〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆絡む絆、日暮の時〜



放課後、一成に頼まれた仕事を終えて、俺は教室に戻った。
秋の日はつるべ落とし――――日の暮れるのは早く、教室には誰も残っていなかった。
帰り支度をしながら、これからどこに行こうか考えをめぐらす。商店街に寄って、何かを買ってから帰るとしようか。

「――――っと、その前に……」

この時間なら、弓道部の練習も一通り終わっている所だろう。桜の所に顔を出していくとするか。
夕暮れの弓道場へと、足を運ぶ。文科系の部活や、運動部の中でも早い所は練習を切り上げ、帰り支度をしている。
下校する生徒が一時期増える、帰宅ラッシュというところだろうか。校舎から出た先にある弓道場からも、パラパラと何人かの生徒が出てきていた。

「あれ、衛宮じゃない。間桐のお出迎え?」
「ああ、美綴か……ちょうどよかった。桜はいるか?」

俺と同じように、顔を見せに来たのか、弓道場から出てきた美綴に、俺は声をかける。
大和撫子を地で行く、活発な美人系の彼女は、ああ、と頷くと興味深げに笑みを浮かべた。

「間桐なら居残りだけど――――衛宮が来たんなら、話は別だね。ちょっとまってて、話をつけてくるから」
「え、話って――――美綴?」

聞き返すが、美綴は答えることなく、きびすを返して弓道場の中に入っていってしまった。と、なにやら言い争う声と、どすん、と何かを投げ飛ばしたような音が響いた。
――――いったい、中で何が起こってるんだ…………? そんな事を思い、待つこと一分足らず……美綴りが片手に荷物、片手に誰かを引きずって外に出てきたのだった。

「お待たせ、衛宮。やー、ちょっとだけ、てこずっちゃってね――――もう入っても大丈夫だよ」
「おい、いい加減に離せよ、姉ちゃん! ……って、アンタは」
「実典……美綴、話をつけるって、実典にだったのか?」

美綴に引きずられてきたのは、彼女の弟である実典だった。服装は弓道着姿で、着の身着のままで引っ張られて来たといった所だ。
ということは、美綴の手に持っているのは、実典の荷物だろう。そんな事を考えていた俺に、美綴は苦笑して、肩をすくめた。

「まぁね。部活が終わっても、間桐に練習を頼み込むからさ。姉としちゃ、弟が下心なしで弓の練習をするってのなら、歓迎するんだけど――――」
「何だよ、それ。俺は部長に頼み込んでるんだし……姉ちゃんは、かんけーねーだろっ」
「馬鹿。ただでさえ最近忙しいってのに、これ以上、間桐に負担を掛けるんじゃないよ。そのうち、ぷっつりと切れられても困るんだし」

ほら、いくよ! と実典をぐいぐいと引っ張る美綴。実典も思うところがあったのか、たいした抵抗は見せなかった。
ただ、もの言いたげに俺の方をじろりと見つめてきたので、一応は謝っておこうかと思った。

「その、悪いな、実典」
「……別に、謝ってもらわなくてもいいっすよ。間桐部長だって、アンタが一緒のほうが楽しそうなのは確かだし……」

実典はやおら、美綴の手を振り払うと、早足で校舎の方に歩いていってしまった。
残された俺と美綴は、互いにバツの悪そうな顔で苦笑を交わす。ふて腐れられるより、怒鳴り散らされた方が気が楽だったんだが。

「あらら、拗ねちゃったか。しょうがない、フォローに行くとしますかね」
「悪いな、美綴。いろいろと迷惑をかけちゃって」
「気にしない気にしない、間桐は可愛い後輩だからね。先輩として、色々としてあげたいわけよ。そんじゃ、アタシは実典を捕まえにいくから」

じゃーねと手を振りながら、美綴は校舎の方に歩いていった。その場に残ったのは、俺一人。
俺と美綴が話している間も、何名かの部員が脇を通って帰っていった。おそらくもう、弓道場に残っているのは、桜だけだろう。

「さて、桜を待たせるのも悪いし、入るとするか」

呟いて一息つくと、俺は弓道場の扉を開けて、中へと足を踏み入れたのだった。
黄昏時の弓道場――――思うところがあってか、桜は弓道着姿のままで、物憂げに一人……射の的のほうを向いて、夕日を浴びてたたずんでいた。