〜七夕〜
〜七夕〜
それを聞いたのは、寺に住み込んでいる、一成という少年の口からだった。
この国の、古くからの行事――――七のつき、七の日、一夜限りの恋人の逢瀬の物語は、私の興味を引くに充分だった。
「七夕、ですか」
「ええ。それでその日は、笹の葉に、願い事をつるすんですよ。願掛けのようなものですね」
願いがかなう、というわけではない。誰がはじめたのかも分からない。
それでも、それは確かに、皆が知っていることらしかった。
「そういうわけですので、明日は晴れたら、夜にでも境内に集まって……皆で願い事を飾るそうですよ」
「はぁ」
一成の言葉に、私は曖昧に頷いた。正直、迷信めいたこの話を、私はさほど興味を惹かれなかった。
――――翌日、朝から雨が降っていた。
窓の外に目をやりながら、私はしばし考え込む。なんとなく気にかかったのは、今夜の七夕という行事のこと。
先ほど聞くからに、その日が晴れないときも、延期は行わないらしい。
「では、晴れなかったら彦星と織姫はどうなるのでしょう?」
「それは……分かりませんね。少々かわいそうかもしれないですが、また一年後を待つのかもしれません」
一成の言葉を、私は思い起こす――――。一年……恋人に会えないなんて、非道な話だ。
私では、一日とてそのような仕打ちには耐えられないだろう。心寄せる人が居る分、その思いは素直に理解できた。
少し考え、私は少々おせっかいを焼くことにした。
風と温度……天候操作くらいなら、お手の物であった。
その夜、晴れた夜空の下、裏手の池に皆が集い、願いの短冊をつるす。
一成や宗一郎様、また、宗一郎様の教え子の少年達も集まり、皆が思い思いに語っている。
私は少しはなれた場所で、その光景を見つめる。
自分のやったことも、少しは意味があったんだと、わずかにうれしく思いながら。
「さて、それでは私も――――」
願い事はただひとつ。手の中にある短冊をそっと握り、私もまた、その輪の中に歩み寄っていった。
ささやかな願い、七つの月、現実と虚実が重なる、そんな日の出来事――――。
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