〜グリンスヴァールの森の竜〜 

〜グリンスヴァールの森の竜〜



黒字に金の縁取りの制服を身に纏い、足取りも軽やかに、学生達が敷地内を闊歩する――――…一時期閑散としていた学園は、にわかに活気を取り戻したようだ。
接点がヴィヴィやラキといった女性しかない為、学園には男がほとんどいないような印象を受けるが、実際のところは、男女比率は男性の方が多いようである。
こうして歩きながら周囲を見回してみても、あちこちで騒いでいる男子生徒の姿が多い。中には早速、女生徒にコナを掛けている生徒もいるようだ。

「さて、これから入学式か………退屈そうだな」

古来より、式典というものは…退屈極まりないというのが決まりごとのように、入学式とやらの事前の説明を聞く限り、俺は黙って座りつつ、時を過ごさなければならないようだ。
せめて話し相手の一人でも居ればなぁ…と考えつつ、職員室に戻る。入学式直前の職員室は、忙しそうな空気に…包まれてるわけでもなく、式の開始を皆でゆっくりと待っている。
何しろ、仕切り屋&時間にうるさいヴィヴィが皆を纏めているので、既に準備は整えられているのだった。茶でも飲んで、待つとしよう。

「ずず………ふぅ、この東方の茶葉というのは、なかなかに美味だな………巣に帰る時に持っていく事にしよう」

職員室に常備されている茶をすすり、俺はホッと一息つく。日々の生活の合間、これくらいの息抜きは必要だろう。
のんびりと寛いでいると、暇そうにしている俺が目に留まったのか、ヴィヴィが声を掛けてきたのは、それからしばらくしての事である。

「ブラッド、ちょっと良いかしら?」
「ん、どうした?」
「入学式の始まる前に、貴方に言っておく事があるんだけど………」

そうして、数秒間をおいた後、ヴィヴィは自分用の茶を淹れながら、何のこともない世間話のように、俺にとある事を命令してきたのだった。

「新しい教師の教育役? 私が、か?」
「ええ、今年から入る人なんだけど………場合が場合だから、貴方に頼んだ方が良いと思って」
「――――場合?」

奇妙なヴィヴィの言い回しに、思わず首を傾げると、職員室の扉がバンッ! と大きな音を立てて開いた。そちらを見ると、そこには――――俺の見知った顔があった。

「初めまして! このたび、教師として赴任する事になりました、フェイ・ルランジェル・ヘルトンと申します! 若輩者ですが頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いします!」
「…おいおい」

見事なフェイの挨拶&敬礼に、思わず拍手が巻き起こった教室。そんな中、俺は一人、頭痛を抑えるかのように額を押さえた。
しかし、これはいったい何の冗談なんだ? 照れたように、何度も頭を下げるフェイを見ながら、俺は一人、深く溜息を洩らしたのだった。



「………ここで良いだろう。それで、なぜフェイがここにいるんだ?」

退屈なだけの入学式も終わり、新任教師の案内を任された俺は、学園の外れにある湖にフェイを連れて足を運んでいた。
学園の中心から外れたこの場所は、訪れるものもおらず、湖に渡された橋の先に、竜の巣へつながる洞窟が、ぽっかりと穴を開けているのが見て取れた。
ここならば、内輪の話を他人に聞かれることもないだろう。それにしても、いったい誰の差し金だ? まぁ、おそらくはクーが手配したことであろうが。

「はい。実は、執事長よりブラッド様の元で忠勤に励めと言われまして、体術の師範役として紹介状をいただいたのです」
「俺の元で、か………クーは、他に何か言ってはいなかったか」
「そうですね…学園での生活の詳細を、定期的に送るようにと――――特に、ブラッド様のことは事細かに送るようにと言われました」

俺のことを、事細かに…か。なるほど、リュミスが一度学園に乗り込んできてから、何の音沙汰もなかったから、どうしたものかと思ったが…クーが上手い所で、とりなしてくれたらしい。
だとすれば、フェイを無碍に追い返すわけにも行かないだろう。知己が増えるのは嬉しいことだし、クーの面目を保つ意味もあるからな。

「………そうか、なんにせよ、よく来てくれたな、フェイ」
「そんな…勿体無い御言葉です」

俺のねぎらいの言葉に、嬉しそうに頬を染めるフェイであったが、その表情は僅かばかり物足りなさそうだった。ちらちらと、何かを請うように俺を見つめてくる。
それが何を願っているのか、おおよその見当はついたので、俺は腕を伸ばし、フェイを抱き寄せた。こんな場所に誰かが来るとも思えないし、ここで構わないだろう。

「あ、ブラッド様…」
「何だ、不満か? ベッドが必要なら、部屋に連れて行くが………それにしても」
「――――ぁっ」
「スカートを履けば良いのに、ズボンはないだろう? いや、似合ってはいると思うがな」

フェイの太ももをまさぐり、俺はフェイの耳元でささやいた。教師用の服を着ているフェイは、何を思ったか、男性用の教師服に身を包んでいたのだった。
いや、これはこれで、そそるものはあるんだが………まぁ、いいだろう。フェイが学園に留まるというのなら、時間はたっぷりある。今後の楽しみに取っておくとしよう。

「ひゃっ、ん、ブラッド様っ――――…」

首筋に舌を這わせ、服の上から胸を揉みしだくと、フェイは瘧のかかったように、身体をぶるりと振るわせた。どうやら、久方の行為に興奮しているのは、フェイも一緒のようだ。
俺は、フェイの熟れた身体をもてあそぼうと、彼女の上着に手を掛け、それを脱がそうとした………ところが――――。

「やっほーっ!」

静謐とした湖のほとりに似つかわしくない、やたらと明るい声と共に、湖に盛大に水しぶきが上がった。何事かと思った次の瞬間…湖にひょこっと少女の頭が浮かんだ。

「ぷはっ、ん〜…やっぱり冷たいけど気持ち良いな〜」

どうやら、誰かが湖に飛び込んだらしい………と、考えた次の瞬間、木々の葉を鳴らしながら、一人の少女が俺の眼前に姿を現した。

「ちょっと、オリエさん! 今は遊泳場所は開放されていないはずよっ!」

ショートカットの気の強そうな少女は、両手に学園の制服を抱えている。どうやら、その制服は湖に飛び込んだ少女のものらしかった。
どうも、意識がそちらに向いているせいか、俺やフェイの事には気づいていないようだ。凛とした症状は、湖に浮かぶ少女に向けられている。

「え〜、ちょっとくらい良いじゃないの。ベルったら、真面目なんだから」
「あなたが不真面目すぎるのよ! まったく、こんな所を先生に見られたら、ただじゃ――――」

と、そこまで言って、ベルという少女はようやく、近くにいた俺達の事に気が付いたらしい。抱き立った俺とフェイ、フェイの息は荒く、俺にすがり付いている。
その様子を見て、ガチンという音が出そうなぐらい、目の前の少女は硬直をしてしまった。顔も真っ赤に、抱き合う俺たちを見ている。

「ん、どうしたの? ベル」

その様子を怪訝に思ったのか、すいすいとオリエは湖の淵に近づいて、硬直したベルに声を掛けた。その声で、ようやくベルは我に返ったらしい。

「い、いいから、あがりなさいっ」
「わ」

慌てた様子で、ベルという少女はオリエを湖から引っ張りあげると、抱き合っている俺とフェイに向かって思い切り頭を下げた。隣のオリエの頭も押さえつけるように下げさせると…、

「し、失礼しましたっ! その、ごゆっくりっ!」
「ちょ、引っ張らないでって――――伸びる伸びる、スク水が伸びちゃうってばっ」

オリエを引っ張るように、ベルという少女は真っ赤になって、その場から走り去ってしまったのだった。騒々しい一瞬は過ぎ、湖畔はまた、静けさを取り戻した。

「やれやれ、行ったようだな」
「ブラッド様…?」
「いや、少女たちが近くにいたようでな。事の次第を見られてしまったようだ」

俺に抱きついたままのフェイは、気をやっていたせいか、先ほどの大騒ぎを認識していなかったらしい。火照る身体を持て余しているのか、フェイは俺の胸に額を当てながら、

「別に見られても構わないではないですか、いつもの事ですし」
「いや…確かに、いつもの事なんだが――――」

巣にいる時は、行為に及んでいる最中もメイドが部屋に入ってきて掃除をしていったりするのが常だったし、人目に慣れているのは分かるんだが…羞恥心がないのはどうだろうか?
何と言うか、それは乙女としての反応ではないような気がしないでもない。まぁ、彼女達をそうしたのは、全面的に俺の責任なのだが。

「まぁ、良いか。続きをしよう」
「あ、んっ――――」

気を取り直して、俺はフェイとの一時を楽しむ事にした。幸いな事に、それ以降は誰も来なかった為、俺はフェイの身体を堪能できた。
――――まぁ、やりすぎて近くの湖で水浴びをしなければならなかったが、それはそれで楽しめたのでよしとしよう。


戻る