〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆藤ねえ観察日記〜



夕食が終わったあと、自分の部屋に一度戻り、そこで気になるものを見つけた俺は、居間へと引き返した。
居間には藤ねえとイリヤがいて、二人してテレビを見ている。他の面子は、部屋に戻るか、自分の家に帰っているようだった。

「あれ、どしたの士郎? 部屋でのんびりするって言ったなかった?」

俺が入ってきたのを目ざとく見つけた藤ねえが、小首を傾げて聞いてくる。ちなみに、イリヤはというと――――テレビに釘付けになっていた。
時刻は、夜の8時前後――――テレビでは、動物関連のバラエティが放送されていた。どうやら、テレビ画面に映っている、大きな象に興味津々らしい。
いくら田舎じみてるとはいえ、街中では、そうそう動物を見る機会もない。今度、イリヤをつれて動物園にでも遊びに行ってみるとしよう。

…………まぁ、それはともかく、わざわざ居間に戻ってきたのは、藤ねえに聞きたい事があったからだ。
別に、こそこそする必要もないし、単刀直入に藤ねえに聞いてみるとしようか?

「ああ、そうだけど……ちょっと聞きたい事があって。藤ねえ、俺の部屋に置いた荷物の中に、重要なものは入ってないよな?」
「んー、どうかしらね? とにかく、邪魔だと思ったら……確認もしないでバンバンと捨てちゃうから」

俺の問いに、なにやら頼りない返答をする藤ねえ。そんな藤ねえを見て、俺はため息をしつつ、手に持ったそれをテーブルの上に無造作に置いた。
何の変哲もないノートに、クラス名が銘打ってある、表記は「学級日誌」と書いてあるノートだった。

「これ、藤ねえが高校生の時の学級日誌だろ。いったいどういう経路で紛れ込んだか知らないけど、ガラクタの中に紛れ込んでたぞ」
「え、ほんと? うわー、なつかしー。そうそう、こういうのって今も昔も変わらないのよねぇ」

のほほんと言いながら、ノートを手にとって、ペラペラとめくる藤ねえ。と、CMに入って興味がそがれたのか、小耳に聞いていたイリヤが、首を傾げて呟く。

「え、タイガって高校生だった時があったの?」

心底、不思議そうな表情のイリヤ。おそらく彼女の中では、藤ねえはホムンクルス並の不可思議生物にカテゴリされているらしい。
しかし、昔ながらの付き合いである俺にとっては、藤ねえの高校時代は、別に違和感の無いものであったのだが。

通称、冬木の虎こと、藤村大河。高校時代は名を馳せた剣士で、剣道部のアイドルだったというのは本当の話である。
まぁ、俺にしてみれば、藤ねえが家に遊びに来て……俺に所構わずちょっかい掛けてきた事の方が、印象に残っていたのだけど。

「あれ? でも、どうしてこれが私の時の日誌だって分かったの? 見た目じゃ分からないと思うけど」
「分からいでか。中身をよく読んでみろ」

首を傾げる藤ねえに、ぶっきらぼうに言うと、藤ねえはどれどれ? と日記に目を通す。
そうして見る見るうちに、冷や汗だらだら状態になっていったのであった。

「こ、これは――――」

……まぁ、全部をあげるわけには行かないが、簡単に抜粋すると、こういうことである。
曰く、「今日のタイガ」と言うコーナーが、何故か毎ページに添付され、そこには藤ねえの悪行――――もとい、大活躍が書かれていたのであった。
クラスの男子に、スピニング・トゥ・ホールドを掛けたり、某ネコさんと大喧嘩したりと、理由は様々なのだが……。

「随分と、大活躍だったみたいだな、藤ねえ」
「うぐぐぐ、そういえば、日直になった時も、学級日誌はパートナーの子がやってくれるんで、やった、らっきー、くらいに思ってたけど……」

どうやら藤ねえは、この事をまったく知らなかったらしい。まぁ、もし藤ねえに見られてたら、確実に大惨事になる事は間違いないだろう。
その時代の人々の苦労を思い浮かべ、俺は彼らの努力に感服する思いであった。

「――――こうしちゃ居られないわ。とにかく、オトコに会いに行かないと……首謀者は間違いなく彼女だし」

と、藤ねえはそんな事を呟くと、俺が止める間もなく、だだだー、と今を掛け出て行ってしまった。
あー、やっぱり、見せちゃまずかったかな。とりあえず、真剣とか木刀とか物騒なものは前もって隠しておいたけど、後で止めに行かなきゃ行けないだろう。

「タイガもまだまだ子供よね。大人になっているんだったら、もっと余裕を持たなきゃいけないのに」
「――――それは、藤ねえだしなぁ……」

俺の返答に、イリヤはそうよねー、と納得をすると、またテレビに向き直った。
しかし、高校生にもならないイリヤのほうが、時折、藤ねえより年上に見えるのは何でだろうか? 口にしたら怒られるだろうし、言わないけど。

「――――さて、俺も行くとするか。営業妨害は、さすがにまずいしな」

頭に血が上っているとはいえ、武装していくというのなら藤ねえは徒歩である。自転車で追いかければ、十分に間に合うだろう。
わぐわぐ動物ランドに集中しているイリヤを置いて、俺は居間から出ると、自転車置き場へと直行するのだった。