〜Fate Silver Knight〜 

〜朝・ピクニックで朝食を〜



「う……」

朝。日の光の差し込む屋内で、暑苦しい空気に辟易しながら、俺は身を起こした。
崩れかかった廃墟の一室――――瓦礫の床と、外を移す大きな窓。窓から見える空は、晴れ渡った湖水に似た色をたたえている。
周囲を見渡すと、一緒に寝ていたはずのイリヤの姿が見当たらなかった。

「?」

怪訝に思い、俺は寝床から腰を上げる。イリヤの姿を求め、俺は廃墟から外へと出た。



「おはようございます、士郎」

建物から外に出たところで、ライダーに遭遇した。眼帯代わりにメガネを掛けた以外は、いつもと変わらない立ち振舞いをしている。
朝日を浴びて、士魂の髪が艶やかに、鮮やかに輝いていた。

「ライダー。怪我はもう大丈夫なのか?」
「はい、本調子とまでいきませんが、普通に動く分には支障はありません」

そういって、薄く笑みを浮かべる。この分なら、どうやら心配しなくても大丈夫なのだろう。
ふと心づいて、俺はライダーに、イリヤの行方を聞いてみることにした。

「そういえば、ライダーはずっと外にいたんだろ? イリヤがどこに行ったか知らないか?」
「はい、もちろん認知しています。そのマスターの使いで、士郎を起こしに来たのですが」

その必要も無かったようですね……と、なぜか残念そうにライダーはつぶやいた。
わずかに引っかかりを感じたが、ともかく、イリヤは近くに居るようだった……俺を置いて、どこかに行ったとか、そういうのじゃなくて、安心する。
と、ライダーがこちらに注目しているのに気づき、俺は思わず渋面になった。魔眼の効力が無いとはいっても、ライダーの視線は妙に気になる。

「どうかしたのか? なんだか、言いたい事がある見たいだけど」
「いえ、特には……ただ――――微笑ましいと思いましたので」
「――――……」

ライダーの言葉に、俺は無言。妙な風に弁明したら、泥沼と化すような気がしたからだ。
果たして、それが正しかったのかはわからない。ともかく、ライダーは薄く微笑みながら、流れるように背を向ける。

「では、行きましょう。あまり長々と話し込んでは、マスターの機嫌が損なわれますから」

そういって、歩き出すライダー。俺は、なんともいえない気分で、ライダーの後について歩き出したのだった。



「ふむ、ようやくの起床か……いつも規則正しい、卿にしては、珍しいものだ」
「あ、おはよう、シロウ!」

廃墟の近くにある森の広場――――そこに、まるでお花見のようにビニールシートが轢かれ、朝食の準備が出来ていた。
大き目のビニールシートの中心に、サンドイッチのランチボックス。それを中心に、イリヤ、ギルガメッシュ、シグルドと、車座に座っていた。

「ちょっと遅いわよ、もう――――私、おなかペコペコなんだから」
「あ、ああ、悪い……でも、これは一体?」

イリヤに手をぐいぐいと引かれる俺を尻目に、ライダーはギルガメッシュの隣に腰を下ろした。
どうやら前もって、座る場所を決めていたようである。俺はイリヤの隣に座る。俺、イリヤ、ライダー、ギルガメッシュ、シグルドの順に時計回りの座。

「これは、そちらの方が持ってきたものです」
「シグさんが……?」

ライダーの目線の先、銀髪の青年は、俺の疑問に対し、ああ。と頷きを返してきた。
でも、料理が出来るとは意外だ。言っては何だが、そんな風には見えないんだが…………。

「何かを勘違いしているようだが、俺はこれを持ってきただけだ…………城からな」
「城?」

重ねて問う俺に、憮然とした表情で、シグルドは肩をすくめる。
本人にとっては、十二分に不本意な出来事だったらしい。

「昨夜一晩かけて、この森一帯の地形は把握した。それで、ヒルダが寝泊りしてる城にも立ち寄ったのだが……」

城を出る際に、メイドの二人に山ほど荷物を押し付けられたんだ……と、げんなりした様子でシグルドは、ぼやいた。
朝食の席を見る――――用意されているのは簡素とはいえ、結構な量の朝食であり、視界の端に置いてある他の荷物とあわせれば、かなり……かさ張るだろう。

「朝食くらい、食べなくても平気だろうに、世話の掛かる話だ」
「そう思うなら、食べなければいいのよっ」

愚痴をこぼすシグルドに、イリヤが食って掛かった。どうやら、初対面から気に食わない相手として認識しているようである。
言葉の節々にも棘があり、明らかに嫌っているようであった。もっとも……シグルドの方は、気にしていないみたいだが。

「あ、そうだ。シロウ……これ」
「ん?」

ふと、何かに気づいたイリヤが、傍らの荷物をゴソゴソとやっていると――――しばらくして何かを取り出し、俺に突きつけてきた。
手渡されたのは、コップに水筒、歯ブラシとタオル…………洗面用具一式だった。

「本当は、シャワーとかも浴びたいけど、そういうわけにもいかないし……とりあえず、どこか近くで済ませてきて」
「――――ああ」

それを持って、少し離れたところで歯を磨き、水筒の水でうがいをし、顔を洗う。
背後からは、イリヤとライダーの談笑する声が聞こえてきた。時折、シグルドとイリヤが言い争う以外は、平穏そのものである。

「まぁ、こんな物まで運ばされちゃ、不満に思うのも当然か」

もう一度、念入りに歯を磨きつつ、俺はなんとなく……そう一人ごちていたのだった。



朝食の席に座りなおし、サンドイッチに手を伸ばす。すでに複数あるランチバックのうち、一つは空になっていた。
どうやら、中身は全部サンドイッチのようだから、特に不満に思うことは無かったけど。

「ん…………これは、うまいな」
「当然よ。私の付き人が作ったものだもの」

感想を漏らす俺に、イリヤは自慢げに胸を張る。視界の端で、ギルガメッシュが何か言いたげな表情をしているのが見えた。
なんとなく、いやな予感がした俺は、先んじてギルガメッシュに言葉を投げかける。

「ギルガメッシュも、旨いと思うだろ?」
「――――ふむ、何者が作ったものかは兎も角、悪くは無いといっておこう」

ギルガメッシュの言葉に、自慢げな表情を見せるイリヤ。ギルガメッシュはというと、視線だけで俺に語りかけてきた。

(――――瑣末な事だが、気を使っているようだな)

そんな言葉が聞こえてきそうで、俺は内心、ため息を漏らしていた。
楽しげなイリヤ、そんな彼女の様子に微笑むライダー。シグルドは憮然とした表情で、ギルガメッシュは気だるげに、食事を進める。

和気藹々と、あるいは喧々諤々と、森の中での朝食は、そんな風に進められていったのである。
それは、確かに疲れたが――――久々に感じることの出来た、団欒の場でもあった。

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