〜Fate Silver Knight〜 

〜錆びた、鋼鉄の騎士〜



ゆっくりと、足を動かす。歩を進める先には、睨み合う二対の人影。
片方は、血のように赤く染め上げた外套を、もう片方は、夜の闇をも払う様な金色の鎧をその身に纏っている。
彼らの激突する視線の先には、中に浮く無数の武器。それは牽制ではなく、互いを消滅させるための意味合いを持つ武器。

手に持つ者がいない武具は、召還者の命を受け――――虚空を疾走し、互いにぶつかり合い、はじけ合い、砕け散る。
その光景を目の端に移しながら、俺はまっすぐと、遠坂を撃った犯人……アーチャーへと爪先を向け、一歩一歩近づいていった。

武器の衝突音が消える。まるで何物も存在しなかったように、武具は瞬時に消滅し、静寂が戻る。
そうして、ギルガメッシュは険しい表情のまま、アーチャーは悠然とした表情で俺のほうを向いた。

「ずいぶんと、待たせたものだな。別離の挨拶は済ませたのか?」
「――――なんで、遠坂を撃った?」

叫びだしたい衝動をこらえ、俺はアーチャーに問いただそうとした。
しかし、俺の気持ちなど知った事かと、アーチャーは皮肉げに唇をゆがめ、突き放した言葉で応じてきた。

「さぁな。手が滑ったんだろう」
「っ、お前……!」
「そう怒るな。凛はお前の敵だっただろう? 何故、彼女のことを気にかける?」

アーチャーの声に動揺はない。遠坂を撃った事を悔いてはいないと、彼は言外に告げていた。
俺は歯を食いしばり、アーチャーを睨む。視線では何も出来ないと分かってはいたが…………。

「そうだな……何故かと問われれば、予防のため、と言えるか」
「!?」

いきなり、妙なことをアーチャーは言った。俺の表情を見て、理解していない事を悟ったのだろう。
アーチャーは、明らかに俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべ、見下すように腕を組み、悠然と俺を見て言葉を続ける。

「お前は知らなくて当然だが、凛はアーチャーを殺す可能性があるのだよ……今より過去か、未来かは分からないがな」
「なに……?」
「私としては、彼女は殺さずに済ませたかったが――――彼女はやはり、お前に未練があったのだろう。だからこそ、最後にお前にすがったのだ」

まるで、猫の子でも捨てるかのように……アーチャーは遠坂のことをそう評した。
四肢に、力がこもる…………怒りと憤りを不思議に感じた。それはそう、遠坂とアーチャーの関係を、どこかで俺は信じていたからかもしれない。

「理想、思想、志し……そんなものは儚い物だ。いかに強固な鏨鋼でも、年月が経てば赤錆と共に、露に消える」
「――――……」
「時には恋人であれ家族であれ、殺し合いをする場合もある、それが戦争と言うものだ」
「だから、遠坂を撃ったのか……?」

今一度、重ねて詰問をする俺に、アーチャーは少し考えるように首をかしげ――――

「そうだな。彼女はよくやってくれたよ。最後の最後まで、衛宮士郎という存在にとって、楔となったのだからな」
「アーチャーぁぁぁぁぁ!!!」

衝動と感情に流されるように、俺はアーチャーへと駆ける!
黒の刃、白の刃……両手に握り、振るわれた刃は、それぞれ同色の刃に止められた。

「莫迦か……何故、真正面より飛び掛った……!」

斬り結びながら、ギルガメッシュのそんな言葉が耳に届く。
だが、その言葉を理解することはなかった。ただ、混濁とした感情のままに、俺は剣を振るう。

「投影……開始!」

アーチャーが、剣を持ち替えた。古の由来のある古代の長剣。
両手剣を捨てたのは、それが干将莫耶に対し、利のある武器からか……!

「――――投影……開始っ!」

瞬時に、俺もまったく同じ剣を生み出し、アーチャーの剣を受け止める。
同一の剣……本来は存在しないであろう、偽者のつくりし二本の模造剣はがっちりと刃をかみ合わせ、火花を散らす。

「ほう……剣の練成が甘いと言うのに、砕けずによく持つ。よほど良い魔力(材料)を使っているようだな」
「ぐぅぅぅぅぅぅっ!」
「それに、私と打ち合えるだけの身体能力……背後にいるのは白の娘か、それとも、お前が取り入ったのかな?」

話しながら、アーチャーは剣を振る。振るたびにその手に持つ剣は、姿を変え、形を変化させる。
一つ一つ、剣を生み出しているわけじゃない。構成の同一、形として最も最速な投影法をアーチャーは試している。

「なんて早い……! まるで無限の……!?」

今、何を言おうとしていた、俺は……!?

「残念だが、そうではない。これは単なる投影に過ぎないが……今のお前に、ついてこれるかな?」
「ちっ……!」

俺の両手には、白黒の双刃……アーチャーの攻撃を受けるたび、それは火花を散らし、時には砕け散る。
それを即座に投影しなおし、俺は赤い騎士の攻撃をしのぎ続ける。
だが、武器の扱いに関しては、俺はアーチャーに及ばない。繰り出されるさまざまな剣撃に耐えることが精一杯だった。

もっとも使い慣れている干将莫耶ですら、投影速度においてアーチャーに劣っていた。
アーチャーが5本の剣を投影する間、俺は二本の干将莫耶を生み出すので精一杯だった。

「もっと、早く……!」
「無駄だ。今のお前では、どう抗おうと……何一つ出来ないだろうよ!」

太陽の剣の名を冠した剣が、振り下ろされると、干将莫耶がともに砕け散る。
瞬時に生み出される新たな双刃――――だが、続けて振るわれた王の剣に、それは即座に灰燼に帰した。

これ以上、まだ早さが上がるってのか、アーチャーの投影は……!

「――――!」

爪先に力を込め、後方へと飛ぶ。首を両断しようとしていた、アーチャーの刃は空を切る。
即座にアーチャーは武器を手放すと、その手に新たな剣を持って俺に迫る!

「所詮、変わることなど出来ないのだよ! いくら凛が居た所で、私達の逝く先は昏迷しかないのだと!」
「!」

生み出したばかりの干将が弾き飛ばされる。返す手で莫耶を地面に叩き落すと、アーチャーは剣を振りかぶった。
間に合わない……いくら俺が求めても、投影はこれ以上は早くはならないのか――――!
もっと、早く、武器を生み出して……目の前の相手に…………!



身体は……躯は――――剣で、出来ている。



「なにっ!?」
「あ――――!」

声にならない叫びと共に、俺は手を振る。五本の刃が、振り下ろされるアーチャーの剣をはじいた。
信じられないような表情で、俺を見るアーチャー……無我夢中だった俺は、手の先に伸びているものに、疑いを持たなかった。

手のひらから延びる、五本の指――――それが全て、鋭利な刃物に成り代わっていたのだった。

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