〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆都市伝説、生きた伝説の狩人を君は見たか!?〜



学校の休み時間……授業の合間に、生徒一人一人が僅かな休息時間を有意義に過ごしている。
次の時間の用意をする者、早々と昼寝を決め込むもの、携帯のメールをチェックしたり、友人同士で話したりと様々である。

「なぁなぁ、昨日の『まじかのミステリー』を見たか? 俺らの街の事が映ってたよな?」
「『ま、まじか!?』 というあれな――――おう、もちろん見たぞ」

教室のざわめきに混じって、そんな雑談が聞こえてきた。視線を転じると、クラスの男子の何人かが、集まって話しているのが見える。
ちなみに、さっきの『ま、まじか!?』というのは番組の合間に入るもので、芸能人がそれぞれ特徴のある驚きの表現をして見せるものだ。
どうやら昨日の番組の物まねだったらしく、男子生徒の合間から笑いが漏れる。ちなみに、物まねをしたのは後藤君だ。

普通のしゃべりの番組では、ひねりがないと思ったのか、それとも素でやったのかは判別はつかなかったが。

「ふぅん、俺は見てなかったからな――――どんな話だったんだ?」
「ああ、街の北のほうに、山があるだろ? その山の中に、一人の仙人が住んでるって話だ」

仙人ね……胡散臭いと思いながら、俺は次の準備を整えつつ、会話の内容を右から左に受け流していた。

「なんでも、とんでもなく長い槍を持って、木々を飛び回っては獣や魚を取って、日々を暮らしているらしい」
「ああ、そういえば小耳に聞いた事がある。何ヶ月か前、山にハイキングに行って遭難した女子大生グループを助けたって話な」
「そう、で、番組のスタッフが取材に行って、決定瞬間を収めたんだよ。何か、木の間を凄いスピードで飛び回る、赤い槍を持った人影を――――」

ガタガタガタッ!

「む――――どうした、衛宮? いきなり机に突っ伏して……教材が床に落ちているぞ」
「あ、ああいや、なんでもないんだ、一成」

通りがかった一成に受け答えしながら、俺は身を起こす。無論、言葉ほど平静じゃいられない。
クラスメイトが話しているのは、間違いなく――――ここ最近、町内に住み着いたアロハの男だろう。
そういえば山の向こうでサバイバルしているって、誰かから話づてに聞いたような気がする。

「でもなぁ、変なんだよ。番組で色々と探してるんだけど、人がいたはずなのに、焚き火とか、そんな生活の跡は全然見つからなかったらしい」
「まぁ、仙人だからな――――霞か霧でも食って生活してんじゃないか」

そんな訳はないだろう。ランサーは斥候の天才だ。敵に発見されないように、野営の跡を消すくらい造作もないだろう。
――――ただ単に、料理やら何やらは新都の居酒屋とかで済ませてるのかもしれないが。
…………今後、俺のバイト先にひょっこりと姿を現さなきゃいいけど。ネコさんとかと、気が合いそうだよな。

「よし、今度の休み、皆で見に行ってみようぜ。うまくいきゃ、テレビ局にスクープを持ち込めるかもしんねーし」
「やめといた方が、良いと思うけどなぁ……」

盛り上がる男子生徒に聞こえないように、俺はポツリとつぶやいた。ランサーだって、無遠慮に自分のテリトリーに入られるのは快くは思わないだろう。
まぁ、いくらなんでも命を取るような真似はしないだろうし、男子だけで行くなら、大事にはならないだろう。

…………さて、もうそろそろ次の授業が始まる。早く床に落ちた物を拾って、準備を終わらせるとしよう。

「――――ほら、衛宮」
「ああ、さんきゅ。一成」

一成に、落ちた物を拾うのを手伝ってもらいながら、俺は安穏とした時間を過ごそうとしていた。
…………まぁ、脳裏の片隅に、紅い槍を持った某英霊が問題ごとを起こさないかと、心配の種が芽吹きはじめてはいたのだったが。