〜Fate Silver Knight〜 

〜投影の躯〜



「――――!」
「くっ、はっ……!」

狂戦士のように、混濁した視界と、言葉なき叫び。俺は獣のように俊敏にアーチャーへと踊りかかる。
邪魔な刃を手で弾き、アーチャーの顔面に拳をぶつけようとする。
アーチャーの足が翻る。腹部に衝撃と共に、息が詰まる。俺は大きく吹き飛ばされた。

「刃の部分だけの模倣とはいえ……カリバーンにグラム……デュランダル、エドラム――――豪勢なことだな」
「は――――は――――……」

苦しい……背中がじりじりと焼かれる感覚……頭髪が灰となり、白色に染まるようだ。
今、頭の中にあるのは、いかにして目の前の相手に打ち勝つか――――そのためには、武器が必要だった。

「があっ……!」

獣のように息を吐き、俺はアーチャーに踊りかかる。アーチャーの剣が振るわれる。
腹部に衝撃が走った。痛みはない。刃を受け止めるために、腹部にこもった力を、いっそう強める。

ギチ……という音と共に、腹を覆う刃が、アーチャーの刃を受け止めていた。

「腹部まで……! ぐうっ……!」

動きを止めたアーチャーの腹部に、そろえた指を突き立てる。
中指が最初に、親指の根元まで、アーチャーの身体に飲み込まれた。
引き抜き、再び突き立てる。流れる血は、鉄のような懐かしい臭い――――それに酔うかのように、二度、三度とその身体に刃をつきたてた。

「!」

風斬り音が耳に届き、俺は無意識に腕を跳ね上げる。アーチャーの横合いからの斬撃は、刃を纏った腕に絡めとられる。
アーチャーは刃を手放し、後背へと飛ぶ。だが、その動きはとても緩慢で、ゆっくりに見えた。
俺は、全身に刃を服のようにまといながら、アーチャーに突進する。アーチャーは両手に干将莫耶を持った。
皮肉気なその目線が、今はどこか、哀れんでいるようにも見えた。

ぶしっ……

アーチャーの胸板に、俺の腕が飲み込まれる。
その手のひらから、二の腕……肘の辺りまでが鋭利な刃となったそれを見て、俺はようやく、自らの身に何が起こったのか、気がついた。

「ぁ……ぁ…………?」
「――――普通の魔術師、戦士の相手をするつもりでいたのが仇になったな……お前もまた、私と同じ、人で在らざる身となりつつあったか」

自らの胸に刃をつきたてたまま、アーチャーは刃を振りかぶる。
俺は、それを見ながら、自らの身体の異変に呆然とし、動く事は叶わなかった。アーチャーの刃が落ちるその瞬間……。

ガギンッ!!

どこからか飛んできた見慣れぬ刃が、アーチャーの腕ごと、その刃を吹き飛ばした。

「…………抜け目のない、男だ」

俺の背後、アーチャーはそちらへ視線を向け、どこか懐かしむ様な視線を一瞬向ける。
そうして、もはや力は残っていないのか、アーチャーは俺へと視線を向け、あの笑みを浮かべた。

「まあいい……衛宮士郎。この先にある……お前が堕ちる日を、心より待ち望んでいるぞ」

そう言って、アーチャーの姿が消える。貫いていた肉の感触がなくなり、突き出した腕を俺はだらりと下げた。
だけど、どうなってしまったんだろう。俺の身体は……。

「無事か?」
「――――あ、ああ」

何事もなかったかのような、そっけない口調。それがこの時、どれほどありがたかったのだろうか。
ギルガメッシュの声に、俺は身体中の力を抜く。身を包む刃の鎧が、空気に気化するように溶け消えた。

背を焦がす熱は、未だに残っていたが、そこまで気にせずともいいだろう。
俺は、ひどく脱力した身体を引きずりながら、イリヤたちのほうへと向かう。

イリヤはホッとした表情で、嬉しそうに手をふっていた。
俺は、彼女に手を振り返しながら、ゆっくりと戻る。地面に横たわる遠坂と、地に膝をつけ、彼女を見ているヒルダさん、俺に背を向け、地面に屈んで何かをしているライダーが見える。

そうして、痛む身体を引きずりながら、俺は一つの戦いが終わったことを実感したのだった。

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