〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆故人の系譜〜



柳洞寺の建つ円蔵山の中腹――――寺の裏手に、墓地へと続く山道がある。
人の手がある程度入っていて、俺自身、山道の掃除を行ったこともあるが、それでも舗装された道に比べると、歩きにくいことは確かである。

商店街からお寺へ、裏道へと歩を進めているのだが、いつの間にか俺の背に一つのお荷物――――もとい、女の子が乗っかっていた。

「うふふ、楽しいわよね、シロウっ」
「イリヤスフィール、そろそろ降りたらどうですか、いくら士郎が頑健とはいえ、貴方をずっと背負ったままでは、辛くもなりましょう」

俺に負ぶさったイリヤを見ながら、セイバーはやや険のある口調で彼女を諌める。とはいえ、それで動くイリヤではないのだけれど。
無論、イリヤには罪は無い。もともと、セイバーや藤ねえに比べ、体力的にかなり劣る彼女にとって、柳洞寺の石段や、裏道を歩くのは大変なのだ。
そんなわけで、へたり込んだイリヤを背負い、俺は長々とした階段を登って、そのまま山道を歩いているところである。

「セイバー、俺なら大丈夫だよ。バイトでもっと重いものを担いで、石段を登ったこともあったしな。イリヤくらいなら軽いものさ」
「――――ですが」
「ああ、もう……ちょっと騒がしいわよ、セイバー。お兄ちゃんに構ってもらえないからって、拗ねちゃってるんだから」
「な…………そんなわけ無いでしょう! 私がその程度のことで取り乱すはずがありません!」

イリヤの挑発にあっさりと乗っかり、声を荒げるセイバー。俺の背中にしがみつき、顎を俺の頭部に乗っけたままのイリヤは涼しい顔。
どうしたものかなと、救いを求めて視線を漂わせると――――道の先を見ながら、どこか寂しげな表情を見せる藤ねえの姿があった。
普段の藤ねえからは、想像もつかないほどに大人びている表情……切嗣に対する思い入れは、俺以上にあるのかもしれなかった。

「――――さ、行こうか、セイバー。あと少しで着くだろうし」
「あ、はい」

イリヤを背負って歩く俺に、何か感じ入る所があったのか……セイバーは、それ以上はイリヤに絡むことなく、俺の後についてきた。
無言でイリヤが、俺にしがみつく力を強くした。彼女にとっても、切嗣の墓参りは緊張するものなのだろう。
俺達が歩き出すのを確認して、藤ねえが先頭に立って歩き出す。その仕草はいつも通り、さっきのような寂しげな表情は見られなかった。



「切嗣さん、今日は士郎達も一緒に来てくれたよ。いつもより、ちょっと賑やかになるわ」

裏山にある共同墓地の片隅……衛宮家と銘打たれた石造りのお墓の前で、藤ねえは静かに手を合わせて、つぶやいた。
お供えの花を飾り、手馴れた様子で線香を四本纏めて火をつけると、それを一本ずつ、俺達に手渡していく。

「はい、セイバーちゃん達は作法を知らないだろうから、私や士郎の真似をしてくれれば良いから」
「これが、お墓ですか……」
「ふぅん、他のと大して変わりないのね」

改めて、まじまじと墓を眺めるセイバーとイリヤ。二人とも、日本のお墓を見るのは初めてだろう。

「本当は、もうちょっと豪華になる予定だったのよ。切嗣さんの銅像とか建てて……少年よ大志を抱け――――みたいなやつ」
「切嗣がそういったのを好まないって言わなきゃ、本当に実行しそうだったからな。藤ねえも零観さん達も……」

死後、自分の銅像が立てられるなんて知ったら、切嗣はどう思うだろうか。きっと、いつもの表情で「困ったな……」とでも言いながら、呆れるのだろう。
自分の想像が多分に合っているだろうと予想できて、俺は苦笑し――――改めて故人の墓に線香をあげて、亡き養父を偲んだのだった。



墓参り自体は、簡素で短いものだった。お墓に熱心に語りかけていた藤ねえはともかく、俺やセイバー、イリヤは何をするでもなく、短く作法に則って線香をあげただけだった。
今は、寺から借りた桶や柄杓を持って、山道を歩いている最中である。時間的には昼過ぎ――――いつもの昼食の時間はとうに過ぎていた。

「さて、これからどうしようか? 墓参りも終わったことだし、商店街で何か、出来合いのものでも買って帰るのもいいと思うけど」
「えー、私もう、おなかペコペコ〜、料理ができるのを待ってなんか居られないわ。ね、どこかで食べて帰りましょうよ、シロウ」
「…………シロウの料理にすべきか、多少は雑でも空腹を何とかすべきか……難しいところですね」

俺のあげた意見に、不満の声は頭上から――――帰り道も俺におんぶされている、イリヤから外食の提案があった。
すっかり脱力気味に、だらーんと俺に寄りかかっているイリヤ。俺の背中が気に入ったのか、すっかりくつろいだ様子である。
セイバーはというと、言っても無駄だと悟ったのか、イリヤに関しては何も言わず、ただ、昼食をどうするか、真剣に悩んでいるようでもあった。

「ふっふっふっ――――大丈夫、大丈夫。お昼ごはんなら、ちゃんと当てはあるんだから!」

と、先頭を行く藤ねえが、自信満々に言いながら、くるりとこちらに向けて反転した。
向きを変えながらも、後ろ歩きに器用に道を進んでいる。一応、山道なのだが、歩きなれているのか、道を踏み外す心配はなさそうだった。

「当て? なんだかまた、碌でもない事を考えてるんじゃないだろうな?」
「む、失礼ね――――ただ、このまま行けばお寺を通るし、お昼ご飯を御馳走になろうと思っただけよ。題して『突撃、お寺の昼ごはん☆』!」

わー、と腕を振り上げてそんなことを言う、藤ねえ。しかし、俺は至極冷静に――――却下した。

「駄目だ。いろいろな意味で無茶すぎるぞ、藤ねえ」
「へ? どうしてよ? 士郎だって、お昼の準備をしなくてもいいし、待たずにすぐ食べれるのよ?」

はてな? と、よく分かっていない様子で首をかしげる藤ねえ。藤ねえにとっては、柳洞寺は大した場所ではないだろう。
ただ、俺やセイバー、イリヤだって、ここで食事を取るのは遠慮したいところだ。なにせ――――お寺の魔女がどういう行動に出るかも分からないし。
味も不安だがそれよりも――――愛しいマスターとの団欒を邪魔されたからと、不思議な短剣を振り回すくらいは平気で行いそうだと思う。

「昼飯時に押しかけちゃ、迷惑だって分からないのか? 俺は、針の筵の上で飯を食うのはごめんだ」
「そうね、私もシロウに賛成」
「――――さすがに、あの場所に留まるのは私も遠慮したいですね」

俺の言葉に、口々に賛同するイリヤとセイバー。さすがに反対意見多数ということもあって、藤ねえも渋々ながら引き下がることに決めたようだ。

「分かったわよぅ。でも、お腹ペコペコだし、家まで待てないからね――――ちゃっちゃと商店街で、ご飯を食べることにしましょ」
「そうだな。商店街の喫茶店か、食堂にでも寄ることにしようか」

そんなことを言いながら、裏の道から寺の境内に入る。休日のお寺は、皆が出払っているのか換算としていたが――――ひょっこりと、本道のほうから顔を覗かせた人がいた。
一成の兄であり、藤ねえの知人でもあるその人は、片手に酒瓶、片手に茶碗という豪放磊落そのものの仕草で、こっちに歩いてきた。

「おや、これは珍しい組み合わせの客人だ。一人寂しく酒を飲んでいると、面白いことに出くわすものだな」
「あ、零観さん、こんにちわ〜、お昼からもう酔っ払っているの?」
「ははは、いやなに、案外寺というのは暇なときもあるものでな。商売上がったりというものだが、まぁ、世が平穏なのも悪くはないものだろう」

……ちなみに、商売というのは、もちろん葬儀とか葬儀とか葬儀とかの類のものである。
言いようによっては、陰湿な言葉にも取れるというのに……この人が言うと全然そんな風に感じないのは人徳というものだろうか?

「ま、とりあえず駆けつけ三杯――――どうかね? 酒ならネコ君の所から仕入れたばかりだ。一晩中飲み明かしても、足りなくはならないはある」
「あ、そう? それじゃあ御馳走になろうかな〜」

零観さんの誘いに、嬉々として乗っかろうという藤ねえ。ちなみに今は真昼時――――これから日が変わるまで飲もうというのか、この駄目人間’Sは。

「こら、生徒の前で何を宴会の相談してんだよ、藤ねえは」
「もう、お硬いなぁ、士郎は――――今日は学校も休みだし、たまには羽目を外したって良いじゃないのよぅ」

普段から羽目を外してるようにも思えるが――――こうなったら、何を言っても無駄だろうな。
藤ねえから酒を取り上げるのは、セイバーからご飯を没収するくらい難しいだろうし…………放っておくのが一番だろう。
まぁ、あまりに羽目を外しすぎて、キャスターの逆鱗に触れなきゃ良いけど…………そこは、大人としての二人の良識に期待するしかない。

「はぁ……分かったよ。それじゃあ俺は、セイバーとイリヤと帰るから」
「ん。本当は士郎にもお酒、付き合って欲しかったんだけどね……それは数年後に期待するとしましょ」
「ははは、それでは今日は、拙僧が代打ということで飲み明かすとしましょう」

言いながら、手酌ですでに酒を呑み始めている零観さん。そんなこんなで、藤ねえを置いて、俺達は寺を出ることにしたのであった。
何となく、藤ねえが寂しそうな表情だったような気もするし、一緒にいたほうがよかったかもしれないけど――――酒が飲めるまで、もう年月を重ねる必要がありそうだった。



「さて、二人とも何にする?」
「ん――――決めた。私はハンバーグパスタセットね」
「……ジャンボミックス定食を」

柳洞寺から出て、マウント深山商店街に立ち寄った俺達は、昼食をとるためにファミリーレストランに入ることにした。
休日ではあるが、幸いにも待つこともなく、俺達は窓際のテーブル席に案内され、メニューを開いて相談している最中であった。

「――――かしこまりました、復唱します。日替わり定食、ハンバーグパスタセット、ジャンボミックス定食を、それぞれお一つずつで宜しいですね? 少々お待ちください」

ペコリと擬音が出るような、計算された角度で頭を下げ、ウェイトレスの女の子が歩き去ってから、俺はようやく一息をついた。
柳洞寺から下りの階段、商店街とイリヤを背負ったままの強行軍は、なかなかに堪えた。まぁ、肉体的にもそうだけど、精神的にも。
人通りが少ない山道ならともかく、商店街ではイリヤを背負った俺の姿はなかなかに目立つ。そんなわけで、イリヤに下りるように注意を促したのだが――――……。

「なぁ、もういいだろ? そろそろ降りて、一緒に歩こう、イリヤ」
「や。だってシロウの背中、気に入っちゃったんだもん。シロウは、私を背負うの、嫌になっちゃったの?」
「いや、そういうわけじゃない。イリヤに頼られるのは、悪い気はしないけど――――」
「じゃあ、何の問題もないわよね。ほら、早く行きましょ」

そういった応酬が何度か……結局、イリヤを説得する事が出来ず――――なし崩し的に背負っていたのが、いけなかったんだろうか。

「――――……」

いつの間にか、セイバーが無言で拗ねていたのであった。



そして、今に至る。家族連れがよく使うファミリー席……そこに座るに当たっても、妙な現象が発生したりしていた。
大きなテーブルを挟むようにある、二つの椅子――――よくあるボックス席の片方には、イリヤ、俺、セイバーと順で座り、向かい側の席は無人である。

「……なぁ、何かバランスがおかしくないか?」
「そう? シロウが言うならそうかも……セイバー、席を移りなさいよ」
「なぜ、私がそのような事をしなければならないのです?」
「あら? だって最初に、私とおにいちゃんが席をとったのに……割り込んできたのは、セイバーじゃないの?」

イリヤの物言いに、ぐ、と言葉を詰まらせるセイバー。確かに、最後に席に座ったのはセイバーだった。
――――事の真相は、こう……レストランに入って、席に着いた俺は、ようやく背中に背負ったイリヤをおろした。
で、ずうっと俺に背負われてご満悦なお嬢様は、さも当然のように、俺の手をとると――――、

『シロウも一緒に座ろ』

と、俺の手を引っ張って、片側の椅子に座ったのであった。俺としても断る理由もなかったから、イリヤに引かれるままに、席に座ったのだが――――

『…………』

ずい、と俺を押すように、セイバーが無言で俺の隣に腰掛けて来たのであった。
テーブル席は6人用で、椅子自体は3人で並んで腰掛けるのに何の不都合もなかったのだが……対面に誰もいないというのは変な気分である。
さっきのウェイトレスさんも、一瞬言葉に詰まっていたし、呆れているんだろうな、あれは。

「し、仕方がありません! 私はシロウを護る義務がある。限りなく身近に控えるのは、当然のことなのですから!」
「ふーん、そんなこと言って、本当はおにいちゃんを独占したいだけでしょ? セイバーったら、素直じゃないんだから」
「なっ……貴方こそどうなのです! 私に、そのような事を言って、本当は自分がシロウを独占するつもりなのでしょう!?」
「――――何を言ってるのよ? つもりじゃなくて、独占してるの! シロウは私のおにいちゃんなんだからっ!」

俺を挟んで、左右できゃあきゃあと言い合う二人――――ああ、こんな時、藤ねえがいれば…………無理か。余計に話がこじれるだけだろうし。
とにかく、このままじゃまずいだろう。いくら休日で騒がしいファミレスとはいえ、この騒がしさはさすがに異常だ。このままじゃ、店を追い出されかねない。
俺は一つため息をついて、立ち上がった。自然、俺の動きにつられて二人の言葉がとまった。その時を見て、俺は二人に切り出す。

「俺が移る――――イリヤとセイバーは並んで座ること」
「え〜…………」
「ですが、シロウ」

俺の言葉に、不満そうな声を上げるお嬢様×2。しかし、ここで甘やかしたらさっきの二の舞である。
俺はちょっとだけ顔を険しくして、左右の二人を交互に見ながら重々しく言うことにした。

「イリヤもセイバーも、ちょっと騒ぎすぎ。頼むから、もうちょっと静かにな。セイバー、一度出てくれ」
「あ、はい」

席を移るため、セイバーが一度外に出て、俺は向かい側の椅子に腰をかける。セイバーが元の場所に戻ると、俺の後を追おうと腰を浮かしかけたイリヤも、残念そうに腰を下ろした。
そんなわけで、セイバーとイリヤが並んで座り、対面には俺という席順で、ようやく落ち着くことになったのであった。

「お待たせいたしました。日替わり定食、ハンバーグパスタセット、ジャンボミックス定食になります」

タイミングを見計らっていたかのように――――いや、実際様子を見ていたであろう――――ウェイトレスさんが、カーゴに乗せた三人分の料理を運んできた。
そうして、ほんの少し遅めの昼食を俺とセイバー、イリヤの3人で始めることになったのだった。



「いただきまーす!」

もう機嫌を直したのか、美味しそうにハンバーグを口に運ぶイリヤ。セイバーはというと、相変わらずムッとした顔で結構なボリュームの食事を消化していたが……、
しばらくして不意に、何かに気づいたようにイリヤを見た。その手が無造作に、テーブルの上を動き――――目的のものを探り当てる。

「イリヤスフィール、少し動かないでください」
「え、なに?」

戸惑う表情のイリヤの口元を、セイバーが紙のナプキンでそっと拭いた。ああ、なんだかこの光景って、どこかで見たことあったような気がする。
そういえば、俺とセイバー、イリヤの3人だけで食事をとるのって、いつ以来だろう? いつもは、他の誰かがいたり、欠けていたり……珍しいよな、この組み合わせも。

「これで良し。もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう――――なんだかセイバーって、お母様みたい」
「お母様、ですか、私が」

イリヤの物言いが、こそばゆかったのか、セイバーは戸惑ったように視線を動かし、そんなセイバーを見ていた俺と目が合った。

「…………」
「…………」

何となく、気恥ずかしい。切嗣という故人で繋がれた俺達の関係――――家族と呼ぶには歳が近しいけど、嫌じゃないそんな関係。
そうだな、家族ってのも悪くはない。セイバーがイリヤのお母さんって言うなら、俺はイリヤの父お――――、

「それで、シロウは私のおにいちゃん――――うん、これでばっちりよね!」

お――――や? なんだか、見解の相違が見られるような気がする。セイバーも、イリヤの言葉の意味を図りかねたのか、怪訝そうな表情を見せた。

「す、少し待ってください。イリヤスフィール、貴方は私のことを母親みたいといいましたね。それで、シロウが兄というのは少々おかしいのではないですか!?」
「え、別にどこもおかしくないわよ? だって――――」

イリヤは、止せば良いのに、セイバーに向かってとことん無邪気な顔で……

「だって、セイバーが一番年上じゃないの? 年代的に」
「――――!」

それはつまり、セイバーの生年月日を指しているという事だろうか? 正確なことは分からないけど、それって何百年前だ?
セイバーはというと、イリヤの言葉に硬直している――――あまりと言えばあまりの一言に塩の柱になったかのようで、触ると崩れそうだった。

「まぁ、見た目は若いし、お母様って所で落ち着けたんだけど――――セイバー、どしたの?」
「イリヤ、頼むからもう少しだけ、言葉を選んで相手に伝えような……」

拝啓、切嗣様――――貴方の娘は、すくすくと育ってます。兄として、かなり複雑な方向にですが。



「それじゃあ、今日は帰るから。みんなによろしくね」

食事を終えて、何をするでもなく、まったりとお茶の時間をすごして、俺達がレストランを出たのは、夕暮れが周りを包む時分になっての事だった。
イリヤは、このまま、お城のほうに帰るらしい。 さっき俺が少し席を外している間に、セラ達に連絡を取ったのだとか。

「一人で大丈夫か? なんだったら、セラ達が来るまで家で待ってたらいいだろ? 夕食なら、セラ達の分だって準備できるし」
「うーん、ありがたいけど、いいわ。そしたら帰りたくなくなっちゃうし――――セラ、シロウに色々と言うと思うから」

その光景を思い浮かべたのか、愉しそうにイリヤは微笑む。そして、ほんの少しだけ、その表情に寂しげな色を混ぜた。

「本当はね、今日はずっと一緒にいたいの。一緒にお風呂に入って、一緒のベッドに寝て、寂しさを抱きしめて包んで欲しいの」
「イリヤ――――」

それは、イリヤの弱音――――いつもとは違う出来事に対する、ほんの少しの本音。

「でも、おにいちゃんに迷惑をかけちゃいけないしね。私は大丈夫よ。心配なのは、むしろセイバーの方だけど」
「――――」

セイバーは、相変わらず無言で落ちこんでいる。よっぽど年上発言が堪えたのか、あれから一言も発さず、どょ〜んと落ち込んだままだった。

「大丈夫なの、セイバー?」
「……多分。お茶やお菓子は食べてたし、後は俺が何とかするから」
「そう、それじゃ、シロウ――――またねっ」

そう言うと、イリヤは元気いっぱいに手を振りながら、商店街の人ごみに紛れ――――俺達の目の前から消えた。
きっと明日にでも、彼女は元気いっぱいに、俺達の前に現れるだろう。だから、心配ない――――俺はそう、自分に言い聞かせた。

「さて、あとはセイバーをどうするかだけど……」

俺の隣でうつむいて、落ち込んでいるセイバーを見て、俺は頭をひねらせる。いったいどうすれば、彼女を元気付けれるか考えて――――止めた。
変に頭を使っても、しょうがないだろう。俺に出来ることは、少ないんだし――――やれることをしよう。

「セイバー、いこうか」
「あ……」

セイバーの手を握って、歩きだす。普段はやらないけど、セイバーが動かないんだから、しょうがない。
俺に引っ張られたのは数歩だけ。セイバーは俺と歩調をあわせながら横に並び――――それでも、握った手はそのままに、一緒に歩き出した。

「今日は、色々と疲れました……シロウ」
「ごめんな、あまり構ってやれなくて。晩飯は、セイバーの好きなものを作るからさ」
「…………」(こく)

難しい言葉はいらない。ほんの少しの言葉だけで、俺達は癒されて、笑顔になれる。
触れ合った手のこそばゆさを感じながら、それでもお互いに離すことはなく――――俺達はしばらくの間、夕飯の買い物のため、商店街を歩くのだった。

交差点を抜け、家路を歩き続ける。特に急ぐこともなく、俺とセイバーは寄り添うように道を歩き、そうして、門の前にたどり着いた。後は、玄関まで一直線。

「ただいま」
「……ただいま」

玄関の扉を開けて、俺が言った言葉。真似するようにセイバーがポツリと呟いたのが、しばらくの間……耳の奥に残るのだった。