〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆姉議論〜



一成に会いにでも行こうかと、自宅から新都の交差点に差し掛かった時、交差点の真ん中で二人の女子が話をしていた。

「あれ、イリヤ? それに、三枝……」
「あ、シロウだ」
「こんにちは、衛宮君」

談笑していた二人は、それぞれ、おや? といった表情で互いを見つめた。

「ユキカ、シロウの事を知ってるの?」
「うん、同じ学校に通ってるから――――イリヤちゃんも、衛宮君の事を知ってるみたいだけど……」

三枝は、質問の途中で頭をひねる。俺とイリヤが知り合いだという事に、疑問を持ったようだ。
まぁ、年齢も、性別も違うし、傍から見たら、俺とイリヤの共通点は皆無に等しい。
しかし、そんな三枝の懸念もどこ吹く風に、にこやかに両手を挙げて、イリヤは――――、

「シロウは、私のお兄ちゃんなのー!」

と言いながら、がばっと俺に抱き付いてきたのだ。隣では、三枝がキョトンとした表情で、その光景を見ていた。
ううむ、しかしこれは、どう説明すれば良いものだろうか…………?

「あのな、三枝、イリヤはその…………」
「――――ひょっとして、イリヤちゃんの言っていた、お兄さんって、衛宮君のこと?」
「ええ、そうよ。シロウは私のものなんだからっ」

そういって、ぎゅむぅと腰に抱きついてくるイリヤ。手荒に引き剥がすわけにもいかず、戸惑っていたが、ふと疑問に思ったことがあった。
俺はイリヤをしがみつかせたままで、三枝を見る。彼女は、俺とイリヤがじゃれあう様子を、興味深げに見つめていた。
少なくとも、イリヤと三枝が一緒にいる所を、俺は見たことが無かったけど。いつの間に二人は知り合ったのだろうか?

「三枝は、イリヤと知り合いだったのか?」
「あ、うん。ついさっき知り合って、いろいろお話していたの」
「ユキカは、たくさんの弟がいるお姉さんなんだって。とても参考になったわ」

姉王(アネキング)奪還のために、頑張んなきゃね――――などと、イリヤはニコニコ笑顔で言う。
ちなみに、第一回姉王の勝者は、話術を駆使して、並み居る挑戦者をドロップアウトさせた、赤いあくまに決定した。
おかげで俺は、遠坂に弟呼ばわりされ、事あるごとに雑用を押し付けられ――――って、それはいつもと変わらないのだけど。

「イリヤちゃんは、弟さんがいて、その子の為に色々としてあげたいって言っていたの」
「へぇ、弟――――って、イリヤに弟なんて居たっけか?」
「なに言ってるの、私はシロウのお姉さんなんだから、弟はシロウに決まってるでしょ」

疑問の声を上げる俺に、イリヤは溌剌とした声でそんな事を言いきった。ああ、三枝の視線が痛い――――あれ?
予想に反して、三枝はニコニコ笑顔で、俺に抱きつくイリヤを見て、うんうんと頷いていたりする。

「そっか、イリヤちゃんは、衛宮君のことが大事なんだね」
「ええ、そうよ。シロウは私の大切な人なんだから!」
「あのな、三枝……確かに俺とイリヤは兄妹みたいなものだけど、俺が弟ってのは……」

どう弁明していいか分からず、口ごもる俺だが、三枝はいつもの通りに優しく微笑むと、俺とイリヤを交互に見つめた。

「うん、分かってる。私も時々、弟達にね、「姉ちゃんはだらしない」とか、「騙されないか、心配だ」とか言われるから――――私の方がお姉さんなのに、年下扱いするの」

――――なるほど、総じて、年下というのは年上の兄や姉にそんな感情を抱くものなのかも知れない。
かくいう俺も、兄ではないが義父に同じような感情を抱いたことがある。年上なのに時々、頼りないと思ってしまうのだ。

「シロウ、せっかく出会ったんだし、どこか遊びにいきましょ」
「え、でも、これから一成に会いに行こうかって――――」

俺の手を引っ張って急かすイリヤに、俺がそう答えると、イリヤはとたんに拗ねた顔になった。

「駄目よっ、今からは私と一緒に遊ぶ時間に決めたのっ。今日はとことん、私に付き合ってもらうんだからっ」

そう言うと、ぐいぐいと俺の手を引っ張るイリヤ。とはいえ、体重差もあって、俺はその場から動くことは無かったが。
――――しょうがないな、一成には大した用事も無いことだし、今日はイリヤの我が侭に付き合うことにするか。

「わかったよ。イリヤの頼みを無碍には出来ないもんな。家に戻るとしようか」
「うん! じゃあ、私達は行くね、ユキカ」
「ええ、それじゃあまたね、イリヤちゃん、衛宮君も……また学校でね」

微笑む三枝に会釈をして、俺とイリヤは我が家のほうへと歩き出した。

「えへへ、シロウ、家に着いたら何して遊ぼうか? あ、新都のほうに出かけるのも良いかもしれないわ」
「ああ、イリヤの好きなようにするよ」

お姉さんぶってる時もあるけど、やっぱり可愛い妹だよなぁ……イリヤに手を引かれながら、俺はそんな感想を抱いたのだった。