〜Fate Hollow Early Days〜 

〜リ・スタート〜



…………そして、繰り返しのその時がやってきた。
衛宮士郎の身体は、黒い獣に切り裂かれ、目的の場所にたどり着くことなく、千々に散らされる。
新たに投影という力を得たとはいえ、ただ一人の人間が、数多の獣に適うはずも無かった。

「随分と、悪趣味な結末ばかりね」

その光景、結末を天の伽藍から見下ろし、少女は嘆息する。紫陽 真由という名の少女は、自らの分身とも言える地上のかけらの不甲斐無さに溜息を漏らした。
そろそろ、終わりが近づいて来ているような気がする――――、一度は彩を取り戻したかに見えた伽藍の螺旋も、いつかは終わりを迎える。
それは、燃え尽きるロウソクが、最後の光を放つような、必然の出来事でもあった。

だからこそ、終わりを迎えるその前に、あの人に会うために色々と手を施しているが――――大元の消滅の意志が強すぎて、到底、目的の場所までたどり着けはしなかった。
それも仕方ないだろう。彼女はあくまでも仮の存在――――コピーとして、彼女はオリジナルに遥かに劣っていた。

「一人じゃ、無理か」

重ねた思考のうちで、彼女はそう結論付ける。衛宮士郎の単体では、もとより大聖杯に巣くうアレに対抗できるはずが無い。
といっても、役どころを演じる魔術師、英霊達に干渉するわけにも行かない。
彼女達の一人一人の役割――――最後の戦いでは誰一人、その役割を違えることは出来ないのだ。

黒い影を狩る者、払う者…………そのバランスが崩れれば、最後の夜が崩壊しかねないからだ。
ゆえに、今までは衛宮士郎単体での、障害の突破を目的をしていたが――――あまりにも無謀な状況に断念せざるをえなかったのだ。

「――――協力者か。心当たりが無いわけじゃないんだけど」

呟く少女の言葉の通り、一人、最後の戦いに参加せず、自らの役割を終えたとばかりに傍観に徹していた英霊が居る。
ただ、その英霊の協力を取り付けるのは、不可能ではないかと、彼女は思っていた。

そもそも、彼が協力するべき理由は無い。一応、あの人とは主従の関係を結んでいるとはいえ、それも本意ではないだろう。
彼女があの人に会いたいと願っても、彼が協力してくれるとは思わなかった。

「それでも……それが一縷の望み、か」

気だるげに溜息をつき、真由は目を閉じて眠るように身体を丸める。
置き去りにされた赤ん坊のように、寂しそうに瞳を閉じて眠る少女。世界を回す彼女は、ある目的を持って最後の夜を繰り返していたのだった。