〜Fate Silver Knight〜 

〜アインツベルン城・庭園・剣燗乱叉〜



鮮烈な緑の空気……深い森に囲まれた城の庭園は、降りしきる夏の昭光に熱に浮かされたかのようだ。
頬を、汗が伝う。本当なら、城の中に入って暑さから逃れたいところだが、そうもいかない。
どこか鋭い視線で、探るような視線を、シグルドが向けているからだった。
先ほどより数分間、黙ったままじっとこっちをうかがっている、彼の考えは、まったく読めなかった。

「あの、それで話って?」
「さて…………どう言ったらいいものか」

焦れたから、改めて聴いた俺の言葉に、シグルドは考えるように口ごもると、納得したように頷いた。

「やはり、直接調べたほうが早いな」
「え、調べるって――――」

聞こうとして、俺は硬直した。いつの間にか、銀色の騎士の手には、一振りの無骨な剣が握られていたからだ。
太陽を鍛えし色彩の剣――――グラム。その使い手である銀色の騎士は、相変わらずの仏頂面で、一歩を踏み出した。

「剣を抜け、士郎。いずれここも戦場になる。そのとき、君がどれほど戦力になるか、見極めておく必要があるからな」
「本気、ですか」
「本気なわけ無いだろう。だが、知っておかねばならないことでもある。なに、死にはしないさ」

そっけない口調ではあるが、その目は真剣そのものだった。
どうしたものかと、周囲を見ると、そこにはギルガメッシュ。彼は城の壁面に背を預け、わずかにできた影の空間でくつろいでいた。
どうやら、止める気はさらさないようである。それで、覚悟が決まった。

両手に双剣を生み出し、俺はシグルドと対峙する。どこか懐かしい感じを受けた。
それは、半年前、セイバーに稽古をつけてもらった時のような、清々しい緊張感がそこにあった。
ざぁ…………と、澄み切った夏の風が、木々のこずえを揺らす。その葉鳴りの音が収まったその瞬間――――、

「――――いくぞ」

無造作につぶやき、銀色の騎士が、その身を低く、獣のように屈めると……俺に向かって一直線に突進をしてきた!



「くっ!」

白光に刀身を纏った斬撃が、衝撃と共に柄まで伝わる。肘から先がしびれるような感覚と共に、数歩たたらを踏んだ。
二度、三度、刃が衝突し、火花を散らす、死にはしないと言っていても、その斬撃には手加減は無い。
受け損なえば、確実に死傷は免れない一撃を、かろうじて受け止め、受け流す。

「ふっ――――!」
「く、あっ!」

飛び退り、距離を置く。刃を合わせると、その実力は明確に分かる。恐らくは他の英霊とは一線を臥す実力。
セイバーに勝るとも劣らないほどに、シグルドの剣は強靭であり、付け入る隙が無いように思えた。

「――――なるほど、これくらいなら捌けるか……だとすると」
「!」

再び、シグルドが踏み込んでくる。速度が――――上がった!
雷光のような、視認することすら難しい斬撃――――凌ぐ事は……!

「くっ、そぉっ!」
「!」

身体を動かす、いや、考えるより先に、身体が動いた。
先ほどの数倍の速度、まるで弾丸のような速さの剣の舞。
それについていこうと、振り回される刃の雨を、無我夢中で受け止め続けた。
精神が磨耗する。一方的に押されながらも崩れない俺に焦れたのか、シグルドの表情が険しくなった。

「ちっ……!」
「がぁっ!」

斬り下げられる一撃を、双剣で受ける。乾いた音を立て、二対の剣は粉々に砕け散った。
続く横薙ぎの一撃は、両足が千切れるほどに腱に力を込め、後方に飛び退ってかわす。
そして、なおも追いすがるシグルドの刃、喉元を狙う突きを――――。

「!」
「!」

新たに生み出した、剣の刃で受け止める。それは、先ほど砕かれた、黒白の夫婦剣。
だが、グラムは、その二対の刀身すら貫通し、俺の喉元で、紙一重で止められていたのだった。



「――――なるほど、このくらいか。よく分かった」
「――――」

刃が引かれ、俺は声も無く息をつくと、地面に腰を下ろした。
圧倒的、だった。ほんの僅かな時間、剣を合わせただけで……何時間も戦ったかのような疲労に襲われている。
と、そんな俺を、なんだか呆れたようにシグルドは見つめていた。

「……なんですか? 言っておくけど、これ以上は出来ないですよ。俺の実力なら、もう分かっただろうし」
「――――ああ、それはよく分かった。だが、余計に気になってな」

そういうと、シグルドは、どこか困惑したように首をかしげる。
何か、さっきの戦いで気になることがあったんだろうか……?

「さっきの手合わせ、最初の数回はともかく、後半は本気で斬り込んでみたんだが」
「え、本気、って――――」
「言ったとおりだ。特に、最後の三撃は全力で斬り込んだ。もっとも、寸止めはするつもりだったが」

あっさりといったシグルドの言葉に、背中に冷や汗が流れる。
意思が摩滅しない限り、砕けることも無いはずの双剣を貫通した、あの突き――――あのまま寸止めが無かったら、俺の喉に風穴が開いていただろう。

「でも、何で、そんなこと」
「いや、動きが良すぎるのが気になってな。実際、俺の本気の一撃を、君は二度しのいだ。さすがに三度目は許さなかったが」

だが、と言って、シグルドは憮然とした表情を見せる。
それは、どこか胡散臭いものを見つめるような、鋭い視線でもあった。

「それでは合点がいかない。それほどの実力を持っているなら、あの女騎士くらいなら手玉に取られることは無いだろう」
「ジャネットのことをいってるのか? でも、あれは……」
「それだけではない。今朝から今まで、あの廃墟からこの城に来るまで、歩き通し、戦い通しというのに、君は息一つきらしていない。まるで――――」

と、そこまで言って、シグルドは、何か言いづらそうに口をつぐんだ。
だが、言い始めた手前、引っ込みがつかなかったのだろう。銀色の騎士は、静かに、淡々と――――……。

「まるで君は、魔術師と言うより、我々、英霊のようだ」
「!?」

と、意外すぎる一言が、その口から漏れたのであった。


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