〜Fate Silver Knight〜 

〜王様と侍女〜



「ん……」

差し込む日差しの眩しさに、目を細めながら俺は身を起こした。
部屋の暑さに、汗が浮かぶのに辟易しながら、周囲を見渡す。見慣れた自分の部屋……どうやらあの後、気を失ってしまったらしい。

「すぅ、すぅ……」
「イリヤ……なんて格好で寝てるんだよ」

同じ布団で、寝息を立てるイリヤの姿を見て、俺は苦笑を浮かべる。
やはり暑いのか、布団を蹴り飛ばしたイリヤは、薄着のパジャマをだらしなく着崩して、おなか丸出しの格好で寝入っている。
俺は苦笑して、イリヤの寝巻きの前を合わせると、布団代わりに薄手のタオルケットをかけた。

「さて、朝食の準備をしないとな……あまり遅いと、ギルガメッシュが不機嫌になるし」

まだ、はっきりしない頭だが、ともあれやるべき事は分かってる。
俺は寝ぼけた頭をひとつ振り、朝食の準備をするため、居間に向かうことにした。



「……ん?」

廊下を渡り、居間に入ったとき、鼻腔に芳しい香りが届いて、俺は思わず足をとめた。
吸う者をうっとりとさせるようなそれは、間違いなく朝食の匂いである。

「やっと起きたか。少々、遅延気味だぞ」
「あ、おはよう、ギルガメッシュ。なぁ、これは――――」
「うむ、そのことだが……」

言いよどむギルガメッシュ。俺は、ギルガメッシュから厨房のほうへ視線を転じ、硬直した。
ワンピースタイプの、黒褐色のメイド服を着た誰かが、台所で調理をしていたからだ。すらりとした背に、ミニのスカートは扇情的にすら見える。
紫紺色の長髪に、カチューシャをつけ、眼鏡をかけたその女の人は、俺が見つめているのに気づき、軽く会釈をする。

「おはようございます、士郎」
「その声、まさか、ライダー……なのか?」

そう、それは見紛う事なき、ライダーその人であった。彼女は、俺が戸惑っているのに気づいたのか、目をほんの少し細める。
笑みこそ浮かべることはないものの、明らかに楽しんでいる様子に、俺の頬が熱くなった。
――――正直、ライダーは美人である。それがメイドさん然とした格好をしているのは、目のやり場に困るのだった。

「はい、倉の方を漁っていたら、なかなか興味深い服を見つけたもので……士郎、この服は、あなたの趣味ですか?」
「なっ、そんなわけないだろう!?」

いくらなんでも、そんな怪しい服を買うような趣味はない。おそらく、藤ねえあたりが勝手に置いていったものだろうが……。
本人がこの場にいない今、確認の取りようもなかったのである。
さて、ライダーはというと、メイド服が気に入ったのか、上機嫌で料理を続けていた。

「それにしても、ライダーって料理ができるんだな」
「当然でしょう。淑女のたしなみですから」

……きっぱりと言い切るライダーのその言葉、どっかの虎にも聞かせてやりたい位である。
質問ついでにもう一つ気になったことがあったので、俺はライダーに再度、問いを送った。

「……そういえば、ライダーって眼帯を取っても大丈夫なのか? なんか、特別な力があったはずだけど」
「ああ、そのことですか、それでしたら、そちらの英雄王が……この眼鏡を貸してくださいましたので」
「ギルガメッシュが?」

言葉と同時にそちらを向くと、そこにはひどく憮然とした表情のギルガメッシュの姿があった。
表情を見る限り、本人にとっては、とても不本意なことらしいが――――、

「ギルガメッシュが、ねぇ……」
「何だ、その間は。我とて、好きで宝物を貸したわけではない。だが、あの服装で眼帯姿の娘を想像してみろ。食欲もなくなるわ」

言われ、俺はメイド服姿(眼帯つき)のライダーを想像してみる。
……別に、そこまで言うほどのものでもないと思うけど、ギルガメッシュにとっては死活問題だったらしい。

「ともかく、朝食にしましょう。サクラの料理の模倣をしましたので、味のほうは保障できます」
「桜の……なるほど、最近、料理が上達していたのは、そのせいか」

一人より二人。桜も、料理の相談相手としては申し分なかったのだろう。
調理を続けるライダーの手並みはしっかりとしていて、危なっかしいところはなく、俺が口出しすることもなさそうだった。

「士郎、マスターを呼んできてください。私は今、手が離せませんので」
「ああ、分かった」

イリヤを起こしに、居間を出ようとする俺。その視線の隅に、ギルガメッシュの姿が映る。
ギルガメッシュは相変わらず不機嫌そうに、扇風機の前に座って、見るともなしにテレビを見ていたのだった。

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