金色の月、漆黒の風
「天の杯」
激しい騒音の響く洞窟を、一人の少女が歩く。
その身には、天の杯を受け入れる、純白の衣装。
大聖杯の生贄として、門を司ることのできる少女は、何の迷いもなく歩みを進める。
進む先に待つものは、死しかないというのに、その表情には、何の迷いもなかった。
それでも、何か未練のようなものがあるのだろうか、その足取りはひどくゆったりとしていた。
”――――まだ、大丈夫”
まだ、門は開いていない。開きかかっているが、それは、ほんの少し隙間が開いただけのこと。
だから、あと少しだけ――――もう少しだけ、想うことは許されるだろう。
それは、ただ一人の少女として、彼女の義理の家族に向けてのことだった。
”シロウは、私が守るから”
誰かを救うために、誰かが犠牲にならないといけないのなら、それは私がなろう。
だって、家族になってくれるって言った……彼は、大事な人だから。
洞窟を、ゆっくりとイリアは歩く。
一本道の洞窟。目的の場所は近いが、誰とも会わなかった。
きっと、皆、舞台を見ようと集まっているんだろう。
だから、主役の登場は、一番最後。この終末に向かう物語は、彼女の手で幕を引くべきなのだから。
通路を通り、広場を抜け、彼女は大聖杯に向かう。
ただ一人の行進曲。この瞬間、世界には彼女一人。ただひとり。
だけど、心細くはない。なぜなら――――たくさん、思い出せるから。
彼女の小さな手は、ずっと、大好きな人のぬくもりを覚えていたから。
ほんの二週間、だけど、今まで生きてきた中で、本当に幸せだった二週間。
「だから、大丈夫だよ」
聖杯の器、アインツベツンの血。そんなもののためでなく、彼女は大切な家族の為にここにいた――――
Go to Next 最終決戦2「ギルガメッシュ×アンリ・マユ」
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