〜Fate Silver Knight〜 

〜帰還〜



「…………それじゃあ、セラとリズは残って後片付けをお願いね。実家のほうへの連絡もあるし」
「はい、かしこまりました。それでは、行ってらっしゃいませ」
「……じゃ」

あれからしばらくの後、半壊したアインツベルン城から、二人の侍女が姿を現した。
どうやら、外の騒ぎに巻き込まれないように身を潜めていたらしい。もっとも、ギルガメッシュの乖離剣は予想外だったらしく、早急に城の修理が必要だったが。
そんなわけで、半壊した城に大挙して泊まるわけにもいかず、俺達は夜の森を歩き、深山町へと向かうことになった。

暗い森をイリヤを背負って歩く。幸い、魔力による身体能力の向上のせいか、夜目が効き、歩きにくいということは無かった。
ライダーを先頭に、イリヤを背負った俺、遠坂を背負ったジャネット。そして、ギルガメッシュと続く。
ちなみに、シグルドとヒルダさんは、事後処理と侍女達の護衛のために城に残った。ちなみにバーサーカーは、霊体になってイリヤの傍に控えている。

「すぅ、すぅ…………」

イリヤの寝息が聞こえる。すでに時刻は夜半過ぎ…………子供が起きてるには、少々無理がある時間だった。
激しい戦闘で、あちこち焼け焦げた痕を残す森――――しかし、焼失した部分より以上に、まだまだ緑は残っており、森の広大さを示していた。

「本当に、全部、終わったのよね……」

夜道を歩く道すがら、ジャネットに背負われた遠坂は、そんな風にポツリと言葉を漏らした。
その言葉に、どこか寂寥感を感じたのは、気のせいではないだろう。
結局、遠坂は聖杯を手に入れることは出来なかった。彼女にとっての聖杯――――イリヤと同様に、彼女には彼女なりの戦う理由があったんだろう。

「ねぇ、士郎は……これからどうしていくの?」

もう、戦争は終わった。だから、俺たちの戦う理由も無い。遠坂が聞いてきたのは、俺がどうするか、純粋に興味ゆえだろう。
俺は遠坂の言葉に、しばし黙考し、ややあって……静かに口を開いた。

「そうだな……とりあえず、高校を卒業して……出来れば大学にも行ってみたいな」
「――――なんか、普通ね」
「当たり前だろ、確かにちょっとは妙な力があるって言っても、俺はまだまだ未熟なんだ。世間のこととか色々、勉強したいことはある」

できれば、地元の大学とかに通いたいな……そう思ったことを口にする俺に、ジャネットに背負われたままの遠坂は、からかうような視線を向けてきた。



「でも、それってイリヤが反対すると思うわよ。何のかんのと言って、難癖付けて、引き止めてくるんじゃないかしら」
「…………まぁな」

遠坂の言葉に、俺は苦笑する。普段でさえ、片時も離れないように引っ付いているイリヤだ。
俺が大学に通うなんて言い出したら、実力行使で止めに入るかもしれない。

「――――でも、イリヤを守るには、もっといろいろ勉強しなきゃいけないんだ。ともかく、一度しっかりと話し合うよ」
「イリヤを守るため……ね。妬けちゃうわね」
「ん、どうしたんだ?」

足を止めて振り向くと、眼前には、どアップのジャネットの顔。なにやら眼が据わっているような気がする。

「な、何だよ、ジャネット」
「――――別に、何でもございませんよ」

ぷい、と怒ったように顔を背け、ジャネットはライダーの後について歩いていってしまった。
背中の遠坂は、そんなジャネットと俺を、面白そうに交互に眺めているようだったが。

「これから、か…………」
「?」

不意に、静かにそんな呟きが聞こえ、俺はそちらを見る。夜の森、光が差さなくても輝く鎧を身に纏った英雄王は、静かに空を見上げていた。
夏の夜、木々の梢を揺らし、風が渡る。そんな折、何かを考えていた英雄王は、俺の視線に気づいたのか、ふっ、と不敵な笑みを浮かべた。

「何をしている、逸れて遭難なぞ、恥者以外の何者でもないぞ」
「あ、ああ。そうだな」

ギルガメッシュの言葉に俺は頷きながら、背中のイリヤを背負いなおして、俺はライダーたちを追う。
後ろからギルガメッシュの足音が聞こえるのを感じながら、俺はふと、ギルガメッシュの願いは何だろうと、そんな風に思った。



――――その日は、朝から暑い天気だった。武家屋敷めいた門から、一人の女性が出てくる。
どこか闊達な、ひまわりのような印象を持つ彼女は、照らす日差しに眼を細め、手のひらを太陽にかざしてみる。
と、その手を今度はお腹にやった。どうやら、朝ごはんが食べれず、お腹がすいているようである。

トボトボと歩きだろうとした時、駆けてくる足音に、彼女は足を止めた。
穂群原学園の制服を着た少女が、一生懸命こっちに走ってくるのが見えたからだ。
その少女が誰かわかり、彼女の顔に、驚きと、歓喜の表情が浮かぶ。

そんな時、彼女の後ろからも、夜通し森を歩き、この場へと帰りついた一行が、ゆっくりと道を歩いてきていた。
再会と始まり――――全ての物語の中心となった武家屋敷。皆がここに還ったのは、そんな夏の朝のことであった――――。


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