〜Fate Hollow Early Days〜 

〜☆フットボーラー・子ギル〜



週末の午前中――――、暇な時間を潰すために、ふらふらと、あちこちに歩く。
川沿いの道は、休みという事もあってか、家族連れやカップルなどで賑わいを見せ始めていた。
何か、面白いものでもないかと、そこかしこに視線を向けながら歩くと――――、川沿いの銀杏並木の向こうに、サッカー場が見えた。

「そういえば、セイバーはどうしてるかな?」

サッカー場で、子供達と戯れているセイバーを見かけたのはつい最近の事。そのときは、なんとなく声を掛けづらかったんだが……。
ちょっと、様子を見に行ってみるか。トラブルが起こるとは到底思えないけど、なんとなく気になったのも事実である。
俺は、歩く方向をサッカー場へと向ける。遠目に見える、子供達の動く姿と、ボールの跳ねる音――――そして、何の違和感も無く、彼らの中にとけこんだセイバーが見えた。

ポンポンと、ボールの跳ねる音、歓声と気合の声、わぁわぁとまるで子供のように、瞳を輝かせて、セイバーはボールを追っていた。
サッカー場が一望できる芝生の上に腰を下ろし、しばし、セイバーの様子を見つめていた。

まだまだ、ボールの扱いには不慣れな点があったが、それでもセイバーは、その持ち前の身体能力で子供達をふりまわしている。
パスを受け取ると、ワンステップで大きくボールごと横に跳び、マークをはずす。マークしている方にしてみれば、目の前でセイバーの姿が消えたようにも見えるだろう。

「バカ、何やってんだよっ!」

そう言って、一人の少年がセイバーを止めようと追いすがる。セイバーは、一瞬だけ少年の姿を確認すると、十分に引き付けてパスを出した。
慌てた少年が、声を上げるが時すでに遅く――――セイバーのパスを受け取った男子が、敵ゴールにシュートをしっかり決めたのだった。

「へぇ、なかなか様になってるみたいだな」

楽しそうに、シュートを決めた男の子と話しをしているセイバー。と、セイバーに最後まで食い下がっていた少年が、皆を呼び集めて何事か話している。
どうやら、組み合わせを変えるようだった。といっても、なにやら難航しているようで……セイバーをどちらの組に入れるかで揉めている様だった。

「まぁ、入れたほうの勝ちは決定的みたいなものだし、セイバーを味方に付けたいのも分かる気はするなぁ」
「そうですね。確かに孝太達じゃ、セイバーさんは荷が重すぎますよね」

と、その時、俺の隣でのんびりとした声がした。見ると、いつの間にか俺の隣に子ギルが座って、面白そうに子供達の様子を見つめていたのだった。
どうやら今日は一人なのか、いつもの見知った蒼い方の姿は見当たらない。きっと、波止場で釣りでもしているんだろう。

「なんだ、お前も見物に来たのか?」
「いいえ、ボクは遊ぶためですよ。もともと、彼らとは旧知の仲ですし、セイバーさんが一緒とは思いもしなかったから、ちょっと様子を見てみたんですけど」

と、俺と子ギルが話をしていると、グラウンドの中央で騒いでいた子供達が、こちらに気づいたらしい。

「あ、ギルー!」
「ほんとだ、ギルだ。一緒に遊ぼうぜ!」

と、口々に言いながら、こちらへと走ってくる少年達。で、セイバーはというと、いきなりの事にポツンと取り残され、どこか寂しそうだった。
そんなセイバーに気づくことなく、少年達は子ギルに走りよる。子ギルも、芝生から腰を上げると、皆の方へと走っていったのだった。

「や、みんな、元気にしてた?」
「ああ、ギルもサッカーするだろ?」
「ギル、俺達のチームに入ってくれよ」

そんな風にわいわいと騒ぐ、子ギル&少年達のちびっこチーム。と、そんな様子を見ていたセイバーが、子供達の集団越しに、こっちに気づいたようだ。
驚いた表情のセイバーに、俺は手を振る。と、セイバーは真っ赤になって、向こうへと走り去っていってしまったのだった。

「あれ、ねーちゃんは?」
「居なくなっちゃってるね、帰ったのかな?」

と、その時になって、初めて少年達はセイバーが居なくなったのに気づいたらしい。
周囲を見渡す少年達。と、そんな彼らから、さりげなく身を離して、子ギルが俺の方に近づいて囁いてきたのだった。

「行っちゃいましたね、セイバーさん。あの様子だと、ここに戻って来そうに無いですし……おにーさんが、探しにいってくれませんか?」
「俺が、か? 別にいいけど――――お前はどうするんだ?」
「ボクは、孝太たちと一緒にサッカーをやってます。本当なら一緒に探したいけど、彼らを放っておくわけにも行きませんから」

笑みを浮かべて、そんな事をいう英雄王(小)。どうやら、少年達を統率するのを自らの役目と思っているようだった。

「セイバーさん――――あの人のことは心配ないよ。気が向いたらまた来るだろうし。それより、サッカーはどういうチームにしようか?」
「そうだな、じゃあ……」

少年達の集団に戻り、子ギルが言うと、少年達も各々、自分の意見を言い出した。
どうやら、セイバーが居なくなったことも、大した問題にはなりそうに無いようだ。

「この分なら、慌てて探さなくても良いだろうな。さて、どこから探すか――――」

腰を上げて考え込む俺の目の前で、子ギルを加えた少年達が、再びサッカーを開始した。
早速、味方からパスをもらった子ギルは……一目で経験者と分かる動きをする少年のマークを振り切ると、あっという間にゴールを決めた。
へぇ……かなり良い動きをするよな。セイバーのように、スピードで翻弄するというより、技術で相手をかわす方法を心得ているように見える。

「セイバーと勝負したら、良い試合になるかもしれないな」

呟いて、俺はきびすを返した。セイバーから子ギルへと、主役が交代しても、少年達は変わらず、元気にサッカーに興じている。
その元気な声を背に受けて、俺はサッカー場をあとにした。さて――――まずは、近場の公園内でセイバーを探してみる事にしよう。

しばらく行って振り返る――――秋の日差しの中、英雄王の少年は……心底楽しそうに、友達と遊んでいるのが遠めにも見えたのだった。