわっている状態だった。
寝巻き姿の愛紗は、それはそれで可愛かったけど、さすがにあれだけ出した後だと、襲いかかろうとする気も、あまり起きなかった。

【一刀】
「まぁ、おかげで元気が出たよ。これでまた、明日も朝から頑張れそうだ」

【愛紗】
「………そうですか。よかった」

どこか、ホッとしたような顔で、愛紗は横になった俺に、身体を寄せてくる。
俺も、愛紗の身体を抱き寄せる。本能のままに身体を重ねるのも気持ちいいけど、こうやって、身を寄せ合う心地よさも、格別のものだった。

【愛紗】
「おやすみなさい、ご主人様………良い夢を」

【一刀】
「ああ、おやすみ。愛紗」

愛紗の身体を抱きとめてしばらく経つと、彼女の寝息が聞こえてきた。
さて、俺も眠るとしよう。今夜は、良い夢が見られそうだ――――。



――――終――――


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