〜Fate GoldenMoon〜 

〜月夜に魅せし、藍の花〜



〜2月13日〜

その日、その女は私の護る山門を訪れた。普段は寺に篭り、周囲の魔力を集めていると聞かされていた、私の召喚主。
その召喚主に呼び出されたのが、私……名など既に亡き、仏門の端にでも名を連ねる無縁仏の一つ。
ただ、その剣才が故に、召喚に応じる事になった、名も亡き魂。

「準備が出来たわ、これで、やっと聖杯を手に入れられる」

山門に出てきたその女は、美しかった。見た目が、というわけではない。
色事に長けているというわけでもないが、絶世の美女、というのは見た目でなく、内面で決まるものだと私は思っていた。

そういう意味では、その女は間違いなく極上であった。
生前の記憶のせいなのだろう。私にとって、人とは強くあるべきもの……強くあるものには惚れ込み、それを超えようと思うのが常。
曇った冬の空の下で、まるで遮那仏のように、静かに微笑む、その姿。破滅の業を身に纏うその姿は、どうしようもなく美しいものに、私は感じられた。

「そうか、それは良かった……とでも言えばよいのかな?」
「ふふふ……地霊の類には分からないでしょうね、聖杯が持つ意味も、その価値すらも」

クスクスと、楽しげに女は笑う。愉しげに笑みを浮かべる。
その身を包む魔は、初めて会ったときとは比べ物にならぬほど強く、禍々しい――――しかし、それこそが彼の者の美しさなのだろう。
魔は陰にして陽――――陽は晃にして聖……魔女であるその女は、無垢なる聖女のように笑っていた。

「もう、あなたに護ってもらう必要は無いわ……今夜、こちらから撃って出る」
「…………そうか」

お前は要らない、と言外に告げられても、さしたる痛痒も感じなかった。
もとより、世界に選ばれることなど無い命――――私は自らに、それほどの誇りも持ちてはいなかった。

ただ、それでも一つ、気になることがあった。



「それで、私を殺すのか」
「――――……」

それを聞いたのは、疑問ではなく、確認の為。
山門を糧に呼び出されたこの命――――その身に自由など無く、女がそう願えば、即座にその身を塵に返す事は分かっていた。

決定事項に、今さら異を唱えるつもりもない。もとより、主など持たぬ朽ちた侍。
――――それでも、あの女騎士との戦いを、心待ちにしている自分がいることに気が付いた。

「――――……まぁ、いいわ」
「?」

それが、伝わったとは到底、思えない。
何かの気まぐれなのだろう、その女――――魔術師のその女は、余興が削がれたという風に、私に背を向けた。

「どの道、あなたに貸す魔力はもう無いわ。もっておおよそ半日、せいぜい、この世での生を謳歌することね」

そうして、その女は歩き出そうとする。さて、どうしたものか。
いっそ、今、背後から斬りかかろうか――――そうも考えるが、さすがに無謀だと踏みとどまった。

その女は、自らの主以外、何者も信じていない。恐らく、私が不穏なそぶりを見せれば、即座に対応してくるだろう。
結局、寺の境内に入っていく女を見送り、私は空を見上げた。

石灰色に塗りつぶされた空からは、しとしとと雨が降る。
私の末路を知り、空が泣いているかのようであった。私は、山門に背をつけ、静かに呟く。

「望みはある、か……」

口にしてみれば、何と言う事もない言葉。
しかし、それは私の望み――――適う筈は無いと悟っていながらも、あの神々しい、女剣士との今一度の戦いを、私は心から待ち望んでいた。



みんなが急に具合が悪くなって、倒れた事件があってから、数日がたちました。
私も、ちょっと具合が悪かったんですが、それでも丸一日休んだ後は、普段どおりに生活する事が出来るようになりました。

ただ、三年生の人達や、二年生でも何人かの人は具合が悪いということで、今も休学しています。
それは、うちのクラスも一緒で、席がポツポツと空いた教室は、なんだかどこか、寂しく感じられます。

「あーっ、もう、辛気くさいったらないよ、まったく!」

蒔ちゃんが、そんなことを言ったのは、お昼休みに入った時分の事です。今日は雨のせいか、クラスの中もなんだか沈んだ感じです。
あ、申し遅れました。私は三枝由紀香っていいます。陸上部のマネージャーをやっています。
蒔ちゃんと氷室さんとは、いつもこうして仲良く過ごしているんですよ。

「蒔……叫んでも何ら君に得るところは無いと思うんだが」
「だってさー、雨が降ってるんだぜ、陸上部の天敵、泥に汚れたグラウンド、滑る足元、そして、カーリングっ!!」
「…………その思考回路がどうなっているか、一度、解剖して調べてみたいものだ」

呆れたように、氷室さんは蒔ちゃんの言葉に小首を傾げました。
色々と言い合ってますけど、二人はとても仲良しです。私はそんな二人の仲を見るのが大好きなのですが。

「いいじゃんかよー、最近調子が出ないんだよ、遠坂の奴が休んでばっかりでさ」

今日は、というより、今日も蒔ちゃんの機嫌はあまり良くないみたいです。
クラスの中が沈んだ感じなのも、蒔ちゃんが気落ちしてるのも、今日もあの人が休んでいるからでした。

同じクラスの遠坂さん……いつも仲良くしようと声をかけてるんですが、なんだか、遠慮しているみたいな同級生の美人さんです。
私を始め、クラスの誰にでも人当たりはよく、みんな遠坂さんのことが大好きなんです。

「――――アイツの偽善者っぷりを見ないと、どうも調子が出ないと言うか、なんというか」
「……蒔、後ろに遠坂が」
「うひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「――――いないか、いるのは三枝だけだ」

…………えと、蒔ちゃんも、口ではああは言ってますが、遠坂さんのことを心配してるんです…………本当ですよ?



それからあとも、午後の授業を受けました。今は、葛木先生の現代社会の授業を受けています。

「……そういえば、話は変わるが」

授業の途中で、葛木先生がふと、思い出すように授業を中止します。
時々、葛木先生は、授業の中に色々と雑学を言ってくれる時があります。

「諸君は、絆という存在を、どう思うか? 絆は、良くも悪しくも、互いに意味を与え合う。それを考えておくべきかもしれないな」

いつもながら、なんだか為になる一言でした。
私には、意味は分かりかねるのですが、氷室さんはその言葉に感銘を受けたように、しきりに頷いていました。



そして、授業が終わり、お掃除を終えて、私達は学校を出ました。
あの事件の後、みんなの大事をとるため、陸上部はおやすみになりました。蒔ちゃんと氷室さんと一緒に雨の降る中を帰ります。

とりわけ、何か話す事があるわけでもなく、私達は傘を差しながら、帰り道をいっしょに歩きます。
雨の粒がぱらぱらと、傘にあたる音は、なんとなく音楽が鳴ってるみたいで、心がうきうきします。
そうして、学校を出て、しばらく歩いた後のことでした。

「あ、そういえば、知ってる? あの話」
「?」
「?」

蒔ちゃんがそう言って足を止めたのは、町の真ん中にある交差点での事でした。
何の話か分からないので、氷室さんのほうを見ますが――――氷室さんも、よく分かっていないみたいです。

「あの話って……何のこと?」
「何だ、知らないのか由紀っち、あっちの山寺にいる、幽霊の話だよ」

ゆ、幽霊ですか…………? 私はちょっと、お化けとかそういうのは苦手です。
一人でお化け屋敷に入ることも出来ないし、ちいさい頃、よく夢でお化けを見て、泣いてしまったのを覚えてます。

「あの寺にある門のところに、ぼうっ……と、夜になると出るんだってさ、女の幽霊がこう――――」
「はぅ……」

頭の中で、怖そうな幽霊の女の人が、手招きしてるように感じられます……やっぱり私、こういうの苦手です……。

「――――蒔、作り話も大概にしておけ、三枝が困っているじゃないか」

怖がる私を見かねたのか、氷室さんがそう言って、私に助け舟を出してくれました。けれど……

「作り話ってのは何だよ! アタシはちゃんと、この耳で聞いたんだって!」

今度は蒔ちゃんが、つむじを曲げてしまいました。氷室さんは、それでも落ち着いて、蒔ちゃんに言います。

「根拠は、出所は、理由は、基本的にお前が作っているんだろう? 幾らなんでも、柳洞寺に幽霊がいるなんて聞いたことがないぞ」
「ほーう、だったら、確かめに行こうじゃないのさ、幽霊がいるか、いないか!」

あれ?……なんだか、言い争ううちに、だんだん、変な方向に話が行ってるみたいに――――、

「あ、あの……?」
「それで、負けたほうは勝った方の、一日パシリだからな!」
「それは面白い、覚悟しておけよ、私の付き人は、生半可なことでは許されないぞ」
「へっ、そっちこそ、幽霊見て、泣きべそ、かかないようにしろよな!」

私の声が聞こえないみたいに、蒔ちゃんと氷室さんは、むむむ……って、にらみあって……、

「「じゃあ、夜中に柳洞寺の山門に集合って事で」」

私を見て、二人とも口をそろえて言いました。でも、困ります……本当に私、幽霊って苦手なのに…………、



結局、断る理由も見つけられず、お父さんとお母さんに理由を話して、私は夜中、お寺の門がある、階段の場所に来ていました。
ふっていた雨ですが、夜になったら不思議とあがっていました。今は空も晴れていて、星もたくさん見えています。
周りを見ましたが、まだ蒔ちゃんと氷室さんの姿は見えません。しょうがないので、階段を登って、門のところまで行く事にしました。

――――周囲は、ひっそりとしていて、なんだか今にも何かが出てきそうです。
冬なのに、今日はなんだか、とても生暖かい空気が、身体を覆っているような、変な感じがします。

階段を登って、登って、そして、なんだかとてもたくさん登ったように感じられるころ、門のところに、たどり着きました。
登ってきた階段の下は、薄暗くて、真っ暗な何も見えない闇が広がってます……心細くて、泣きそうになりました。

あ、泣いちゃ、駄目です。私はお姉さんなんです。弟達にこの事が知られたら、とても恥ずかしいから――――

「――――何者だ?」
「――――――――!!!!」

声が、しました。蒔ちゃんの言ってた、幽霊でしょうか? 足が、凄く震えてます。
後ろを振り向いちゃだめ……でも、怖かった私は、思わず振り向いてしまい――――その人を見た時、不思議とふるえは消えて、怖かった気持ちはどこかに行ってしまいました。



その娘の前に姿を現したのは、とりわけ、理由があったからではない。
もとより、誰かと関わりになる気は無いが、ただ、この世に残る刻時の最後の戯れに、誰ぞに自らの姿を教えてみても良いかと思ったのだ。

山門の傍に立つ、小柄な娘――――、どこか怯えたような、その娘に声をかけると、その娘は身をすくませ、私を向き……驚いたように目を見開いた。

「えと、あの……幽霊の方ですか?」
「さて、この地に縛られているといえば、そうとも言えるかもしれないな」

その娘の言葉に、苦笑を浮かべ、山門の石畳にあぐらを掻いて座る。
身振りで娘に、座るように促すと、娘は恐れる風もなく、私の隣に腰を下ろした。
山門に背をつけて、私と娘は座り、互いを見る――――これといって特徴のない娘であったが、私の死を見取るには、ふさわしいといえるかもしれない。

もとより、私には名は無い。故に、無名の私を見取るのは……無銘の者であるのが理というものであった。



幽霊はお侍さんの格好をしていました。時代劇とかで、やー、たー、とかやっている、あのお侍さんです。
私はその人の隣に座って、その人を見上げました。どこか優しい感じがして、落ち着くような気がします。
さっき、一人でいた時の、怖い気持ちが、すっと消えていくのが分かりました。

お侍さんは、私に声をかけることもなく、ずっと階段の下のほうを見ています。
その姿は、どこか寂しげで、まるで誰かを待っているかのようでした。

「あの、誰かを待っているんですか?」
「――――左様。想い人を待ちて、このまま朽ちてゆくのは、些か心残りというものだがな」

なんだか、寂しそうにお侍さんは、笑いました。やっぱり、幽霊さんですので、恋人を待っているのでしょうか?

「その人って、あなたの恋人ですか?」
「その様なものではないさ、懸想するのは私だけであり、あの者は、私のことなど歯牙にもかけぬだろうよ」
「――――……」
「それよりも、何故このような場所を訪れたのだ? 見たところ、仏門に帰依する為とも思えぬが」

私が黙ったのを見て、今度は幽霊さんの方から質問をしてきました。
ひょっとして、話し相手がいなくて、退屈していたのかもしれません。せっかくなので、私は幽霊さんに、ここに来た理由を話してみる事にしました。



「……それで、蒔ちゃんと氷室さんがここに来るように言ったんですけど、二人とも、まだ来ていないんです」
「待ち人来たらず、か。私と一緒だな」
「あ、本当ですね」

私の言葉に、その娘は温厚な笑みを浮かべる。菩薩のようなその微笑みは、見る物を癒してくれるかのようであった。
娘の話を聞いているうちに、かなりの時が潰えているのが、よく分かった。
その娘の話を聞くのは愉しく、久方ぶりに私は、会話の楽しみというものを思い起こしていた。
もとより、剣に生きた身。口を開けば決闘だの死合いだのと物騒な言葉しかでない中、その娘との会話は清流に流れる小川のような、ささやかで安らぐものであった。

ただ、無慈悲ではあるが、私の残された時間は、もはや幾ばくもない。
徐々に、身体が弱っていくのが分かる。剣を持つことも出来ず、このまま朽ちるのは残念なようで、仕方のないようにも思えた。

「それにしても、二人とも遅いですね……あ、でも幽霊さんに比べれば、たいした事もありませんよね」
「そうでもない、しかし、待つことのできるというのは羨ましいな」
「え……?」

どこか、皮肉を込めて言った言葉に、驚いたように娘は眼を見開いた。
私は、来るはずのない待ち人を求め、階段の下に視線を向けながら、淡々と語った。

「私に残された時間は、後一刻もないだろう。いずれこの身は露と消え、私を思い起こすものなど誰もいないだろう」
「そう……なんですか?」
「ああ。もとより、この世には異例に呼び出されたもの……消え去る事に、悔いは無い」

言葉ではそういうが、やはり口調や仕草には、心情が表れていたのだろう。
娘はどこか心配そうに私を見ていたが――――ふと、なにかを決意したのか、顔一杯の笑顔を浮かべた。

「そうだ! 幽霊さん、あれを見てください」
「…………?」

そういって、娘が指し示したのは遠き夜空。見上げると、そこには――――、
いつの間に、あがったのだろうか、雨雲はもはや、どこにも見当たらず、代わりに白銀の月が、空に輝いていた。

「私も、時々辛くなるときがあります。テストで悪い点を取ったり、苦手なマラソン大会に出なきゃならなかったりした時……こうやって、空を見上げると元気が出るんです」
「――――……」
「げんき、でました? 大丈夫、きっと、恋人さんも来ますよ」

傍らで、微笑む少女……私は、呆然と、口から言葉をついて出した。

「花鳥風月……」
「え?」

花を愛で、鳥を追いて、風を感じ、月を見上げる――――剣の研鑽のみに終われ、そのようなことは遥か昔に忘れていた。
そうして、それを、今この娘に教えられた。胸が熱くなる。生き延びたこの半日、決して、無駄ではなかったようだ。

最後の最後、このような人にめぐり合えたのだから。
ただ、もはや身体も動かぬ身――――抱きたいと思っても、それは適わぬ夢。

「そうだな……ありがとう」
「あ……」

故に、力の残った右腕で、娘の肩を抱き寄せると、その頭を私の肩に寄りかからせた。
感じる事の出来る、ぬくもり――――娘の身体は温かく、午睡のように、私の心を満たしていった。

「幽霊さん……?」
「小次郎……そう呼べば良い」
「ええと、それじゃあ私は、由紀香って呼んでくださいね」

微笑む娘、由紀香――――それから先、私たちは何を話すまでも無く、その場で身を寄せ合っていた。
寒さを帯びる周囲の空気、命が失い、冷えてゆく身体の中で、彼女の身体に触れている部分だけは、熱を失うこともないかのようであった。



「――――お〜い、由紀っち、おきろ」
「ふぇ……?」

身体を揺すられ、私は身を起こしました。真っ暗な周り、横になっていた私を見下ろすように、二人の影がありました。

「気がついたか?」

物静かな声は、氷室さん。私はようやく、自分が山門で眠っていた事を理解しました。
身を起こすと、呆れたような二人の顔が、目に飛び込んできます。

「まったく、呆れるよ。山門のとこに倒れてるから、てっきり事件だと思ってたのに、すやすや寝てるだけだもんな〜」
「蒔ちゃん、どうしてここに?」

私がそう聞くと、氷室さんが少し怒ったように言葉を入れました。

「よくよく考えたら、時刻を決めていなかっただろう? 蒔の奴が。だから、連絡を取ろうとしたが、携帯に掛けても全然、繋がらない」
「で、ひょっとして何か事件に巻き込まれたんじゃないか、ってあちこち探し回ったけど、けっきょく、山門にいただけだもんな」
「まぁ、山門を調べなかった私たちにも落ち度があるが、まさか立っていないで、横になって寝ているとは思いつかなかったぞ」
「ご、ごめん」

よくよく考えたら、携帯電話を持たずに、家を出ていました。
ちょうど電池が切れてて、充電してるのをうっかり忘れてたんですけど……二人には心配を掛けたみたい。

「いや、三枝は謝らなくて良い。悪いのは、時間を決めておかなかった、蒔の奴だ」
「って、ちょっとまて、大体、時間とか何とかの、みみっちい事は、あんたの担当でしょ?」
「いつ、どこで、どのように決まったんだ? 何でもかんでも、決め付けることは良くないぞ」

わあわあと、言葉を交わす、蒔ちゃんと氷室さん。ふと、私は周囲を見渡して、あの人がいないのに気がつきました。

「あの……小次郎さんは?」
「は?」
「……コジロー?」

二人とも、小次郎さんの事は知らないみたいです。ひょっとして、私が寝てる間に成仏しちゃったんでしょうか?
だとしたら、ちょっと寂しいです。お別れの言葉も、言っていないのに……。

「どうしたんだよ、何か変だぞ由紀っち。まさか、幽霊にでもあったんじゃないだろうな」
「はい、会いましたよ」

蒔ちゃんの疑わしそうな質問に、私は元気一杯に頷きました。夢なんかじゃありません、私の肩の部分、小次郎さんに触られていた部分は、まだ暖かかったから……。
私のその答えに、蒔ちゃんは何故か、驚いたように身体を仰け反らせました。

「ちょっ、やめてよ、冗談にしてもタチが悪いわよ! あれはアタシの作ったデタラメの話で……」
「――――ほう、それは良い事を聞いた」
「あ」

蒔ちゃん、しまった、という感じに冷や汗を掻いています。

「さて、それでは明日、どうやってこき使ってやろうか。三枝に迷惑を掛けた分も、しっかりと働いてもらわないとな」
「ちょっ、まってよ、いまのなし、ブレイク、ブレイク!」

蒔ちゃんと氷室さんは、そうして話を続けています。
私はふと、夜の空を見上げました。空には変わらず、お月様が私達を照らしています。

(また、会えるといいな)

優しい幽霊、小次郎さん。恋人に会うことは出来たんでしょうか……?
冬の夜の中で、私は、もう一度、あのお侍さんに会いたいと、そんな風に思っていました――――。


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