〜SS 短編〜
〜魔法使いTai?〜
「そういうわけで、魔法使いになる方法ってのを聞きたいんだが」
「――――いきなり、大きく出たわね、アンタも」
俺の言葉に、遠坂は呆れ半分、怒り半分といった風に、額を抑えた。
まぁ、話半分ということで聞いてみたことは、遠坂も分かっているんだろう。
そうでなければ、今ごろはガンドの百や二百は飛んできそうな発言だと、自分でも分かっていたからだ。
――――さて、事の発端は、ここ最近の自分の生活面に起因している。
遠坂に半ば引きずられる形で、時計塔のある島国に来た俺であったが、魔術師の修行は、遅々として進んでいなかったのである。
もともと、生活の面でカツカツであったこともあって、ここ最近は、アルバイトばかりの生活を送っていたのだ。
清掃、料理、バーテンや、夜は夜で細かい内職をしてばかりなのだ。
……なんだかおかげで、執事レベルは数段上がったような気がしないでもないが、進む道を間違えているようにも感じられる。
幸い、稼いだ分で遠坂は、自らの研究に没頭することが出来ているようだが、俺に魔術を教えるほどの余裕はなかったのである。
「それにしても、いったいどういう風の吹き回しよ。いくらなんでも、自分のレベルを計れないわけじゃないでしょう?」
「ん、いや、そうなんだけど…………ほら、数学の問題を解くときとか、常に一段階上の問題を解こうとすると、意外にあっさり覚えるものだろ?」
困惑した様子の遠坂に、俺は思いついたアイディアを言って見た。
さすがに、このまま魔術師として成長のないままも嫌だったし、意外にいいアイディアのように思えたからだ。
しかし、遠坂は今ひとつ気の進まない顔で、なにやら考え込んでしまった。
耳を澄ますと、ぶつぶつと、自問自答するように独り言の断片が耳に飛び込んできた。
「確かに、このままでも困り者よね……。余裕がなきゃ、デートも出来ないし、士郎にはもっと逞しくなってもらわないと」
何を言っているのか良く聞こえなかったのだが、どうやら遠坂も、俺の意見には賛成してくれるようであった。
わずかな時間、黙考すると、遠坂は方針を決めたのか、一つ、大きく頷いた。
「確かに、魔法を知ろうとするというのは、魔術師の大前提だし、士郎の魔術にも、知るべき事はたくさんあるわ」
「――――それじゃあ、遠坂」
「ええ、お昼を食べたあとは自由時間だし、せっかくだから士郎に付き合うわ」
遠坂の言葉に、俺は内心で喝采を上げる。しかし、遠坂はすぐさま、とんでもないことを口にしたのである。
「それじゃあ、お昼を食べたら時計塔に行くから、用意しておいてね」
「……え?」
「あ、なんだか意外そうな顔ね。でも、魔法を調べるなら、やっぱり専門の知識のあるところに行かないと」
それが当然よ。という口調で言い切る遠坂。俺としては、遠坂とのマンツーマンのほうが、気が楽でいいんだけど。
しかし、遠坂は至って上機嫌で、当番制である昼食の準備をしていたりする。
「あ、士郎。テーブルの上、片付けちゃってね」
「ああ、分かった」
鼻歌交じりに料理をする遠坂の後姿――――普段着にエプロンを着けた、色気のある姿に目を奪われながら、俺はテーブルの上を片付ける。
しかし、妙なことになったな……正直、時計塔は魔術師の森といった感じ、あまり足を踏み入れたくないというのが本心であった。で
しかし、いまさら前言を撤回できるはずもない。
そうして、遠坂の付き添いの元、俺の時計塔ツアー……もとい、魔法に対する探求の旅が始まったのであった。
〜つづく〜
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