〜Fate Silver Knight〜 

〜黄昏の闘舞曲〜



神を悉く焼き尽くす、異邦空間――――そのなかで、人の世の英雄と、人を寄り代にした、神との戦いは、果てるともなく続いている。
周囲を黄昏に照らす炎の照り返しを受け、激烈な閃光を纏ったグラムが、ルーへと襲い掛かる。
しかし、相手も然る者…………少年の姿の時には押されがちだった技巧の差は、青年の姿になった時、十二分に埋められていた。

「はあっ!」

高速の剣線を、自らの身体に届く前に、槍の穂先を使い、あるいは柄を使って払いのける。
こと防御に関しては、ルーの立ち振る舞いには隙がなく、シグルド一人ではその牙城を崩すのは困難といえた。

(これなら、しのぎきれるか)

内心で、ルーがそう判断したその時、三人目の英霊が、その場へと踊りかかってきたのである。



――――――――!!




「!」

咆哮と共に、斧剣が振り下ろされ、地面が砕ける。狂戦士となったヘラクレス。その一撃を、ルーはかろうじてよけた。
先ほどまで、バーサーカーと戦っていたシグルドは、警戒するように、バーサーカーに剣を向け、思いとどまる。

「敵、というわけではないようだな」

先ほどの狂乱と違い、明らかにバーサーカーはルーを狙って攻撃を仕掛けていた。
もっともその破壊力たるや、近くに居たら巻き込まれるのは確実だったが、シグルドにとってはこれは好機といえた。
バーサーカーの振るう剣に乗じるように、彼はルーに向かって斬りかかる!

「ちぃっ……!」

ルーは、牽制のために、頭上より光の槍を降らそうとするが、その尽くは、ギルガメッシュの放つ武具に撃墜される。
そうして、正面からはバーサーカーの剣が、横合いからはシグルドが斬りかかってくる!
ルーは、真っ向からその攻撃を受け止めようとはしなかった。破戒力のある一撃、受けるだけで身がもちそうにもない。
彼は、ついと身体を退ける。間合いも何もない狂戦士の一撃は、地面を砕き、土砂を巻き上げる。

「もらった!」

その間隙を見てシグルドはルーに踊りかかる。すでに間合いは密着戦の範囲。
この間合いなら、槍より剣のほうが有利、彼はそう判断した。だが――――、

びゅっ!!


「がっ!?」

飛来した弾丸に額をうがたれ、シグルドは後退する。ルーは巻き上がる土砂のなかより小石を掴み取ると、手首のスナップを利かせ、瞬時にシグルドへと投げ放ったのだ。
ライダーの召還した、天馬の身体すら貫通する威力のある魔弾――――明確なダメージは無いものの、その衝撃はシグルドを後退させるに十分だった。

ルーは軽やかにバーサーカーの剣の間合いから逃れ、両者に対峙する。
その身のこなしは、明らかに英霊のものと告示していた。一振りの槍をその手に持ち、二人の英霊にルーは剣呑な視線を向けた。

「なかなかにやるな……しかし、イルダーナの二つ名は伊達ではない。その程度では、私は倒せ――――」
「天の鎖!」(エンキドゥ)

ルーの高説を遮るようにギルガメッシュの宝具が発動する。神域の者を封じる強固な鎖が、ルーに巻きつき…………、
だが、次の瞬間、ルーが身をよじるとそれは、砂で出来たようにひびが入り、砕け散った!

「な……砕けただと!?」
「皮肉なことだが、その武器は私には通じぬよ。今の私は神域の力を封じられた状態だ。神を束縛するという概念においては、最早、私を認識することは出来ない」

再び斬りかかってくる、シグルドとバーサーカーをあしらいつつ、ルーは愉しげにギルガメッシュに語りかけた。
馬鹿にされている――――そう判断したのか、ギルガメッシュの表情が険しくなるが、斬り結ぶ三人の中に武器の嵐を放り込むのは、さすがに自重したようだ。

バーサーカーの剣を受け流し、シグルドをしのぎ、再びルーは両者より間合いを離す。
狂戦士の乱入で、戦局はシグルドに有利に働くように見えたが、ルーはバーサーカーの力を利用して、逆に両者の攻撃をそらしていた。
このままでは、埒があかない――――そう判断したのはどちらだろうか、そんな状況の中、ルーが、動いた。

「さて、このまま延々と戦うのも趣がない。終わらせてもらうよ」
「なに?」

その言葉に眉をひそめるシグルド、その時、彼の頭上が純白に輝いた。
固有結界の上方に、未だ姿をとどめている聖杯の孔――――、純白の光槍を生み出すそれに、変化が起こった。
先ほどまで、細い光の槍を生み出し続けていた孔は、それを生み出すのをやめ、さらに光を強くする。
孔の中より、巨大なものが出てくるのを、その場にいた者たちは見た。それは、純粋な魔力の固まり、巨大な質量の、隕石のようなもの。

「――――狂ったか!? くっ……!」

慌てたように、その手に乖離剣を握り、聖杯の孔に向けるギルガメッシュ。しかし、彼の持つ剣をもってしても、あれほどの質量を防げるかどうかは、はなはだ疑問であった。
風がうなる、その時、シグルドもまた、その手に持つグラムを開放――――白銀の刃を炎で染めていた。

「どうやら、悠長に事を構える時間はなさそうだな」

狙いは誰か分からない。しかし、あれほどの攻撃、いかな不死身の彼とはいえ、防ぐ手段を思いつかなかった。
戦局が長引けば、負けるのはこちら――――ならば、放たれる前に、操り手を倒す。それが、シグルドの出した判断だった。
シグルドの考えを悟ったわけではあるまい。しかし、その場の空気の流れを感じたのか、バーサーカーもまた、険しいうなり声を上げた。

いっそう激烈な、両者の武器の激突――――しかし、全力を振り絞ってなお、光の神は倒れず…………。
世界を照らす純白の光は、時を追うごとに輝きを増していた。まるで、偽りの月が降りかかってくるような圧迫感――――……

「どうやら、私の勝ちのようだな」
「くっ……!」

勝利を確信したようなルーの言葉に、シグルドは悔恨の声を上げる。その一瞬、シグルドに対しては、隙すら見せていない彼を、彼女は狙っていた……!



じゃらっ!!



「なっ!?」
「今です! 早く!」

ルーの利き腕に、鎖が纏わり付く。およそ、女性とは思えない怪力で、ライダーは声を上げた。
その眼窩には、ポッカリと穴のあいた空洞――――気絶したと思われていた彼女は、千載一遇のこの機会を狙っていたのだ。
バーサーカーの暴れるその場で、気絶した振りをしとおすのは、勇気の居ることだった。下手をすれば、バーサーカーの一撃に殺されかねない。
幸い、バーサーカー達と斬り結んでいる時は、彼女の近くに、彼らの足が向けられる事は無かったのだが。
これを、好機と見て取ったのだろう。誰よりも早く、シグルドはルーへと突進する!

「おのれっ……!」

ルーは、鎖を巻きつけられてでもなお、手に持った槍でシグルドを迎え撃とうとし――――風が、唸った。
光の神の、身体がのけぞる。その背中には、どこからともなく飛んできた、長い真紅の槍…………それは正確に、彼の心臓をえぐり、砕いていた。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

断末魔のような叫び…………ルーのその叫びに感応してか、聖杯の孔より光の彗星が解き放たれる刹那…………、
ギルガメッシュは光の星に剣を向け、シグルドは光の神のふところ深くへ飛び込み――――、

「天地乖離す開闘の星――――!」(エヌマ・エリシュ)
「――――DAS RHEINGOLD!」

二人の英霊は、最高の業を持って、全てに決着をつける一撃を放った――――!

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