金色の月、漆黒の風 
Epiloge2 「金色の月、漆黒の風」


それは、何の戯れか、ただ、気になったからに過ぎない。
長き髪、男性と見紛うほどの長身、静かな意志をたたえた瞳。

『気に入った、そなた、我の側妾になれ』

彼女は、彼ではない、彼は、彼女ではない。いや、彼女は彼女ではないのだ。
駅前で静かにたたずみ、流れ行く人の波を見つめながら、青年は、そんな事を考える。

半刻ばかり待った後、彼に向かって近づいてくる足音を聞き取る。
律動的な足音を聞きたがえることは無い。顔を上げると、そこには予想したとおりの女性が居た。

「……遅れて、申し訳ありません」
「ああ、ずいぶんと待ったぞ」

大真面目に返答すると、困った顔をしながら微笑むのも、予想できたこと。
彼の傍らに控えつつ、彼女は決して、自ら前に出ることは無い。

まったく、どこまで似ているのか。内心で苦笑しながら、青年は彼女との逢瀬を楽しむ。
そう、純粋に逢瀬を楽しんでいた。


大聖杯は消え、全ては隠匿されたまま、闇の中に消えた。
では、自分はどうすればいいか。この二年間、ずっと彼は考え――――未だ、答えは出ていなかった。

だから、彼は静かに生きている。
太陽の光を受け、中空に静かに輝く月のように、今はただ、目的も無く、生きていた。

そんな彼の楽しみは、漆黒の風を感じるこの女性との邂逅。
世界に流れを、日々に目的を、不器用ながらも生きる女性は、決して不快ではなかった。

いずれ、何事かが起こり、二人は離れ離れになるだろう。
だが、それまでの間は、この女性を手元においておきたかった。

過去の残滓、適わなかった恋物語。そんな悲哀を持って、目的を失いながらも青年は生きる。
その思いは、女性も同じ。決して互いが絶対ではない。だが、心惹かれたから、せめて今だけは――――。


空には金色の月。静かな春一番は、漆黒の風。
手を取り合って通りを歩く二人は、この世に取り残された、ただ二人の英霊。

永遠でありながら、永遠には続かない静かな恋物語は、静かに始まりを告げていた――――
それは、稀代の英雄王と、かつて海神に愛された非業の女性との、切なく、愛しげな物語である。

Epiloge2 Ende

戻る