〜Fate Silver Knight〜 

〜幕間・再臨、雄雄しき英雄〜



閃光と烈洸が森を駆け抜ける。形のない熱は、それそのものが、一つの方向性をもち、一直線に直進する。
光の通り道にある木々は、一瞬に蒸発し、周囲の木々は、その熱を受け、枝葉を燃え上がらせた。
光に包まれた神馬は、一瞬で苦悶の表情に陥り、次の瞬間、骨を残し、肉体は蒸発し、その骨も、数秒の後、消し炭となり、塵に消える。

「くっ、アンヴァルが……」

燃える木々の中、その光景を少年は険しい表情で見つめていた。
その身体はあちこちに煙を上げている。光条に飲まれる直前、神馬の背から飛び、直撃は免れたのだった。
だが、熱の余波の影響か、息苦しそうに、少年は深呼吸を繰り返す。門の方に視線を移すと、苦笑めいた顔を、少年は浮かべなおした。

焼け焦げた大地の上を、銀色の騎士が歩いてくる。その身体には、熱をまとっているのか、白煙の煙。
しかし、彼にはさしたる効果もないのか、銀の騎士、ジークフリードは灼熱の輝きを残す刀身をその手に持ちながら、少年に近づく。
焼け焦げた森の中で、その銀色の鎧は、炎の照り返しを受け、輝いていた。

「そんな技を持っていたとはね、意外だったよ」
「生憎だが、おしゃべりに興じるつもりはない。余計なものを出される前に、決着をつける!」
「っ、と――――熱いね、本当に」

シグルドの剣を槍で受け流し、少年は大きく下がる。銀の騎士の持つ剣の熱に、辟易したのか、その表情はさえなかった。
その少年に対し、シグルドは無言で距離を詰める。槍の穂先が何度か彼に命中するが、お構いなしである。
剣と槍が、激しく衝突する。先ほども行われていた応酬は、実力通りか、シグルドの剣が徐々に押し気味になった。
シグルドの剣は早く、また、少年の槍は幾度かシグルドに命中してはいるものの、決定打とはなっていない。

「くっ……」
「終わりだ」

少年の渾身の一撃が、シグルドの胸甲へと穿たれる。だが、その一撃はシグルドの鎧に傷一つ負わせず、逆に、シグルドは大きく剣を振りかぶる。
振り上げられた剣が、雷光のように少年の頭上に降りかかる、その時――――、

どんっ! ガラガラ……

小さな破砕音とともに、何かが崩れる音が、城のほうより聞こえてきた。

「!?」

思わずシグルドは剣を止め、城へと視線を向ける。城壁に囲まれ、中の様子は分からないが、何事かあったことは明白だった。
しかし、その一瞬を、少年は見逃してはいなかった。少年は剣を掲げたシグルドの脇横をすり抜け、城へと走る!

「しまった……! まてっ!」

舌うちとともに、シグルドは走る少年を追おうとする。だが、少年はシグルドを引き離した一瞬に、懐から敷布を取り出すと、それを大きく振った。
それは、少年の能力を形にしたもの。別の空間――――神域とも呼べるそちらへと繋がる布は、そちら側に待機していたものを、現実へと呼び込んだ。
花崗岩のような肌、巨漢の体躯には張り詰めるような筋肉。その目には理性はなく――――、

――――――――!!!

言葉なき叫びが、その口から漏れる。唐突に現れたその相手に、シグルドは思わず足を止める。
相手は、シグルドを敵と認識したのだろう。その手にもった、無骨な斧剣を振り回し、銀色の騎士へと向かってきた!

「くっ、いきなり何なんだ、こいつはっ……!」

驚愕に顔をゆがめながらも、シグルドは狂戦士の攻撃を何とか受け止める。だが、少年との距離は離れ、追うにしても、目の前の相手はその隙すらなかった。
結局、シグルドは目の前の敵を倒すことに専念しなければならなかったのである。



シグルドが足止めをくっている間に、少年は走り、城門へと迫った。
この城の中に、聖杯の器がある――――そう考えただけで、少年の胸が高鳴った。邪魔な二人組みも排除したし、少年を止めるものはいない。
後は、聖杯の器を見つけ、聖杯の儀に取り掛かるだけである……少年は、城門へと駆け寄り――――足を、止めた。

「ずいぶんと、苦戦しているようだな……ま、他の奴の手にかかってないのは、俺にとっちゃ幸運だが」

城壁の上に、一つの影。全身を包む青い鎧に、その手に持つは、真紅の槍。
獰猛のような獣のような印象を持つ青年は、全身にまとう殺気を隠しもせず、城門の前に立つ少年を見る。

「――――君か、ずいぶんと元気そうだね」
「ああ、一回死に掛けたが、ま、何とかなったもんでな」

見上げる少年に、ランサーはにやりと笑って答える。アサシンとの戦いで受けた傷は、完全に塞がっていた。
それは、キャスターから渡された、あの薬のおかげであった。五体満足な身体をもって、ランサーは槍を構える。
その様子を見て、少年も槍を構えた。二対の槍使いは、構えも瓜二つに、互いに互いを見る。

「……ここを通して、って言っても、聞いてはくれないだろうね」
「いや、別にいいんだが、あっちはあっちで、ちょっと揉めててな――――向こうのケリがつくまでは、俺の相手をしてもらうぜ」

ランサーの言葉に、少年は苦笑を浮かべる。背後からは、狂戦士の絶叫と、銀の騎士の振る剣の激突音。
城壁の中からも、なにやら争う音が聞こえてくる。まさに今、この場は、群雄割拠の戦争とも言える荒れっぷりだった。

躊躇はない。構える少年のもとに、城壁を飛び降り、ランサーが踊りかかるのを、少年は笑顔で迎え撃った――――!

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