〜Fate Hollow Early Days〜 

〜夕食・間食・夜食?〜



夕食が終わり、後片付けをする。最初の頃は、人数がかさむ毎に増える洗い物に辟易したが、最近では手早く終わらせる事が出来るくらいに慣れてきていた。
…………まぁ、慣れたとはいっても、少々疲れるのは仕方が無いことだけど。そんな事を考えながら洗い終えた食器を拭いていると、キッチンにセイバーが入ってきた。

「シロウ、少しよろしいですか?」
「ん? 何か用なのか、セイバー?」
「特に用というほどのことではありません。ただ、冷蔵庫を開けますので邪魔だったら声を掛けてください」

そう言うと、彼女はおもむろに冷蔵庫を開けると、中身を物色し始めた。
ちなみに、夕食が終わったのは十分ほど前――――セイバーは今日も沢山おかわりをして、デザートのプディングもぺろりと平らげている。

いくらなんでも、間食をするには早すぎるんじゃないかと思うんだが。

「セイバー、もうお腹が空いたのか? さっきの夕飯じゃ、量が少なすぎたってことか」
「あ、いえ、そういうわけではありません。現状で八分くらい――――行動するには最適なくらいに満足しています」
「…………」

ちなみに、食欲の秋と言うこともあってか、ここ最近――――我が家のエンゲル係数は、右肩上がりに上昇中である。
セイバーはもとより、藤ねえやイリヤの食欲が増し、さりげなく桜も、いつもより多めに野菜を採っていたりするのだった。

しかし、あれだけ食って腹八分目か…………セイバーを満腹にさせるには、あと二合くらいご飯を多めに炊かないといけないか……。
だが、さすがにもう一台、電子ジャーを増設するのもどうかと思う。今だって、炊くときは一気に七、八合――――ジャーを二台使って炊いているのだ。
さしあたっては、おかずのレパートリーをもう一品増やして、食卓に華を添えることにしよう。

「ただ…………今から、道場で修練を開始しようと思うのですが、休息時の栄養補給用に食材を確保しておこうかと」
「ああ、そういうことか。冷蔵庫の中身は、ちょっと目を離すと藤ねえあたりに空っぽにされるからな」
「はい、日々の生活の中でも、わずかな油断が命取りということを、私は大河に教わったのです」

至極、真面目な表情でセイバーは頷く。どうやら我が家の食料争奪戦は、かなりの激戦となっているようだった。
しかし、セイバーの手に持っているのは、ハムやら食パンやらの類――――間食としては、いささか物足りなそうだった。

「それにしても、そんなんじゃ味気ないだろ? そうだな――――俺も夜は暇を持て余してるし、適当に頃合を見計らって、そばでも差し入れするよ」
「よろしいのですか?」
「ああ、そばくらいなら、そう手間も掛からないし――――って、あまり間食らしくないな。どっちかって言うと、夜食の類になるし」

掛けそばという手もあるが、それだとセイバーが納得しないだろう。刻みネギ、かまぼこに卵を添えての、月見そばくらいはやらないと駄目だろうな。
しかし、寝る前にたくさん食べるのも問題かも――――いくら太らない体質とはいえ、体調を崩す原因になる場合もある。

「私は、どちらでも構いませんが。シロウの料理は、いつでも受け入れる用意ができていますので」
「――――」

いや、そう満面の笑みを浮かべられると、こっちが気恥ずかしいんだが……まぁ、セイバーの事だし、多少の過食でも体調を崩す事は無いだろ。
ここは一つ、セイバーも大喜びするくらいの、夜食を作るとしよう。

「それでは、私は道場に行っています。宜しければ、シロウも鍛錬をしに来て下さい」
「ああ、それじゃあな、セイバー」

道場へと向かうセイバーを見送って、俺は居間へと戻った。腰を下ろし、テレビのスイッチを入れる。
特に見る番組も無いので、パチパチとスイッチを入れ替えると、画面を見る事も無く、俺は横になった。
日々の生活での溜まった疲れのせいか、俺はテレビの音を子守唄に、ウトウトとまどろみに落ちていった……。



「シロウ、起きてください、シロウ」
「ん…………? あれ、セイバー?」

身体を揺すられる感触に、瞳を開けると、そこには俺を覗き込むセイバーの姿。目を開けた俺を見て、彼女はホッとした表情を見せる。
寝ぼけた頭で、周囲を見渡す。時計の針は、先ほどの位置から大幅に動いていた。どうやら、うとうととしたまま、寝入りこんでしまったようである。

「少々来るのが遅いかと思って、様子を見に来たのですが――――大丈夫ですか?」
「ああ。 悪い、セイバー。眠っちゃってて、そばはまだ、作ってないんだ。すぐに茹でるから――――」

そこまで言って、俺は言葉をとめる。寝ぼけた頭のせいか、普段考えていなかった発想が、頭をよぎったのである。

「そうだな、いい機会だし、セイバーにそばを作ってもらおうかな」
「――――え?」

俺の言葉に、セイバーはポカンとした表情で、俺を見返してきた。そんなに意外な事を言ったつもりはなかったんだが…………。

「ですが、よろしいのですか? 私はシロウや桜のように、料理に精通しているとは言い難い」
「大丈夫だよ、そばを茹でるだけだし、俺が隣についてるから――――あ、そうだ」

不意に思い出し、俺はキッチンの戸棚をあさると、あるものを取り出した。それは、機会が無ければ使われないであろう装束。
セイバーの目の前に、手に持ったそれを広げて、俺はセイバーに笑いかけた。

「ほら、セイバー用のエプロン。やっぱり台所に立つなら、エプロンは必須だしな……一応、セイバー用にライオンのアップリケ付のを用意してみた」
「私の、ですか」

セイバーは俺からエプロンを受け取ると、見よう見まねでエプロンを身にまとう。う、何だか凄く、可愛らしいんだが――――いかんいかん、平常心にならないと。
俺は、自分の愛用のエプロンを身に着け、セイバーに相対する。セイバーは生真面目に、俺の言葉を待っているのだった。

「よし、それじゃ始めるとしようか。準備はいいな、セイバー」
「はい、微力を尽くします」

俺の言葉に、厳粛に頷くセイバー。そうして俺達は、夜も更けた時分に台所で穏やかな一時を過ごす。
セイバーと一緒に作った料理――――月見そばは……ほんの少し、いつもよりも美味しく感じることが出来たのであった。