〜グリンスヴァールの森の竜〜
〜グリンスヴァールの森の竜〜
次にヴィヴィに案内されて来たのは、豪奢とは言えないまでも、今までの部屋よりも数倍の広さを持つ大掛かりな部屋であった。
どうやら、学園長とやらはこの部屋にいるらしい。さすがに、組織を纏める長ともなると、多少は見栄を張る必要があるということか。
「クライス、ちょっといいかしら?」
「ああ、別にこれといった用事はないけど………どうしたんだ、ヴィヴィ」
部屋の中央にしつらえられた大きな机。仕事でもしていたのか、そこに腰を落ち着けていた青年が立ち上がったとき、不思議と妙な感覚を感じた。
その青年は、細面の優男であり、まぁ、ハンサムに属する部類であるといえよう。マイトと比較しても、負けてはいないといえる。
しかし、もっとも特徴的なのは、その身体をまとう雰囲気であろうか――――言うなれば、親しみやすく…初対面なのに、親友と会っているような錯覚を感じたのだ。
「新しい教員を補充しようと思って、許可を取りに来たの。別に人員枠は埋まっていないし、構わないでしょう?」
「ああ、それは構わないが…わざわざ、私に確認をとらなくてもいいだろう? 教師長として、その手の権限は一任してあるし、ヴィヴィの人選に間違いは無いと信頼しているから」
「駄目よ。そうやって、すぐに楽をしようとするんだから…ブラッド、この人が学園の統括者で、貴方の上司ということになるわ」
その言葉で初めて、クライスと呼ばれた青年が、こちらを向いた。何故か、落ち着かない気分が心身を束縛する。
それは、初めてリュミスを見かけたときに感じたような、憧れに近しいもので――――って、まて。
なんで男相手にときめいているんだ、俺は!?
「どうか、しましたか?」
「ああ、いや――――」
幸いな事に、その感覚は気がつくと消え去っていたのだが………どうも、この男には気を許さない方がいいような、そんな直感を拭い去ることは出来なかった。
「なんでもない。少々、想像と違って面食らっていてな。組織のまとめ役というからには、相応の老人が任を果たしているものだと思っていたのだが」
「まぁ、見た目ほど若くないんですけどね。私も、ヴィヴィもですが」
「ちょっと………何でそこで、私まで一緒にするのかしら?」
「あ、いや――――それは」
あからさまに機嫌を悪くしたヴィヴィの様子に、しまったと、口ごもるクライス。どうやら、彼女に年齢の話はタブーのようであった。
まぁ、なんにしても………面合わせは済んだわけだ。これで俺も正式な教師、という事になるのだろう。
「ともかく、これからよろしく――――ええと、ブラッド君」
「ああ、世話になる」
そんなこんなで、俺の教師としての学園生活は、幕を開ける事になった。成り行きまかせになった教師だが、そのせいで、様々な騒動に巻き込まれる事になる。
しかし、リュミスから開放され、住む場所も確保出来たと単純に喜んでいる俺は、そんな事になるとは露ほどにも想像してなかったのである――――。
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