〜Fate Silver Knight〜 

〜現場検証・聞き込み〜



燦燦と輝く夏の陽光が、アスファルトに照りつけ、地面に陽炎を揺らめかせる。
藤ねえと一緒に、穂群原学園の校門に着いたのは、日も高く上る、昼頃のことである。

遠坂に連絡を入れた後、藤ねえに事情を説明すると、とるものもとりあえず、という風に、大急ぎで出発しようということになった。
もっとも、外は暑いし、家の中でくつろいでいたい、とごねる、イリヤやギルガメッシュの説得に、結構な時間を要したのだが。

「ふ〜ん、ここが、シロウが通う学校なんだ」
「まったく、何で我がこのような雑事に……」

今はというと、イリヤは暑さよけに、小さな白の日傘を掲げている。ギルガメッシュのほうは、うんざりした様子で周囲を見渡していた。
夏休みに突入した学校は、普段なら運動系の部員がグラウンドを選挙しているのだが、この時期は遠征やら何やらで出払っているらしい。

誰もいないグラウンドと、白磁の校舎だけが、俺たちの目の前にはあった。



「――――さて、それじゃあ私は職員室で事情を聞いてくるから、士郎は二人を連れて、先に弓道場に行ってなさいね」

藤ねえはそれだけ言うと、返事も待たず、校舎の方へと駆けていく。
それじゃあ、こっちも弓道場にいくとしよう。このままじゃ、日射病になりかねないしな。

「じゃあ、今から弓道場ってところに行くけど、暴れたりしないで、大人しくしてるんだぞ」
「シロウったら、なんだか、信用してない言い方みたいだけど……時と場合ぐらい、ちゃんとわきまえるわよ」
「そうだな、卿が何を心配しているか理解できぬが、さしたる不手際を起こすこともあるまいよ」

俺の言葉に、不満そうに言葉を返す二人。とはいっても、やっぱり連れてっていいんだろうか。
藤ねえで耐性が出来ているといっても、変り種のイリヤとギルガメッシュが、弓道部の生徒たちに受けいられるか、心配ではあった。



「うわ、可愛いなぁ……ね、ね、名前はなんていうの?」
「イリヤちゃんかぁ。なんかハーフってすごいねぇ」

…………わいわい、がやがや、と弓道場で女生徒達がはしゃいでいる。
その輪の中心にいるのは、どこか戸惑った表情のイリヤだった。

イリヤを連れて、弓道場に入った俺だったが、部員たちの様子はとても暇そうであった。
もともと、そこまで熱心に部活動をする学校じゃない。さらに、まとめ役の桜がいないため、何をするでもなく、ダレきっていた。
そんなわけで、弓道場を訪れた俺たちの中で、真っ先に目をつけられたのはイリヤである。

もともと、見た目は美少女である彼女に興味を示した女子部員たちは、イリヤの手を引っ張ると、輪の中に入れて質問を始めたのである。
最初こそ、戸惑うように、部員たちに不審そうな表情を向けたイリヤだったが、次第に打ち解けてきたのか、徐々に笑顔を浮かべるようになっていた。

……うん、イリヤにもこうやって同姓の友達が出来るのは、いいことだ。
道場の壁に背中をもたれかからせながら、俺はその光景を、感慨深げに見守っていた。
ちなみに、隣ではギルガメッシュが男子部員より借り受けた団扇で、自らの体を扇いでいた。

「や、衛宮君、調子はどう?」
「黒桐――――来てたのか」

特に何をするでもなく、たたずんでいた俺に、声をかけてきたのは、眼鏡をかけた、同い年の部員だった。
黒桐は、いつも温厚そうに微笑んでいて、弓道部の清涼剤的役割だった。
俺と同じ3年生のため、そろそろ部活動に来なくてもいいのだが、世話好きな彼は、いまだに弓道部に出入りしていたようだった。

「うん、藤村先生に呼ばれてね。いろいろと片付けとかが多かったから……」
「……ああ、なるほど」

確か数日前、藤ねえが婚約破棄のため、学校中をしっちゃかめっちゃかに改造して立てこもった。
たぶん黒桐は、その後片付けに呼ばれたんだろう。後片付けとか、得意だからな。

「それはそうと、大変だね。間桐さんが急に行方不明になるなんて」
「――――ああ、黒桐。いったいどういうことなんだ? 詳しいことは、何も聞いてないんだが」

俺の言葉に、黒桐は沈黙し、ややあって昨日の状況を語りだした。
昨日の夜――――弓道部員たちは夜のグラウンドを使って、花火大会をしていた。
基本的に自由参加のため、何名かの生徒は参加せず、そのときは大して気にもならなかったのだが――――、
翌朝、今日のスケジュールを聞こうと主将である桜を探すが、その姿はどこにも見当たらなかったのである。

「最後に話したのは、花火の許可をもらうために、浅上さんが間桐さんに聞いた、夜の十時ごろらしいけど、それ以降はわからないなぁ」
「いや、それだけ分かれば十分だ。だけど、何でそんなに詳しいんだ?」
「それは……本人から聞いたんだよ」

黒桐の視線の先には、ロングヘアの一年の女生徒がいる。こっちの視線に気がついたのか、彼女はこっちに手を振ってきた。
それに答えるように、黒桐は手を振り返す。ひょっとして、二人は付き合ってるんだろうか?

「――――少年、魔に魅入られているな」
「え」

その時、唐突に話に割り込んできたのは、ギルガメッシュだった。黒桐に視線を向け英雄王は可笑しそうに笑う。
いきなりのことに、黒桐は困惑した様子で、小首をかしげたのだった。

「おい、あれ……」
「あれって……」

その時、ざわざわと、周囲がざわめきだした。皆の向く視線の先に顔を向けると、そこには――――、

「衛宮くーん、こんなところにいたんだ」
「と、遠坂!?」

すぐ間近に、遠坂の顔があった。とてもにこやかな笑みで、何故か怒ってらっしゃるようでした。

「まったく、校門で待っていてもなかなか来ないし、こっちに来てみれば来てみたで、私に気づかないんだもん」
「あたたたた、遠坂、わき腹、ちぎ、ちぎれるって……!」

俺のわき腹に当てられた遠坂の手は、ぎりぎりと万力のように力をかけて握ってきた。
その部分だけ抉り取られそうな痛みに、俺はたまらず悲鳴を上げる。

「…………じゃあ、僕は用事があるから」
「あ、ちょっと、黒桐…………! ギルガメッシュも、見てないで助けてくれっ!」

そそくさと、その場を去っていく黒桐。俺は傍らのギルガメッシュに助けを求めるが、興味なし、という風に英雄王は動かない。

「分かってる? 二十分よ、二十分。この炎天下の中……おかげで、干からびそうになっちゃったわよ」
「いや、だからそれは俺のせいじゃ――――!」

わき腹に加わる力がいっそう強まり、俺は声にならない悲鳴を上げる。
結局、異常を察したイリヤが助けてくれるまで、俺はそうやって、遠坂のストレス発散に付き合うことになったのであった。

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