〜Fate Silver Knight〜 

〜幕間・不死の英霊〜



「――――DAS RHEINGOLD!!!」

叫びとともに、森林が白き閃光に照らされる。先ほど、神馬をも灰燼にせしめた光の熱線。
レーザー砲とも言えるほどの出力を持つ灼光は、巨人の身体を包み、吹き飛ばした。

――――――――!

声無き叫びが、森を揺るがし、大地に鳴動する。シグルドの宝具を受けてなお、巨人は雄々しくそこに立っていた。
バーサーカーの身体のそこかしこから、白い煙が上がる。シグルドのその一撃は、巨人の命を一つ失わせていた。
しかし、それだけである。鋼の肉体に包まれたその身体は、なおも11個の命を有し、シグルドに対し花崗岩のように立ちはだかっていた。

「ちっ、効かないか……こいつも不死の力を持ってるのか?」

舌打ちし、シグルドは愛剣――――グラムを構える。グラムの力を使って放つシグルドの技は、魔力の消費を気にしなくてもいい反面、連射が効かない。
数分の蓄積が――――正確には、数分の冷却期間がなければ、放てないのが……シグルドの宝具「金色の一閃」の欠点といえた。

バーサーカーは踏みとどまる。シグルドの宝具の特性を考えると、本来なら、この場から逃げ出してもおかしくなかった。
金色の一閃は、つまるところ対神用の必殺兵器の一つだった。神の力を宿すものには、効果が絶大であり……さらに過去のいきさつより、神域のものほど、この技に対して弱い。
神に近しい位置にいるヘラクレスならば、恐怖に駆られ、逃げ出してもおかしくなかった。

――――――――!

だが、バーサーカーは退かない、さがらない……おそらく、本人にもわかっていないだろう。
本能的に、バーサーカーは城の方へと行こうとしていた。今、城にいるイリヤスフィールに感応するかのように、それ以外の道を選んでいなかった。
しかし、そんなことはシグルドにはわからない。バーサーカーは基本的に近くの敵に襲い掛かるため、その目的が何であるかなど、分かるはずもなかった。

「はあっ!」

シグルドの剣と、バーサーカーの斧剣が激突する。双方全力の激突。だがシグルドに対し、バーサーカーが優位に立っている面もあった。
それは、巨躯の身体と、それゆえに生まれる体重差であった。

叫びとともに、バーサーカーは剣を振るう。シグルドは狙いを定め、剣を持った腕を切り落とした。だが、その瞬間……!

――――――――!

「!!」

バーサーカーのもう一方の腕、武器を持たぬほうの腕が、巨大な岩隗となってシグルドの身体を打ち抜いた!
シグルドは吹き飛ばされ、複数の木々を折りながら、いっそう大きな木に激突する! その時、意外なことが起こった。

「ぐ、はっ……!」

今まで、いかなる攻撃にさらされても、傷一つ負わず、眉一つ動かなかったシグルドの表情が、苦悶にゆがんだのだ。
彼は立ち上がり、背中に手を回す。そこには、吹き飛ばされたときに刺さったのだろう。木の枝が、彼の背中につきたたっていた。
シグルドは、その枝を引き抜く。鋭い痛みとともに、そこから勢いよく血が噴出し――――その傷はなかなか塞がろうとはしなかった。

「油断したな……くっ」

苦々しげな表情で、シグルドは呟く。不死を誇る彼の宝具「邪龍の心臓」……それは、いかなる攻撃を無効化する反面、背中だけは攻撃の無効化をできない。
一対一では無類な強さを誇るが、シグルドにとっては不意打ちやこういったアクシデントこそが大敵だった。

――――――――!

獲物が弱ったと判断したか、バーサーカーは叫びとともに、シグルドに肉薄する。すでに腕は修復したのか、五体満足のその巨漢が迫るのは、並みの英霊なら逃げ出していただろう。
だが、シグルドの表情には、苦悶よりも、恐怖よりも――――果てしない憤怒が浮かんでいた。
痛みは、過去の記憶を呼び起こさせる――――背中の痛み。裏切りと洗脳と、喪失…………刹那、シグルドはすべての怒りを開放していた。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

バーサーカーの腕が、同時に二本、宙に舞った。何が起こったのか理解できず、立ち止まるバーサーカーの両足に亀裂が走る。
シグルドの剣が両手両足を、神速でぶった切ったのだと、狂った脳がそう判断した時……!

「――――DAS RHEINGOLDぉぉぉぉぉぉっ!!!」

グラムより放たれた閃光の熱線が、両手両足を吹き飛ばした胴体をはるか彼方へと、光とともに吹き飛ばした。
後に残ったのは、焼け焦げた地面と、バーサーカーの両手両足だけであった。



全てが終わり、シグルドは大きく息をつくと、それだけで痛みを感じるのか、顔をゆがめて呟いた。

「まったく、手間取らせてくれたものだ……」

舌打ちをしながら、シグルドは城へ向かおうと歩き出す。背中の傷は癒えず、いまだに血を噴出していた。
本当は走り出したいのだが、痛みは体を蝕み、思うように身体を動かせない。それでも、何とか城門へと近づいていったその時――――、

「なんだ……!?」

シグルドは呟きとともに……激しい爆音とともに、壮絶な戦いを繰り広げる、二人の槍使いの姿を見つけたのだった。


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